「はらたまな悩み相談室」

相談内容:

毎週楽しみに、読んでいます。
で、早速ですが相談です。
僕は花粉症です。今年は「昨年ほどではないな」と油断していたら痛いめにあいました。
来年に備えてなんとかしたいと思っていますが、貴編集長様なら何か良い知恵があるのではと期待しています。(以下略)

 大阪市某所。安物タイルの剥がれたところだけを貼りなおした外壁が悲しげな4階建てのビル。その2Fの奥に『相談室』はあった。

 グレーと水色で無難にデザインされた作業服姿の若い男が小走りでやってきた。『相談室』に用事があるらしい。
「はらたまさん。依頼が来ています。悩み相談です」
 若い男は名をSといった。複雑な表情だ。なにしろ『相談室』の本来業務は相談に乗ることではない。彼らの所属する組織の正式名称は『開発室』といい、この部屋の本来の用途は新商品の開発や製品の品質チェックのための試験作業なのだ。
 さらにSは今日も本来業務の一部である『営業支援』の一環で、納期遅れになっている提案用図面を準備している最中であったのだ。先輩社員である目の前の男に『相談』で余計な業務を増やされてはかなわない、と思っていた。
 Sにはらたまと呼ばれた男は、そんな心配を知っているのか、なにやら測定機器のような物に向けられていた顔をあげ、幾分明るい表情になったように見えた。
 迫力とか、威厳といったものと縁遠い風貌である。年は−。よくわからない。年齢不詳という奴だ。見る者によって20代とも、40代とも映るのではないだろうか。背は高くも無く、低くもない。太ってもいないが、頭だけが妙に大きくアンバランスだ。
「本当?いやあ、何年ぶりかねえ。相談受けるのなんて。誰から?なんて?」
 はらたまはやはり威厳の全く感じられない高い声で軽く返事を返した。
 予想していた反応であった為、Sは図面のことは一旦諦めることにした。

「で、花粉症について何とかしたいという相談な訳だな」
「そうです。」
「……えらく時期はずれな相談だなあ。こちらからの回答が10ヶ月後になるとでも思っているのか?」
「そうですね。『来年までに何とかしたい』と依頼メールにも書いてありますし、そういう意味じゃないですか?」
「……だがせっかくの相談だし、早めに回答してやりたいものだね」
 言いながらはらたまは測定機器のスイッチを切り始めている。今日の本来業務を先送りにしたな、とSは読みとった。
「Sは花粉症だったな。確か」
「はい。」
 確か、などというものではない。つい2ヶ月ほど前は症状もかなりひどく2人の間で花粉についての話題が上らなかった日が無いほどだったのだ。
「俺は違う」
「……」
 しかし、2ヶ月前のはらたまは時折「目がチカチカする。どうしよう。オロオロ」などといっては花粉症の発症Xデーを恐れる日々にあったのだ。そのころの事を調子よく忘れてしまっているようだ。
「花粉症については残念ながら発症してしまった人の気持ちについてはわからん。今回は君が頼りだ。S君」
「……」
「身近に今でも症状の続いている人間はいるかな。ヒノキとかブタクサとか言い出すと年中花粉症の人間もいるんだろう?」
「私はスギだけみたいですし、Yちゃんもスギ、暖房設備課のY課長もスギだけでした。確か。」
「Y課長は子供の頃、家の近所にある山に入ってはスギの枝を揺すって『煙幕やあ!』とか言って遊んでいたそうだ。それが今の花粉症の原因だとか言ってたぞ」
「昔は花粉症なんてなかったんですよね」
「そうだ。知らないということは恐ろしい。今現在何気なく行っている行為も後々恐ろしい病気の原因になっているかもしれん」
「……」
「もう一つ怖い話がある。高校1年の時だったと思うが生物の先生で面白い人がいてな。」
「どんな先生だったんですか」
「ミトコンドリアのことはミトコンドリアに聞いてみなわからん。とかいうようなことをよく言う先生だったな。とにかくその先生が植物の受精について話をしていたときだ」
「花粉の話が出たんですね」
「そうだ。受精のプロセスは知っているか?」
「いえ、よく覚えていません」
「まあ、俺も詳しく聞かれると自信がないがな。とにかくオシベから花粉が飛び立つだろ」
「はい」
「そして、メシベにくっつくよな?そして花粉の中にある精細胞がメシベの根本にある胚まで到達すればメデタク受精と相成る訳だ」
「実がなりますね」
「問題は受精までのプロセスだ。花粉から精細胞を送り込むためのパイプ『花粉管』が伸びて行くんだな。ニュルニュルと」
「……解っちゃいました。その話」
「怖いだろ?『また今年も始まっちゃいましたよ。ズルズル』とか言ってる君の鼻の粘膜で同じことが起こってるんだぞ」
「でもそれってはらたまさんの粘膜でも起こってるってことですよね」
「それを言うな。鼻がムズムズしてきた」
「花粉管がにょきにょきと」
「うお〜。やめてくれ。おい、君が余計な話してるから文書サイズが……」
「あ。4kB」

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