+ 浅田次郎 + | ||
天切り松闇がたり3 初湯千両 | 集英社 | ちと、センチ?度 ★ |
留置所を舞台にした説教シリーズ第3段、もとい大正時代を舞台にした義賊シリーズ第3段。回を重ねるにつれて説教節にも慣れてきたといはいえ、まだまだ面白いです。 「初湯千両」…虎と松蔵が年越しの湯屋で出会った子供は…。虎也の過去がほろ苦い物語でした。 「共犯者」…地方成金に仕掛けた百面相の書生常の大詐欺。常兄って、なんでも有りな気もします。 「宵待草」…カフェでお近に声をかけた男は竹下夢路だった。クリスマスのロマンス。カッコイイのに初心で不器用なお近姉がかわいく見えます。 「大楠公の太刀」…黄不動の栄治が見舞った病の女。彼女は伊藤博文により楠正成の太刀の名を与えられた江戸の名妓「小龍」だった。死期の近い彼女のため、栄治はなんとか太刀「小龍」を見せてやろうと考えるが…。有名人がよく登場する作品だとは思っていたけど、とうとう森鴎外まで出てきてしまいました。粋でかっこよかったのは、何も目細の一家だけじゃありません。 「道化の恋文」…康太郎が松蔵にひきあわせた府立一中生、仁多。学校で1番の秀才という彼は日本一の道化を父にもつサーカス育ちの少年だった。そんな仁太に女子学習院の女生徒から恋文が届いてしまい3人は大騒ぎに…。仁太父子も切ないのですが、ラストがなんとも切ない淡い恋の物語でした。 「銀次蔭盃」…松蔵が持つ2つの盃。それは、目細の安と仕立て屋銀次の物。盗人にあるまじき2人親を持つにいたった松蔵の秘めた物語。銀次が、さすがは目細の安の親分という貫禄でした。 2003.3.14 |
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天切り松闇がたり2 残侠 | 集英社文庫 | 大正ロマン度 ★★ |
再読です。以前にハードカバーで1度読みました。天切り松シリーズ。粋でいなせでカッコイイ、大正義賊達の繰り広げる艶やかな物語。 「残侠」…初盆の賭場で寅兄が江戸の残侠を連れかえる話。正体を聞けば驚きです。 「切れ緒の草鞋」…雑誌掲載時は残侠の後編でした。こういう男の人って今はいないですよね(いてもたぶん、煙たがれるんだろうな)いいですよね。「俺は男だ」って台詞。かっこいい。 「目細の安吉」…タイトル通り目細の親分の中抜き話。優雅な親分です。的が的だけにスカッとします。 「百面相の恋」…常兄の下宿先に立ち退き話が。下宿先のおばさんと娘を救うため常兄がはったヤマは…。松蔵の「ハオ、ハオ、ハオ」が妙に胡散臭くて似合ってます。 「花と錨」…振袖お近にストーカー(?)かと思いきや、純愛話。汽笛の音を響かせたロマンスの世界です。 「黄不動見参」…順番でしょうか?栄治兄の番です。松蔵が栄治兄から初めて天切りを教わる話。なんだか天切りの講習会のようでした。松蔵視点なので自分が説明を受けてるようです。 「星の契り」…左文字楼で松蔵が一目惚れした。相手は初見世予定の花魁「初菊」。松蔵は思いを遂げられるのか?…さわやかです。場所が遊郭とは思えない(笑)松蔵はつくづく縁に恵まれてます。 「春のかたみに」…松蔵が警察に呼び出されて渡された2つの遺骨。それは父と母の遺骨だった。春満開の桜が胸に染みます。 2002.12.28 |
+ 恩田陸 + | ||
ネバーランド | 集英社 | ありえないからネバーランド?度 ★★ |
現実の高校生はこんなに爽やかじゃないと言われても、やっぱり爽やかなものに惹かれます。 |
+ 篠原一 + | ||
誰がこまどりを殺したの | 河出書房新社 | お終いと始まり度 ★ |
圭は、人の住んでいない建売住宅のテラスで、眠りつづける人形と出遭う。ノイズだけのラジオに耳を傾けたまま眠る人形。人形は言う。「もうすぐ世界は全て海に沈むよ」
