変わらぬ雪

 

12月も終わりに近づき、刺すように冷たい風が辺りを吹き抜けていく。
早足で日が暮れるに従って、更に気温が下がり、そして明りが灯っていく。
この時期特有のイルミネーションに彩られた町並みはゆっくりと華やかさを増していった。
「えっと、これで全部かな?」
クラッカー、お菓子、飾り付け用のリボンと人形・・・様々なものが入った手元の紙袋を覗き込みながらあかねが呟く。
その言葉と共に吐き出された息は真っ白で、あかねは冷えた頬を手袋で覆った。
「ああ、こんなもんだろ」
あかねより二周りほど大きい紙袋を抱えた天真が、隣を歩きながら頷いた。
クリスマスパーティをしたい、そう言い出したのは、あかねだったか、あるいは蘭だったか?
それは定かではなかったが、クリスマスのこの日、天真、あかね、詩紋、蘭の四人は森村家でパーティを開くことになっていた。
買出しを担当する天真とあかねの二人は、聖夜の明りが灯る街を並んで歩いていく。
行き交う人々の様子に目をやりながら、天真は一人、息を吐き出した。
(何でこんなことになってんだ?)
思いが通じ合い、この世界に戻ってきて初めてのクリスマス。二人きりで過ごしたいと願うのは当然のことではないだろうか。
龍神の神子として、突如見知らぬ世界に召還されたあかね。
龍神の神子を守るための八葉としてではなく、無条件で支えあうことのできる友人としてあかねを助けてやろうと思った。
突然重荷を背負うことになったあかねを、自分自身として助けてやりたい。
そして、その思いはいつしか別のものへと変わっていったのだ。
「天真くん?どうしたの?やっぱり重い?」
天真の胸中を知らず、尋ねるあかねに、天真はほんの少し不機嫌な声で告げる。
「何でもねぇよ」
詩紋や蘭と過ごすのが、決して嫌なのではない。けれど・・・
首を傾げていたあかねは、天真が怒っているわけではないとわかり、楽しげな様子で話題を変えた。
「帰る頃には、詩紋くんのケーキも出来上がってるよね?楽しみだね」
今ごろ、詩紋は天真の家でケーキ作りに励んでいるはずだった。一緒に残った蘭がそれを手伝っているだろう。
お菓子作りの得意な詩紋が作るケーキ。それを想像するだけで、自然とあかねの顔に笑みが浮かぶ。
「あ!」
小さく声をあげたあかねは、ふと笑みをこぼした。
そのあかねの様子に、天真が訝しげに眉を寄せる。
「何だよ?」
「あのね、もし八葉の皆がここにいたらどんなだろうなって思って」
あかねの瞳が輝き、ちょっと考えるように空を泳ぐ。そして再び口を開いた。
「泰明さんだったら、クリスマスの意味とかツリーの意味とか、いろいろ知りたがるかな?」
向学心旺盛な泰明ならば、あっと言う間に自分達以上に詳しくなってしまうかもしれない。納得の行くまで、とことん調べるのだろう。
「ああ、でも永泉と一緒に変な勘違いもしそうだけどな」
天真の言葉にあかねは笑いながら頷いた。
「他の皆はどうかな?今ごろ風邪とかひいてないといいんだけど」
「頼久は大丈夫だろ。鷹通は働きすぎてまずいかもな?」
確かに、普段から鍛錬をかかさない頼久が風邪をひくことはないだろう。そして、天真の言う通り、仕事に熱心すぎる鷹通が体を壊すのも考えられることだった。
「うーん、でも友雅さんが止めてくれるんじゃないかな?」
捕らえどころがなくて、本心を知るのが難しい友雅。それでもあかねは、彼がやさしい人だと信じている。
あかねの言葉に、天真は渋々ながらも頷いた。
「皆でパーティができたらよかったね」
広場に立てられた大きなツリーを見上げて、あかねが囁くように口にした。
静かなその口調に天真はもう一度頷く。
「すっげー、騒がしくなるぜ」
「うん、イノリくんとか、誰よりも先に駆けつけそうだよね」
「ああ。勝手につまみ食いでもしてんだろ」
容易にその様子が想像できて、二人は顔を見合わせて笑い声をあげた。
離れていても、彼らの行動が目の前に鮮やかに浮かび上がってくる。心の中から決して消えない大切な絆。
ふと――
見上げた空から、ふわりと雪が落ちてくる。ひとつひとつは儚い残像のような雪。
「あ、雪だね」
ゆっくりと手のひらに降る雪は、あっと言う間に溶けて消える。
過ごした時間はこの雪のように、目の前には残らない。はらりと舞い降りては消えていく。
それでも、心に降り積もる思いはあるから。時間も空間も乗り越えて育つ想いはきっとある。
幻のように、何一つとして目に見える証の残らない、遥かな場所での日々。けれど、残ったものは確かにある。
そして、その中で芽生えたもう一つの想いもきっと変わることはない。
友人だから、龍神の神子だから、そう言い訳していた思いが隠し切れないほど大きくなった。
八葉として選ばれたことは、自分の気持ちを自覚するための一つのきっかけだったかもしれない。
あかねが辛いとき、それを支えるのが自分であればいいと、そう願った。
自分以外の誰かに守らせたくはない、自分以外を頼って欲しくはない。子供のような独占欲だと知りながら、そう思わずにはいられない。
守られるだけの存在ではない。他人を包み込むことのできる強さ。
あかねと会って、自分は変わった。
蘭がいなくなったことで自分を責め、失うことを怖れるだけだった自分に、前へ向かう勇気をくれた。
あかねが困難を乗り越えていくとき、前へ向かって進んでいくとき、その隣を歩んでいきたい。
ずっと・・・
「わわっ!」
いつの間にか、雪はうっすらと地面を覆い始めていた。その雪で滑ったらしいあかねが、思わず天真の腕にしがみつく。
体勢を立て直し、ほっと息をついて離れようとするあかねを、天真は引きとめた。
空いている方の腕であかねの手をとると、呟きに似た声で告げる。
「そのままつかまってろよ」
「え?でも」
「いいから!あー、その危ないだろ!」
怒ったように声を大きくして天真は視線を逸らした。その顔がわずかに赤いことに気づき、あかねは、黙ってうなずき腕につかまった。
「あったかいね」
陽だまりのように暖かい笑顔を間近で見せるあかねを、天真はそっと抱き寄せて口を開く。
「来年は・・・やっぱ何でもねぇ!」
口には出さないけれど、その想いはきっと同じ。
言葉にならなかった想いに、あかねはそっと腕の中で頷きを返した。
来年のこの日、共に過ごせることを祈って――

