花粉の後日談〜今回は90%くらい実話
「マスクが手放せなくなるんですよ。マスク依存症です」
S君は言った。依然花粉談義は続いているのである。
「町中では恥ずかしいので外すときもありますけど、家の中では常にマスク着用です」
「ほう。」
「寝るときも着けてますしね。Yちゃんも寝るときはマスクを着けるって言ってましたよ」
…私も調べた。花粉症の症状は朝起きた瞬間が結構ひどいらしい。夜の間に部屋に降り積もった花粉やハウスダストが起床時に舞い上がるのだ。
「家でマスクを外すのは、食事の時と…」
そりゃそうだ。着けたままでは食えんわな。
「…風呂のときですね」
「なるほど。風呂は安全だな」
「そうです。一回鼻を水で洗うとスッキリしますしね」
そういうものらしい。粘膜に付着した花粉を取り除けば鼻水も止まる。第一、浴室のような場所では花粉もいないだろう。
「だから風呂が気持ちいいんですよ。解放されますからね。で、風呂上がりには腰にバスタオルを巻きます。で、すぐマスク着けます」
「パンツより先なのか。マスクが」
「はい。自分の姿を鏡で見ると結構あやしいと思うんですよね」
「パンツくらい履いてやれよ。異様な格好だな」
ま、マスクとパンツというのも充分異様な格好だと思うが。
「とにかく、折角風呂で快適だったのに、私の粘膜を花粉に汚されたくないんですよ」
気持ちはわからんでもない。しかし、重度の花粉症となるとこれほど必死なんだと思った。
S君はさらに続けた。
「花粉症対策の変わった奴を聞いたことがあります。私は何か怖くてやれないんですけど」
「ほう。注射とか?」
「いえ。鼻水対策なんですけど、花粉症になるとなぜ鼻水が出るのかという話で」
「花粉管ではないのか」
「それは無いでしょう(苦笑い)。花粉は殻に覆われたカプセルの様な構造をしていて、中に何か液体が入っているらしいんですよ。」
そうなのか?液体が入ってるのか…そんなイメージを花粉に持ったことはなかった。
「花粉の殻は通常壊れたりしないものなんですけど、実は生理食塩水に触れたら殻が割れるらしいんです」
そんなことがあるのだろうか。まあ、あるのかも知れない。
「で、プチュッと中身の液体が出てくるんです」
「ぷちゅっと?」
「はい。ぷちゅうっと」
何故関西出身の人間は擬音を多用するのか、と私は思うことがある。まあ、面白い場合が多いからいいけど。
「で、そのプチューと出た液体こそが鼻の粘膜を刺激して鼻水を出させるんですよ」
あーなるほど。と思わないでもない(否定の連続だねこれ)。プチュっと出る液体(以下プチュ液)が粘膜を刺激し、鼻水がでる。その鼻水に触れた花粉は割れ、プチュ液が出る。以上を繰り返す悪循環だな。これは。
「それを防ぐ方法なんですが、花粉が鼻に入ってもぷちゅっと割れないようにするんです」
「わかった。鼻の粘膜に何か」
「そう。塗るんです」
粘膜をコーティングして花粉を鼻水に触れないようにし、花粉の中に入っているプチュ液が出てくるのを防ぐと言うわけだ。
「それで、何を塗るんだ」
「ゴマ油です。テレビでは外人の人がやってましたよ」
「ん?外人って何人よ」
「よくわかりません。アメリカ人じゃないですか?」
アメリカ人の花粉症というのはなかなか想像しがたい。そんな人いるのか。
「花粉症って日本にしかないのじゃないか?」
「いえ、テレビでは『外国で花粉症に悩んでいる方です』とかって紹介されてましたから」
「それで、ゴマ油を鼻の穴に塗るのか」
「塗ると言うより飲んでました。鼻から。鼻の奥の粘膜までコーティングしなければいけないので。」
「……」
「ゴマ油はふつうの奴じゃなくて、透明の奴でした。茶色い奴より高いのですけど。これを煮詰めてから冷やして、小瓶に入れてました。一日三回くらい鼻から飲んだら鼻水出ないらしいです」
いくら鼻水をどうにかするためとはいえ、これは何だかやりたくない。
「油にこだわるYちゃんは揚げ物などにこれを使っているそうです。」
ちなみにYちゃん、この文章を読んでいる人はほとんどご存知ないと思うが、男性である。ちなみにS君と同期。こういう話をしながら作業を進めていたが、ほこりっぽい場所であったためかS君はくしゃみを連発していた。
「ブタクサだな。きっと」とかいってからかってみたが、彼は違うと言いきった。聞いてみると花粉でくしゃみをするときは「今のは花粉だ」と判るのだそうだ。
いや。今回は特にオチがない。すまぬ、つまらない話で鼻だけでも通して頂きたい。
う〜わ。よりによって駄洒落にもなっとらん。はらたまhomeへ