想定質問

 

 

 昔から、自分の子供について考えることがしばしばあった。
 結婚など遠い将来の話であり、それどころか女の子とお付き合いすることも想像しか出来なかった昔からである。嗚呼、何だか図々しい。
 どの様なことを考えていたか。それはかなり恥ずかしいのだが、思い切って公開することにした。なぜなら当時考えていたことの重要性が今になって増しつつあるからだ。そこでここに書き、考えを整理するための一助にしようと考えたのだ。多分なんの助けにもならんけど。とにかく書くのだ。

 考えていたのはいつか生まれてくるであろう子供との生活であり、会話であった。

 想定息子(※1)の容姿については不思議なくらい考えなかった。自身の容姿に全く持って自信が無かった事と無関係ではあるまいが、とにかくどんな顔かなとかそういった事は考えなかった。
 私はまだ見ぬ我が子とどのような会話を想像していたのであろうか。
 私は回想する。

「ねえパパ(※2)」
「なんだい」
「僕はどこから生まれてきたの?」
「ママ(※2)のお腹の中からだよ」
「でもママのお腹、どこも破れていないよ。僕が出てくるにはどこか出口がないといけないはずでしょ」

父親(私)に似て理屈っぽい想定息子なのであった。
 さて困った将来の私。どう答えたものか。
 なんせ想定息子は幼少の頃の私がモデルになっている。父親(想定息子から見れば祖父)と一緒に「野生の王国」を好んで見て中途半端に自然科学系の知識を得ている幼少時の私だ。コウノトリがどうの、キャベツ畑がどうのといったファンタジーは通用しないのである。コウノトリが人間の子供を運んでくるのはおかしいじゃないか、じゃあその子供はどこからやってくるのだと親である私を追い詰めかねない想定息子なのであった。

「いや、まあそのなんだ。まあ複雑な過程を経て生まれてくるのだ。神秘の世界なのだ」

 なんの逃げにもなっていない。中途半端にサイエンスな想定息子に対して答えに窮してしまい以下略である。どうすればよいのだ。いっそ全て本当のことを一から説明してしまった方が良いのだろうか。いやいやイカンそれはイカンぞ、中途半端に探求心旺盛な想定息子のことだ。教えたとたんに実際に見てみたいとか言い出すぞ。一体どうすれば良いのか。

 といったような事を時々考えては悩んでみたりしたのである。昔から変わらずバカな私である。
 わざわざ想定までして悩むのにはそれなりに訳がある。それはさらに遠い昔の記憶。私と父の会話だ。その記憶だ。さらに回想は過去へ遡る。私は7歳か8歳くらいだっただろうか。

「ねえ、お父さん」
「ん?」
「カマキリってメスがオスを食べるんでしょう」
「そうだな」
「鮭はメスが生んだ卵に精子をふりかけるよね」
「……」
「ほ乳類は交尾をして子供を作るんだよね」
「……」
「人間はどうやって

 慌てて以下略である。
この会話、私の父がどうやって私の追及をかわしたのか記憶に無い(回想では「……」となっているが、実際には何か言っているはず)。あるのは何年も経ってから質問自体の恥ずかしさとともにこの事を思い出し、一人でさらに恥ずかしくなってしまった記憶のみである。

 さて想定質問の答えはまだ用意できていない。第一、私のもとにやってきた可愛らしい子供は女の子である。想定内容にも若干の修正が必要かも知れない。
答えに詰まってQに振ることは避けたいと思うのであるが、さてどうしたものか。
 とりあえず想定してみる。

「ねえおとうちゃん」
「なんだい、P」
「Pね。妹が欲しい」
「……おかあちゃんにお願いして見なさい。生むのはおかあちゃんなんだから」
「おかあちゃんはおとうちゃんにお願いしてみなさいって」
「……」

振られているではないか。逃げ場がない。きっとさらに追及は厳しい方向に向かうのだ。

「なんで生むのはおかあちゃんなのに、おとうちゃんにおねがいしなきゃいけないの?」
「うーんとそれはおかあちゃんがおかしい。もう一度おかあちゃんに聞いてみてご覧」

 ごまかすことも出来ずに結局Qに振りかえしているではないか。なんのために想定を繰り返しているのかわからん。

「ねえおとうちゃん」
「なんだい、P」

考えていられる時間はもうそんなに残っていないのだ。なんせ私の娘なのだ。追及も厳しく、多岐にわたると思われるのだ。

今回の4kは娘のPがこの内容を理解できるようになるまでの限定公開です。一応。このサイトがそれまで続けば削除もありえます。

※1 想定息子..実際には娘が生まれてしまっている訳だが、想定していたのは何故か息子の場合だけであった。自分が男だからであろうか。

※2 パパ、ママ..実際、娘のPにはお父ちゃん、お母ちゃんと呼ばせようとしているのだが、想定時はパパママになっていた。


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