Mという名の女をキーワードに断片的に語られる、絶望と希望の物語。 横書きの文字と断片的な書き方で慣れるまでは読むのに疲れた。幻想的(ファンタジィでなくイリュージョン)な世界観がタニス・リーを思い出させる。渇いている。というのが読んでいる最中の感想。160ページ程度の作品であるが、150ページまでは絶望と渇きと飢えに満たされていた。それがラスト10ページで希望に変わる。途中で読むのを止めなくてよかった。 2003.5.2 |
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ゴージャス | 角川書店 | 永遠の反抗期度 ★ |
椎名瞳子。男が生まれる予定であったのに女が生まれてしまい急遽命名された行き当りばったりな名前。彼女が12の時、昭和が終わり、同時に彼女は中学へと進むことになった。そして、4年。高校2年の5月。修学旅行をはさんだ一月に瞳子は密やか且つ猛烈な行動をおこす。大人未満、子供以上の青春小説(だろう)。 読んでいる間中、頭の中にあったのがやまざき貴子の「若菜&紫乃シリーズ」。別にソノオ(苑緒)とソノミヤシオ(園宮史緒)という字の相似だけじゃないだろう。なんとなく、女子高校生の雰囲気があの時代の少女漫画に近いのだ。故に、個人的にはかなり好きな世界。あまり飾らない、一体何処でセンテンスが切れるんだよと思う文章も、これはこれで好もしい。タイトルの意味が最後の2ページで漸くわかった。「豪奢」=「ゴージャス」。たぶん、きっと。 2003.3.12 |
+ 嶽本野ばら + | ||
ミシン | 小学館 | 破滅的乙女世界度 ★★★ |
乙女という存在を描いた中篇集。地に足のついた現実的小説を読みたい方は読まない方が無難です。全体に漂うセンチメンタリズムと淡々とした独白風の語り口調が良い感じでした。 「世界の終わりという名の雑貨店」…なりゆきで雑貨屋をやることになった青年と店に訪れた1人の少女の物語。センチメンタリズムが充満した物語の空気と筋立ては私的には大変好みでした。が、主人公の不甲斐なさに背中を蹴飛ばしたくなりました。 「ミシン」…大正乙女の世界に惹かれる主人公がパンクバンドのヴォーカル「ミシン」に恋焦がれ、執念によって彼女に近づく物語。これはホラーかしらと思いつつ読みました。乙女の世界にはお百度参りもOKのようです。「世界の…」もそうだったのですが、少女の方が男より精神的にかなり強いです(良くも、悪くも) 2003.2.28 |
+ 長野まゆみ + | ||
ユーモレスク | マガジンハウス | 骨格美形度 ★★★ |
隣家の長女が死んだ。部屋から聞こえるピアノのユーモレスク。それを機に主人公は数年来行き来のなかった隣家の同級生と顔を会わせる。彼女の弟がいなくなってから7年目の季節だった。 久しぶりに長野作品を読みました。しみじみしました。良いです。主人公の家族や、ちょっとナゾのある高校生和(たかし)、それにお隣の比和君、彼等がいろんな物と決別して、新しい世界へと進んでいくところがしみじみなのです。もはや、古き良きになってしまった「日本のちょっと前の家族」(がんこ親父の世代ではない)が思い起せます。懐かしい日本の空気です。「しみじみ」からは多少離れますが、デパートの紳士服売り場にいる主人公の男性批評眼はそれだけでも面白かったです。 2004.7.7 |
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猫道楽 | 河出書房新社 | どうにも道楽度 ★★ |
大学生の一郎は学校の掲示板で猫シッターのアルバイトをみつける。住みこみで破格の報酬付きという好条件に、一郎は早速面接を申し込んだが…。 猫飼亭に住む風変わりな4人兄弟を軸に彼等とそこを訪れるはめになった男達との交流(?)を描く。ちなみに「猫」とはそこを訪問する客の方だそうだ。猫飼亭の内部の描写は豪奢な感じがして、とても好き。物語の持つ空気は長野作品に一貫して保たれてるもので読んでいて心地良い。ただし、内容は『夏至南風』並なので、「男同士なんてイヤだ―!!!」という方は読まない方が無難だろう。(芳白の隠語が飛び交う台詞などは私としては面白いと思うけど) 2003.3.15 |
