ロコロコのチスミス放言録その1
Oct 28/2006

寄稿者:ロコロコ

ハリマオ談:
かねてから投稿を希望してきた現地長期滞在者ロコロコ氏のリアルな寄稿文をご紹介します。文の内容については小生関知しませんが、文体の調整という見地から「てにをは」レベルの加筆修正を加えております。



アンへレス在住歴はもう長い。事情があって、いまは帰国できないので、しばらくはこの土地にしがみついているしかない。最近、特にこの夏すぎごろから日本人の顔を見ることが多くなってきた。たぶん団塊退職世代を中心にした「熟年ニート族」という人たちが、この土地に安らぎを求めてやってきているのに違いない。

しかし、気になるのはそのうち何人かは、あきらかに「うつ病」ではないかと思われる人たちが混じっていることだ。いま数えるだけで片手では収まらない、そうした心の病を持つことが疑われる日本人の滞在者の顔が思い浮かぶ。彼らはどの女にもとても優しい。有り余るほどの気配りがあり、私などは傍で見ていて真似が出来ないほどだ。しかし、その気配りは次から次へといろんな女、さまざまな場面に「拡散」していくので、「おや」と思うのだ。そして、ひとつの単純なことのまとめがおろそかになるのが特徴だ。

たとえば、Tさんの場合である。偶然フィールズの道端で出合ったりすると手招きされ、「一緒に飲みませんか久しぶりだし」といった具合に誘われバーに入る。しかし、中では彼のオキニが待っている。そのあとで、誰かに携帯電話をかけ友人を誘ったり、素性の不明などこか女の子をそのバーに呼び寄せたりもする。そうこうしているうちに、私との話はそっちのけで「ちょっと行かなければならない用事があるので、失礼します」といった具合に、こちらが置いてきぼりを食う....。一事が万事そんなふうな奇行づくしなのだ。ある程度心の病がうかがえるので、私は興味深く彼の行動とその成り行きを観察して、むしろ捨て置かれたことを楽しんでみる余裕があるが、事情を知らない人だときっと憤慨するに違いない。どうやら、うつ病の人に共通していることは、神経が細くて次から次へといろんな着想が思い浮かびそれを行動に移す衝動に駆られるが、その一方で物事の「起承転結」をまとめ上げることに、つねに不安を感じるのではないかと想像している。

うつ病を疑われるもうひとりのH氏は、強い抗うつ剤を服用しているせいではないかと思われ、いつもやけに顔が紅潮している。彼は自分の気配りで、濃い男女関係が出来上がると、あとで対処できなくなる自分の姿までシナリオに描いて女への深入りを自制している。気に入った店を渡り歩き、好みの女を探し回る一方で、いざ気に入った女ができ過剰な気配りが始まると、次々に自分の中で思い込みが展開して行き、相手の女を置き去りにしてしまうほどに「マメさ」が暴走してしまうのだろう。過去の苦い経験からか、端緒の段階で、すでに遠い先の結末まで心配している。いずれにせよ、脳の限界にまで負担をかける厄介な病気だと思う。

この街に長期滞在する人々は、うつ病ではない人でもいつのまにか魂が去勢されたように、人間力に乏しい存在にかすんでいく。年長者だけではなく、若い世代の人間でも同じである。ハリマオ氏もどこかで触れていた現地長期滞在者の青年K氏は、巷の噂ではステディバーファイン(SBF)した女をあきらめきれず帰国を断念し現地に留まる道を選択したという話だ。先日ハリマオ氏に会ったら、以前は彼から頻繁に電話があったが今はむしろ敬遠されるようになったという。その理由がわからないと言っていた。

しかし、現地在住歴の長い私には、そのK氏の後ろ暗さの背景が手に取るようによくわかる。自分も多かれ少なかれ同じ境遇にあり、同情の念すら浮かぶ。普通の日本人には会いたくないのだ。特に自分の過去をそれとなく知る人間たちには....。相手に少しでも批判の目が備わっているような人物には、警戒して近づかないし、歓迎するのはいつも同じように魂を去勢されたような影の薄い人間ばかりになる。

