ハジャイの町並みその1



[ハジャイ駅概観]

タイ南部、マレーシア国境に近い中堅都市ハジャイ(またはハートヤイ)。バンコク経由で空路最終便でこの町に直行した私は、その夜ハジャイ空港のだだっ広い入国審査場で、私を待ちかねていたかのようにひとつだけ灯りの点ったカウンターで、たったひとりパスポートチェックを受けた。右も左もわからない町のホテルに着いたとき、もう夜も更けていた。翌朝さっそくこの町の全貌をつかもうと地図を片手に駅に向かった。瀟洒なただづまいを見せる駅舎は、この町の品位をかもしだしていた。駅前の道の両側には金や宝飾品の店がいくつも建ち並び、南部最大の経済都市、物流の拠点にふさわしい富と自信と活気をみなぎらせていた。



[ハジャイ駅構内1]

駅舎の中はとても清潔で、開放的だった。切符を買う窓口は三つほど。ラッシュアワーでごった返す様子もなかった。なによりも驚いたのは、東南アジアのどの駅にもたむろし旅行者を極度に緊張させるあのおぞましき浮浪者や乞食のたぐいの姿がない。マレーシアとの国境に接した町「スンガイコーロック」に向かう翌朝の急行列車の座席を、窓口で予約をしようとしたら、優しい声でしかもていねいに、係員がいう。「明日の朝でいいですよ、心配いらない。出発時刻の10分前にまたいらっしゃい」と、流暢な英語で答えてくれた。



[ハジャイ駅構内2]

駅の奥の改札を出るとすぐそこはもうプラットホーム。ホームとはいっても、日本とは違って地面の高さに線路が敷いてある。天井から下がった二枚のボードは時刻表。二枚とは上りの下り、だから一日に通過する本数はさほど多くはない。しかし、バンコクからマレーシアを抜けてシンガポールに達する国際列車「マレー鉄道」が、この町を通る。構内の床はきれいに清掃され、人々の品格がにじみ出ている気がした。



[ハジャイ駅構内3]

駅を出たすぐの場所に「バイタク」が整然と並んでいる。緑や赤のベストを羽織っている男が、ライセンスを持って営業しているバイタクのドライバーだ。彼らは駅で付け待ちもするが、街中を流してもいる。大きめの荷物があるときにはバイタクは不都合。そんなときには、トゥクトゥクという後ろに荷台を背負った軽自動車のようなものが便利だ。片道行くだけなら10バーツ(30円)程度、行って帰ってくるなら20バーツ(60円)らしい。




[ハジャイ市中心街]

バンコクからはるか南下し、この町はかなり奥まった場所にある。隣国マレーシアの首都クアラルンプールからも距離はかなりある。なのにハジャイは、驚くほど洗練された都会にみえる。東南アジアの田舎町の遅れた空気は少しもない。この町の垢抜けたセンスはどこからくるのか。私は町を歩きながらいつも考え続けていた。町の大きさに不つりあいなほどの威容で聳え立つ高層ビルやショッピングモールは、どれも建築デザイナーの存在を髣髴とさせるものばかり。「マクドナルド」や「シズラー」など、見慣れた看板がめにつく。歩道の隅に駐車するバイクも、係員がいて几帳面に並べられる。




[ハジャイ市最大のショッピングモール]

タイ南部の物流の拠点「ハジャイ」。そこには、およそ人間の所有欲を満たすどんなものもある。そんな印象をもたせる堂々としたショッピングモール。店内はクーラーがきいているので、人々の格好の暇つぶしの場所となる。


[華僑系のデパート]

タイと中国とマレーシアが複雑に混在するこの町の文化は、町並みや人々の様子に一風独特な風情をかもし出している。市の目抜き通りに面した華僑系のデパートだが、品揃えは庶民的なものばかり。高級品というのではなく、安くて手ごろな値段のものをそろえている。したがってデザインに奇抜なものはない。中国は、福建省から移住してきた人々が多く住んでいる。