語り忘れた風景(マニラ) yuzafile_014

文:遊佐たいら 写真:伊達真魚

 「フィリピーナとつき合うんだったら、女だけじゃダメ。ファミリーもちゃんと見なさい」。
 そう教えてくれたのはアディだった。
 目先の器量や商売上の優しさに惑わされないようにと、フィリピーナ自身が警告してくれたのだ。
 確かに、フィリピーナは、自分自身のことよりも、家族がもたらす問題の山と格闘している。その多くが結果的に金銭的な問題に絡んでくることはいうまでもない。
 不動産売買のトラブル、借金、家族の病気、ドラッグ中毒、父親の浮気、両親の浪費、刑務所での兄弟の服役など、さまざまな問題の渦の中でフィリピン人は暮らしている。そして、問題の処理はいつの場合でも、若いフィリピーナの肩にのしかかっている。
 日本人の男とフィリピーナの国際結婚は早い時期に破綻しがちだ。双方の文化的背景の違いもあるだろうが、現実的には「新妻」の背後にある山のような家族問題を、夫がというより、夫の給料だけでは処理できないからだ。
 フィリピーナは、日本の家庭でいえば「お父さん」の役割だ。エキゾチックな愛くるしさがいくらあるとはいえ、彼女を日本の男性好みのつつましい「奥様」に封じ込めておくことはできないのだ。
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