K氏のGFは噂では元バー「L」のダンサーらしいが、たまにインターネットカフェに一緒にいるのを見かけたりする。危機説もささやかれたが、やけにいちゃついたりして関係が良好であることを見せつけている風でもある。もっと普通にしていたほうが「正常な関係」を印象づけられるものだが、人前で公然とキスをしたりするさまは、日本人離れした奇異な行動にも映り、むしろ関係が危ういからそうしているのかとも勘ぐれた。

「ほぼ同じような時期にアンへレスに乗り込んで、同じ時代の土地の空気を吸って、ともに闘ってきたいわば戦友のような青年で、そのK君には特別の思いがある。些細な誤解がもとで彼のプライドを傷つけたのかもしれないが、ここまで闘い抜いたのならGFとは最後までうまく行って欲しいと思っている」
ある日マルガリータステーションで、ハリマオ氏は彼らしい言葉で私にそう語った。

自分もそうだったが、女を追い心血を注いで行けばいくほど女がいなくなったとき、自分の存在のよりどころをすべて失う。いまさら原点に戻りバーハッピーを繰り返し、気に入った女を捜し続けるエネルギーはもうないのだ。闘い終わり日が暮れて...そうした、夏草が枯れた草原で遠い昔闘った兵どもの「夢のあと」を引きずりながら、今を亡霊のように生きている人々は、アンへレスに数え切れないほどいる。

ところで、裏掲示板でよく「長期滞在」「短期滞在」のメリットとデメリットなどが話題になったことがあるのを記憶している。これは難しい議論だが、バリバゴのバーの経営的論理で言えば、短期滞在の観光客を相手に、回転率のいい商売を基軸にしているようにみえる。ブルーナイル、ネロス、シャンペーン、ランスロット、キャメロットなどは、数日滞在の旅行者を、悪く言えば「ぼったくって返す」商売に腐心しているように見える。

特に友人4〜5人で行き、同じバーで全員がBFしたりすると、バーハッピー先で集団詐欺にでも遭ったかのような印象を受ける場合がある。系列店に行ったら、彼女らが頼むドリンクによく注意しないといけない。客として注文しているのか、バーガールとしてあとでコミッションを受け取れるLDとして頼んでいるのか料金を見ればわかるはず。やたらTXTを打ちまくったり、なぜか集団でトイレに頻繁に行く謎に出くわしたら、品行よろしくない連中であることは間違いがない...。

もっともこれは、あくまでも私の見方で「いや違う」という人がいてもおかしくはない。BFをしない現地滞在者の私などは、客だと思っていないふしもあり、ましてやそれが「日本人」だとなると、もってのほかという顔をされる。そういうやっかみが批判的な内容に含まれているかもしれないからである。

話は戻るが、裏を知りつくした長期滞在者よりは、騙されても心地よい気分で帰る短期旅行者の方が扱いやすく可愛げがあるのだろう。しかし、それは店の経営という視点に立つ論理だといえる。個々のバーガールたちは、毎日違う女を物色したがり、また数日で帰国してしまう旅行者よりは、いつでもそばにいる長く支援してくれる相手を探しているのも事実である。いいかえれば母集団としてそれは長期滞在者になることが多い。いい女はたいてい現地に長期滞在している店の常連客、それもたいていはパパさんの友人である欧米人などに持って行かれるケースが多い。

