+ 案内 + + 伝言 +
+ 新井素子 +
チグリスとユーフラテス 集英社文庫 幸福と不幸の連鎖度 ★★★
惑星ナインの「最後の子供」ルナ。彼女は人のいなくなった世界でコールドスリープについていた人々を起こし始める。『惑星ナインの逆さ年代記』
ハードカバーが発売された時からタイトルとコピー(上の2行)に惹かれて読みたかった作品です。文庫になって手を出せたのですが…。最初に長年私が想像していた主人公ルナの姿と実物とのギャップに愕然としました。きっと実写は不可能です。でも、「あれ」が正しい彼女の姿なのですよね。(誰でも年はとるものです)サスペンス調でハラハラする上巻と、静かで、でもそこに大切なもののある下巻。読み終わってしんみりとして「よい本だったな」と思いました。
                                                          2002.7.15

 

+ 大原まり子 +
戦争を演じた神々たち 2 (株)アスペクト SF神話度 ★★★
謎の軍隊が天を覆う宇宙を舞台にしたSFシリーズの2冊目。前作よりも「争い」と「神話」の部分がクローズアップされた感がある。写真と各話の英字タイトルが描かれた表紙デザインが印象的な本。
「カミの渡る星」…惑星アテルイを舞台に、流刑された男がアテルイをクデラ軍との衝突から守る為に奔走する。日本の言葉がたくさん登場する。
「ラブ・チャイルド(チェリーとタイガー)」…兄と妹の物語。人のつながりというのは不思議なものである。
「女と犬」…謎の女と犬が繰り広げる神話。地球滅亡を描く。まさか地球崩壊の場面に遭遇するとは思わなかった。さすがSFだ。
「世界でいちばん美しい男」…惑星デルタに墜落したクデラの調査員。彼は緑の恐竜と出会うが、彼女には自分でも知らない秘密があった。進化の神話。前話「女と犬」の姉妹編である。
「シルフィーダ・ジュリア」…クデラ軍の対抗勢力であるキネコキスの興りを描いた作品。まさにカバータイトル「戦争を演じた神々」に相応しい作品。兵士ジュリアが騎乗するシルフィーダという翼竜型戦闘機が美しい。
                                                          2003.5.1
戦争を演じた神々たち (株)アスペクト 争いと戦い度 ★★
謎の船隊が天の一部に延々と連なる宇宙を舞台にした短編集。それぞれの物語は独立しているが、それぞれに絡み合い1つの神話世界を形成している。「争い」と「神話」をモチーフにしながらも、ブラックユーモアのに溢れた一冊。
「天使が舞い降りても」…作用と半作用の物語。ちょっと難しかったので理解が足りない。
「けだもの伯爵の物語」…変身マシンを手に入れた伯爵の冒険。冒険そのものも面白くはあったが、それよりも、最後のオチが笑えた。
「楽園の想いで」…盗賊になった女王陛下の話。箱入りのお姫様が人生を経て、たくましい盗賊になっていく様が頼もしい。けっきょく本当は誰も「ただの人間」でしかないのだろう。
「異世界Dの家族の肖像」…その世界には3種類の生物が住んでいた。世界形成の1つの神話。くるくると変化していく視点が面白かった。
「宇宙で最高の美をめぐって」…宇宙1美しい人工物をめぐっておこる争い。「最高」の物をめぐって、人は善にも悪にもなるという寓話。作中にてキネコス軍の謎の一部が解明されている。
「戦争の起源」…楽園的世界に資本主義社会の病巣を持ちこんだ男の物語。思わず、今の世界情勢を振りかえってしまった。(…ちょっと笑うに笑えない状態。)
                                                          2003.3.9

 

+ 小野不由美 +
月の影 影の海 講談社文庫・ホワイトハート文庫 前半苦戦度 ★
平凡な女子高生のはずだった中嶋陽子が、突然見知らぬ男に連れてこられた異世界で成長していく物語。上巻でこれでもか、これでもか、というくらいに主人公が苦しい体験をしていて読むのが辛かったです。それでも、一気に読んでしまいました。陽子が精神的に強くなっていく様はたのもしい限りです。
風の海 迷宮の岸 講談社文庫・ホワイトハート文庫 泰麒が不憫度 ★★
蓬莱から帰ってきた麒麟、泰麒は王を選ばなくてはならない。けれども人として育った彼はその術がわからなかった。幼い麒麟の苦悩の物語です。泰麒が素直で優しい子どもなだけに、苦悩する様は痛々しいです。切実に幸せになって欲しいと思わずにはいられないのですが…『魔性の子』に続いてしまうのです。

 

