最高峰モンブラン

 

 といっても万年筆の話ではない。私は安い水性ボールペンを愛用しているのです。

 モンブランといえば、あのマロンクリームの乗った洋菓子のことなのです。当然そうなのです。
 Qにケーキをねだられますね。たまには買いますね。はい。自分の分は、まずモンブランです。

 寿司屋は玉子の出来で職人の実力がわかるという。蕎麦屋ならかけそばであり、当然洋菓子屋ならモンブランなのである。何。ショートケーキではないか、ですと。いいえ断然モンブランなのである。

 モンブランと言えば栗である。栗という素材をマロンクリームにて最大限に生かさんとし、さらにその頂きには甘く煮た栗そのものが鎮座しておる。店によってはその内部にまで栗の欠片が内蔵されているものまである。栗ケーキだ。
 WEBで調べてみた。ヨーロッパアルプスの最高峰、モンブランの名を冠したこの菓子は東京発祥のものであるという。もはや和菓子。日本人のための菓子であると言って良いだろう。

 詳しい名前の由来についてはここでは割愛する。とにかくモンブランの魅力は奥深い。てっぺんの栗、上部を包む独特の形状を呈したマロンクリーム。内部にささやかに仕込まれた生クリーム。スポンジケーキ部分は控えめが良い。豪華な本体をしっかりと支える土台部分は焼きが入り、香ばしい。
 そう、この菓子は栗の魅力をコアとして、一つで3つも4つものテイストが盛り込まれていると言えるのだ。
 しかしそんなモンブランにも欠点が無い訳ではない。強いてあげるとするならば、残念ながらその名称とマロンクリームの形状があまりにも特徴的なために、類似商品による.誤解を招きやすいということがある。
 とある洋菓子店、そこはプリンを主力製品としているのだが、その店にプリンを買いにいった。プリン2つ下さいと言おうとしたまさにその時、私の目に別の菓子の姿が飛びこんで来た。そう。モンブランである。小さなカップにあのマロンクリームがあの独特のフォルムでもって存在しておる。嗚呼まさしくモンブランである、これ一個下さいなのである。
 喜びいさんで帰宅した私はモンブランを楽しむのであった。
……。
……。
マロンクリームの下はプリンではないか。これはちょっと違うのではないか。一応その店の名誉のために書いておくと、まあ美味しかった。しかし私のイメージしていたモンブランは、こげなもんじゃないっちゃ。プリン店でモンブランを買い求めた私が悪かったのだ。

 こんなのもある。
 先日、帰宅途中にあるパン製造販売店へ立ち寄った時のことである。パン2つ下さいと言おうとしたまさにその時、私の目に別のパンの姿が飛びこんで来た。そう。モンブランパンである。
 パンの中央部分にあのマロンクリームがあの独特のフォルムでもって存在しておる。嗚呼まさしくモンブランパンである、これ一個下さいなのである。
 以下略だが、そのパン製造販売店の名誉の為に書いておく。なんのこともないただのパンだった。パン製造販売店でモンブランパンを買い求めた私が悪かったのだ。
 このように、モンブランの名を冠した食品は、この国に数多く存在しており、それら食品の中では、あの形状のマロンクリーム=モンブランという図式が成り立っているようだ。
 モンブランの創始者、偉大なる菓子職人(名前忘れましたすいません)はモンブランの名を自らの菓子と店の名前に用いたが、あえて商標として登録しなかったのだそうだ。そのおかげで数十年の歳月を経て創意工夫を凝らしたモンブランの子孫を私は楽しむことが出来る。そのかわり、前述の例にあるように多くの類似商品が生まれる原因にもなっているのだ。
 家の近所にドイツ菓子の店というのがある。ドイツ菓子だけになんとかブルクとかなんとかマイヤーとかいった菓子があったような気もするが、その店が大変に美味しいのだ。なかでもモンブランが絶品である。しかも他のなんとかブルクやらはほとんど全て300円であるのに、モンブランだけ350円である。並々ならぬ自信と妥協の無さが伺える。
 栗感が違う。段違いである。形だけのなにやらとは違う。芯から栗である。これこそモンブランである。これ2個下さいなのである。


 さて、「おっちゃんはモンブランを好む」といわれる。うそだあと言う方はお試し頂きたい。さあケーキを買ってきましたよお茶にしましょうかどれがいいですかと人数分のケーキを提示するのだ。
 あなたの家のお父さんは、きっとモンブランを選ぶはずである。

 そして、私もモンブランな歳になったということなのだ。

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