 

 

 

SAK様『Aerial beings』

http://amdsak.hp.infoseek.co.jp/

 

≪SAK様コメント≫

クリスマス記念のフリー創作として書かせていただきました。

ネオロマンス・フェスタ4横浜で、天真のクリスマスメッセージを聞いた途端、

後半のシーンが思い浮かんでしまって作った話です。
あまりにもツボなメッセージに壊れながらも、創作につなげました(笑)
つたない代物ではありますが、クリスマスプレゼントとしてどうぞお受け取りくださいませ♪

[涙の一言]

SAK様のサイトで2002年クリスマスフリー創作として

UPしてあったものをいただいてまいりました!

さすが地の青龍神子のSAK様! “天あか”物を書かせる

と天下一品です!(≧▽≦)

X’masの街を歩きながら遠く離れた京にいる八葉たちに

思いを馳せる二人…どんなに離れていても心はつながってい

るのですね。

天真くん、クリスマスの街をあかねちゃんと二人っきりで、

しかも手までつないで歩けて、夢が叶って、よかったね!

(クリスマスメッセージでそれが夢だと天真くんが言ってい

たのです〜v(^。^))

でも、今年はパーティーはみんなで…か。

来年はあかねちゃんと二人っきりでとびきりのクリスマスを

過ごせるとよいね!

SAK様、素敵でほんのりラブラブな創作をありがとうござ

いました。

 

SAK様のサイトへは『リンクのお部屋』からどうぞ

 

 

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