面白い現象がある。上昇志向の強い現地のバーガールは「ある世界」に憧れている。いわばアンへレスの「社交界」とでもいえるものだ。それは、ばかげたほど狭い腐りきった「社交界」だといえる。つまりバーのパパさんの愛人になり、毎夜バーの奥にあるパパさん専用のテーブルに座り、立ち寄る他のバーのパパさんや常連の欧米人客らと一緒に談笑し、パパさんのフリードリンクを好きなだけ飲んで過ごす特権的ポジションを手に入れることである。パパさんの愛人になるか、パパさんの親しい友人のGFになれば、いつでもそのポジションを手に入れることができる。こうして、店からそう遠くないところにアパートを借りて、働きもせずパパさんと一緒に住んで食わせてもらっているバーガールは少なくない。そして彼女たちの生活水準はつかの間あっという間に向上する。

ここで注意しておきたいのだが、パパさんとはいえ同じ店のバーガールに手を出すことはご法度になっている。だから、別な店のパパさん、別なバーの女が、互いのターゲットになる。たとえば、現時点でエンジェルウィッチのパパさんの愛人は元ロリポップ、その前はブードゥーにいた。同じココモス系列だから頻繁に出入りしているので、店の垣根は低くなっていて互いに「同じ店」も同然になっている。また、ブルーナイルのダイナミックダンサーの中心でいつも踊る看板ダンサーは、同系列のミスティの現パパさんのGFだろうと思われる。先日とある店で、深夜ふたりが人目もはばからずに抱き合って長時間濃厚なキスを交わしているのを目撃した。そばには長身でバラクーダのような爬虫類顔のブルーナイルエグゼクティブのパパさんもいた。

それはともかく、よく観察していると彼女たちの「社交的な生活」は考えるほどハッピーでもないようなのだ。パパさんは、店の奥のテーブルで遊んでいるのではなく仕事をしている。だから、私的な「彼女」を構ってあげるのにも限度がある。また店にはたくさんの恵まれないバーガールがふたりをねたみの視線で睨みつけている。「彼女」をうらやましく思う反面、敵視する女も増え、「彼女」は多くの友人を失う。しかも、フリードリンクをGFに飲ませるなど公私混同するパパさんに対し、店の女たちは次第に敬遠し始め、時間が経つと総スカンを食らわすことさえある。

またパパさんといっても、何かあるとオーナーの逆鱗に触れすぐクビになってしまう脆弱な地位にある。特にママがかかえるバーガールが引き起こす「アンダーエイジ(18歳未満)の就労」は、パパも連座責任を問わる。また店の女に自分から手出しはできないが、女のほうから執拗に迫られることもある。随所に転落の可能性が転がっている。このように、愛人になるにも「リスク」をともなう危険な賭けなのだ。それでも「パパの愛人」に憧れるのは、日々働かなくても食べていけて、いい暮らしが出来る境遇や周囲の羨望の視線を浴びて暮らす快感などがあるためだろう。

しかし反面、友だちを失い、パパさんからもひとりで放って置かれる退屈な日々・時間を覚悟しなければならない。他の男は声をかけなくなるし、バーガールをしていたときのようにいろんな男に自分から声をかけることもできない。なにせパパさんの愛人ともなれば「トップレディ」である。しかし、それは孤独な「裸の女王」なのである。ときどき、さっきまで「パパの愛人テーブル」に座っていたはずの女が、路地裏のバーベキュー屋の前でひとりぽつんとバーベキューが焼きあがるのを待っている姿を見かけたりする。その後姿は、実に哀れに見え、見栄っ張りなフィリピーナの「愛人稼業」も大変だなと思わざるを得ないのである。

また、私のよく知っているとあるバーのチェリーガールで、もっかパパの親友の恋人稼業をしている元ダンサーがいる。ステディバーファイン歴3ヶ月だが、相手が65歳すぎた老人でどうも退屈な同居生活に耐えられなくなったようである。先日会ったとき「店に戻るつもり」だとポツリともらしていた。過酷なバーガール稼業にもう一度戻るというのは、よほどのことがあったのに違いない。つい先日もふたりで歩いている姿を見かけたし、大喧嘩して別れる風でもなかった。老人と長い時間同居していたというのに、いまもチェリーだと彼女は胸を張って言った。


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