+ 恩田陸 +
図書室の海 新潮社 とりとめなし度 ★★★
短編集。ミステリィ、ファンタジ、SFといろいろな作品が楽しめる。1つで完結した作品と完結しない作品があるので当たり外れが多い1冊。
「春よ、こい」…時間の渦に飲まれたような話。春の桜に和歌は似合うなと感じました。
「茶色のこびん」…1人の女性社員の秘密をさぐる話。突っ込みどころとしては「茶色なんかい!」
「イサオ・オサリヴァンを捜して」…謎の兵士イサオ・オサリヴァンを捜す話。最後まできてSFだったのかと唖然としました。
「睡蓮」…『麦の海に沈む果実』のヒロイン里瀬の幼少時代。これだけ読むとあまりピンときません。どうも『夜啼く鳥は夢をみた』の影響が強いので、睡蓮の下に沈んでいるのは少年というイメージしかもてません。
「ある映画の記憶」…海の記憶にまつわるミステリー。『青幻記』の映画の場面が印象的でした。
「ピクニックの準備」…長編小説『ピクニック』の予告編。予告編って何か起こりそうで何もないまま終ってしまうので、少々腹がたちました。
「国境の南」…喫茶店を舞台にしたサスペンス・ミステリィ。こういう犯罪ってありそうで恐いです。
「オデュッセイア」…SF作品。動く大地ココロコの年代記。面白かったです。
「図書室の海」…『6番目の小夜子』の番外編。関根秋の姉、夏の物語。これも単独で読むとあんまり…。
「ノスタルジア」…ノスタルジアをテーマにした話。『3月は深き紅の淵』の最終章みたいなとりとめない幻想。
                                                          2003.3.16

 

+ 新堂奈槻 +
FATAL ERROR5 信仰   ぼけぼけ神様ズ度 ★
偶然の成り行きから天の神と地の神の両方の力を受け継いでしまった青年と、彼を見守る神様ズの話。
一郎大暴走の第5話。「果たして本当に一郎の力なのか?」という疑問が残ってるのですが、神様達(神様ズではない)はそうだと信じてしまっている様子。次回は佳境でしょうか。あと2話くらいで終りだそうです。それにしても…。第5話で出番の増えた嘘吐きな神様と生真面目な神様各1名。新たな神様1名。女版松本一郎が1名。事態を知っていて面白がっているとしか思えない、未だ天高くにいる「あの馬鹿」1名。未だ名前しか出てない親玉神様1名。…登場人物が増えすぎです。まだ5巻なんだけどなぁ。
                                                          2003.12.17

 

+ 田中芳樹 +
黒蜘蛛島
薬師寺涼子の怪奇事件簿
光文社カッパ・ノベルス 特撮番組度 ★
バンンクーバーで日本人男女の死体が発見された。捜査協力の依頼により薬師寺警視と泉田警部補がカナダへ渡航する。そこで涼子はハリウッドの帝王グレゴリーキャノン2世のスカウトを受けるが。
ドラキュラも避けて通る女警視、薬師寺涼子が活躍(暗躍?もとい、明躍?)する怪事件シリーズ第4弾。相変わらず完全無欠の主役(…なぜかヒロインと呼びがたい)の涼子。そのせいか悪役が今一つ物足りなかったです。けっこうあっさり退治されてしまいました。相手が悪いから仕方ないですが…。せめて、もうちょっと骨のある(つまり涼子が苛めがいがある)悪役は登場しないかしら?泉田警部補のライバルになるような相手でもいいし…。次回作に期待というところです。
                                                          2003.12.13

 

+ 藤原安寿 +
ふりむいた1000人目の天使 幻冬舎文庫 癒し文庫度 ★★
色彩の綺麗な挿絵が目をひく絵本風の文庫本。8編の天使が登場する童話が収録されている。「少年と雪の子」「メリーゴーランドの白い馬」「階段の上にいた3人の天使」「星に灯りをともす天使」「時間を盗んだ少年の話」「はじめてのサヨウナラ」「黄金の猫伝説」「嘘つきなおばあさんの日記」。どの話も気持ちがほこほこと暖かくなるようなものばかり。ちょっと疲れたなと思ったときに、軽くページをめくって元気をとりもどせる。個人的に好きなのは「星に灯りをともす天使」。最後に疲れて仕事を忘れてしまうというオチが微笑ましかった。
                                                          2003.1.21

 

+ アーシュラ・K・ル=グウィン (村上春樹訳) +
帰ってきた空飛び猫 講談社文庫 世間には「いろんな人間」がいる度 ★
翼の生えた猫たちの冒険を描くシリーズ第2弾。S.D.シンドラーのイラストに惹かれてしまいました。田舎の農園で幸せに暮らす空飛び猫の4兄弟。ある日、お母さんに会いたくなった年下の猫たちは、彼らが生まれた都会のゴミ捨て場を目指しての旅に出ました。はたして、彼らは無事にお母さんに会えるのか?
羽根のある猫という変わった姿ながら、好奇心いっぱいに頼もしく生きる猫たちが愛らしいです。こういうファンタジィは幸せな気持ちになりますね。旅立ちがあって、冒険があって、ちゃんと最後に着地する。王道パターンと言われればそうですが、王道パターンというものは案外ばかにしたものではないのです。安心して心から楽しんで読めるのです。それって素敵なことだと思います。(それに王道パターンすら、ちゃんとこなせない作品だってたくさんあります)話がそれました。村上春樹さんが「あとがき」でファンタジィについて語ってます。最近、あまりファンタジィが楽しめなくなっていたので、この「あとがき」はちょっと嬉しかったです。
                                                          2002.12.01