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兄弟天気図 | 河出書房新社 | 夏の怪談度 ★ |
14歳の弟史は姉の水天宮参りにつきあった帰り道で、「姉と兄の間にはもう1人の兄がいた」と聞く。その日以来、弟史は時々見知らぬ少年をみかけるようになる。どことなく兄似た学生帽の少年。キリリンコロン。狗張り子の音とともに現れる少年は、6歳で死んだ兄なのか。 河出書房が出版した『ものがたりうむ』というシリーズの1冊。子どもから大人までを読者対象にしている。読者対象が幅広いためか、文章がとてもシンプルで読みやすい。長野作品独特の文字使いもほとんどない。その代わりに、今は消えていこうとしている下町風の言葉が物語の中にいくつも紛れこんでいる。耳慣れぬ言葉なのに、どこか心地良い言葉。このまま消滅してしまうのはもったいない気がする。キリリンコロン。読み終わって、遠くで夏の水天宮の狗張り子の音が聞こえた気がした。 2002.12.14 |
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夏至祭 | 河出書房 | 懐かしい風景度 ★★ |
初期作品「野ばら」の更に原型だそうです。あちらこちらに登場する小物や風景に、読んでいると懐かしい気持ちになります。(実際に私の記憶にあるものよりも古い時代の物なのに不思議です)全体に花の香りがする物語でした。出会いと別れの物語でもあります。別れの瞬間は寂しいですが、次の出会いを思えば当然のことなのですね。 | ||
僕はこうして大人になる | 大和書房 | 思春期まっさかり度 ★ |
「大人」ってどこからがオトナなのでしょうか。その一定義。長野作品は読んでホッとする物があります。 |
+ 梨木香歩 + | ||
西の魔女が死んだ | 新潮文庫 | 良質滋養本度 ★★ |
授業中に届いた1本の電話。呼び出されたまいは母と供におばあちゃんの元へ向う。まいは小学6年生の1年間をおばあちゃんの元で過ごしていた。「魔女」と供に「魔女」を目指して過ごした暖かい日々…。 日本児童文学協会新人賞、新美南吉児童文学賞、小学館文学賞受賞作品。こんな風に書くとなんだか仰々しいですが、日向の匂いが心地好い1冊でした。解説で早川司寿乃さんが「太陽の光をプリズムで分解して、そのできた色を混ぜたり重ねたりして描いた絵」というのがわかるような気がします。おばあちゃんの生活知識もちらほらと登場して、実用的な部分もありました。ちょっと試してみたい感じです。久しぶりに読んだ気持ち晴れる1冊でした。 2004.2.21 |
+ 村上春樹 + | ||
ノルウェイの森 | 講談社 | 既にノスタルジィ度 ★★ |
飛行機の中で流れた音楽「ノルウェイの森」。その歌に記憶を喚起された主人公は過去へと思いを馳せる。自分が二十歳を向えた季節。その季節に通り過ぎていった人々。そして、直子という存在。彼が直子に再開したのは大学へ入ってから初めての夏のことだった。記憶はフィルムを回すように彼を20歳の青年に引き戻していく。 映画のフィルムのように風景が想像できる作品だった。初めから全てが過去の出来事だとわかっているため、全編に強いノスタルジィが漂う。読み始めは普通の恋愛小説かと思っていたが、そうではなく、人との関わり方を描いた成長物語だった。唐突に訪れる怒涛のラストシーンがとても印象的だ。 2003.3.21 |
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