 

+ アリス・ホフマン(野口百合子訳) +
恋におちた人魚 アーティストハウス ちょっと思い出しメルヘン ★★
クレアとヘイリーにとって今年の夏は最悪だった。夏が終わるとクレアは遠くへ引っ越すことが決まっていたし、2人がいつも遊んだビーチ・クラブまで取り壊されることになってしまった。夏が終わらなければよいと願う2人の前に嵐に流された人魚が現れる。ビーチ・クラブの少年に恋をしたという人魚。果たして、2人は人魚を助けられるのか?
久しぶりに児童文学を読みました。どうにもならないこと(引越しや取り壊し)を知っていながら、人魚の恋を助けようとがんばる主人公の2人がいじらしいかったです。ちょっとだけ明るい気分になれます。大人も楽しめるメルヘンチックな物語でした。
                                                          2003.5.21

 

+ ジェイムズ・ディプトリー・ジュニア(訳:浅倉久志) +
たったひとつの冴えたやりかた 早川文庫 ザ・コンタクト度 ★★
銀河系の辺境にある「リフト」という場所を舞台にした3話の物語。図書館のレファレンスが、銀河系の歴史フィクションを学生に紹介するという形式で物語は進む。このレファレンスが優秀なお陰で、第1話から第3話までが大変読みやすい順序で並んでいる。SF小説に慣れなくていなくても、あまり抵抗なく読めた。
「たったひとつの冴えたやりかた」…誕生日にもらったスペースクーペを改造し、1人宇宙の旅へでた少女は未知の生物に出遭う。お互いに心を通わせた両者だったが、2人を待ちうける運命は残酷なものだった。3編中1番の秀作。
「グットナイト・スイーツハーツ」…サルベージ船の船長が昔の恋人を助けるため、宇宙船を襲撃した奴隷商人と戦う冒険。あまりパッとしない洋画を連想する中身だった。本で読む分にはそこそこ。
「衝突」…リフトの対岸の宇宙圏とのファースト・コンタクトにまつわる物語。いつ、全面戦争が始ってしまうのかとハラハラし通しだった。宇宙人サイドから書いてある部分もあって面白い。
                                                          2003.1.21

 

+ J・R・R・トルーキン +
指輪物語1 旅の仲間<上1> 評論社 本物ファンタジー度 ★★★
「指輪」を巡る壮大な冒険物語。2002年に3部作の第1部が映画公開されました。
最初の100ページほど(ボビットという種族の歴史や習性などについて書かれている歴史資料みたいな部分?)を読み終わるまでがなかなか辛かったです。そこを通り越すぎると、とたんに勢いよく読み出せます。文庫本の第1巻は主人公のフロドがボビットの住む「ボビット庄」を旅立つまで。まだ序章なのですが、ここまで読んですでに1つ冒険を終えたような気分です。主人公フロドの思慮深さや従者のサムの意外な決意、ピピンほか友人一同の隠れた洞察力等、ボビット達がみせる見かけとは違った意外な一面が新鮮で面白いです。

 

+ J.K・ローリング +
ハリー・ポッターと炎のゴブレット 静山社 実は序章度 ★★★
夏休みのある日、ハリーは夢をみた。かしずくワームテールと大蛇。そしてソファに座った謎の影。夢から覚めたハリーは、ヴォルテモード卿につけられた額の傷が酷く痛む。その後、グゥイニッチのワールド・カップや3大魔法学校対抗試合など、次々に行われるイベントの中で、密やかに、ハリーや魔法界を脅かすような事態が進んでいく。そして、ついに来るべき時がやってくる・・・。
ハリー・ポッターシリーズ4巻。だんだん、ストーリーがシリアスへと突入してきました。下巻の最後1/3…暗いです。今回のメインは3大魔法学校対抗試合。ハリーが、がんばってハーマイオニーばりに呪文を覚えてます。試合の第1の課題辺りから、読書スピードもどんどんアップ。下巻は一気に読みました。登場人物が増えてくるのでちょっと消化不良を起こしかけています。たまに名前を忘れます。そういえば、4年生って14歳だったのですね。(小学校4年だと思ってました)日本だと中学生くらいか?まだまだ、ズッコケることも多いですが、ハリーが大分かっこよく成長してきました。がんばれ!
                                                          2002.12.10

 

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