After... 〜忘れえぬ絆〜
ハード/PS2.DC
発売日/2004年2月26日
メーカー/ピオーネソフト
値段/通常版6800円 初回限定版7800円
備考/Ciel制作のPCソフト「After」の移植作
    初回限定版にはPS2.DC版それぞれに異なる新曲のオリジナル音楽CD
    他DC版には卓上カレンダー、PS2版には霧ヶ杜学園校章刺繍ワッペン付き


 珍しく移植作品をプレイしてみる。や、中古で安く売ってたので買っただけなのですけどね。
 ちょうど本作が移植した時期は、移植ブームのピーク時とも言えた頃合だったので…正直、本作も気の抜けたエロゲー風情と思っていました。
 結論を言ってしまえば、それは当たらずとも遠からずなのですが…いや、好きだなぁ、この作品。

 主人公・高鷲祐一は、友人達とワンダーフォーゲル部を結成し活動していた。
 そして迎えた三年の夏休み。幼馴染みや妹、友人の幼馴染みまでが半ば強引に入部し、合計六人になったワンゲル部は、学生生活最後の登山として、 冬の日本アルプス・穂高縦走を目標にして動き出した…

■プロローグで分かるように、本作はいわゆる「部活モノ」です。
 作品全体の拡散性がなくなってしまうという弱点はあるものの、しっかりした土台を作り方向性さえ間違えなければ、それほど酷い作品は出来上がらないという 強みもあります。事実、部活モノには名作・佳作も多いです。
 題材となる部活は「ワンダーフォーゲル」。あまりメジャーではないというか、いわゆる美少女ゲームには似合わない、男臭い世界ではあります。それをあえて 選んだということにも好感が持てるし、実のところ自分も登山に親しんでいるので、そういう意味でも惹かれる要素だ。
 しかし本作、エロゲー時での評判はおろか、移植時にそのタイトルさえ聞いたことがなかった。
 大体移植する作品は、内容はともかくタイトルくらいは耳に入ってくるものなのだが…
 そんな不安を抱きつつ、早速プレイしてみることにしよう。

■まず起動、メーカーロゴからタイトルまでの流れはかなり簡素。
 ちょっと味気ないのはまだいいのだが、タイトルと同時にメニューが表示されるので、不用意にボタン連打すると「はじめから」を選択してしまう。
 そんなトラップに注意して、本編を進める。
 基本システムはテキストノベルADVタイプ。テキストウィンドゥに表示されるテキストを読み進み、選択肢によりシナリオが分岐する。
 ただテキスト送りのボタンレスポンスが若干悪く、ページ切り替えも少々遅い。
 そのため、プレイヤーの読み進める適度な速度が掴みづらく、テキスト系としては決して快適とは言えない。
 スキップ機能も既読/未読両対応と優れているのに、単純に高速オートなため、あまり優秀ではないだろう。共通部分も多いので、 二週目から既読部分をスキップしていると、ちょっとモチベーションが崩れるのは痛いところだ。
 バックログ機能もあるが、これもちょっと見づらい。まぁ、そうそう使う機能でもないけど。
 他オートセーブ/ロード、オートモード、他テキストノベル系に標準搭載されているものは大体そろっている。
 しかし…どの機能にも若干のロードがあるのが少し気になる。神経質に捉えなければ、それほど邪険にすることでもないと思いますけど。

 グラフィックに関しても、特に問題なし。
 表示は基本的にバストアップタイプで、場合によっては複数人表示という感じ。
 男性キャラやサブキャラのグラフィックも手を抜いておらず、ほぼメインキャラと同列の扱いなのが嬉しい。
 画像のブレなどもないが、やはり画像切り替え時のロードがちょっと気になる…という程度だろうか。
 音楽も個人的にはかなり好み、安かったらサントラ欲しいくらいだ。
 挿入歌やエンディングテーマも豊富で、珍しくおまけのサウンドモードを多用。何故かツボにはまる楽曲。
 …と、システム的にはアレな部分が多いものの、「壊滅的なまでに駄目」というのはないので、病的に気にさえしなければ、プレイ環境は問題はないと思います。

■では、肝心の内容をば。
 さて本作、プロローグにもあるように「ワンダーフォーゲル部」を中心とした部活モノです。
 ここで問題になるのが、どれくらいまで部活を中心にするか、ということ。
 部活部分を希薄にすれば「お前ら部活しろよ」になるし、部活部分を強くし過ぎてしまうと「コレって恋愛モノだよな?」になってしまう。
 そのバランスは結構難しい。
 本作はどちらかというと部活部分が希薄で、勿論登山描写(しかも、割としっかりしている)もあるし、主人公が何故冬の穂高に挑む理由、他キャラクターと「山」との 数奇な関係も語れていくのですが…それは決して、全てが「部活」の延長線上にあるもと言えるものではない。
 どちらかというと、夏から冬にかけての学園生活の中で対象キャラクターとのシナリオがあって、その中に「山」「部活」といった要素が絡んでくる、という感じです。
 特に部活動自体が主軸になっているというワケではなく、時に「ぁぁ、コイツらワンゲル部だったけか」と思うこともしばしば。
 確かに、この手のゲームですから女性キャラクターを魅せなければいけないのは当然なのですが、ちょっと「部活」としての意識が薄いかな、と。
 しかし、メインになる六人が集まるために「部活」という名分も立ちますし、そういう側面から見ると機能しているのかもしれません。
 その辺りが中々奇妙なバランスを形成し、「部活」としてではなく「六人がいる場所」として認識させるのが面白い。
 部活モノでありながら部活モノでなく、それでいて違和感もなく、主人公の言動が明確にされているのは個人的に好感度大。
 まぁ、どっちつかずとも中途半端とも言えるし、単にまとまってないというのならそれも正当な評価だと思う。けれど、何故か安心感を覚える。
 不思議な作品である。

 個別シナリオについては、「突っ込もうと思うえばいくらでも突っ込める」程度のもの。
 想いが蓄積する過程はキチンと描ききってはいるのですが、ちょっと大雑把な部分が多く、無理矢理感が拭えない。
 「言いたいことは分かるんだけど…そんなんでいいのか?」と、疑問に思う箇所も。
 例えば「幼馴染み」や「妹」ですが、この手の「過去を一緒に過ごしたキャラ」は過程を描くのが物凄く難しく、シナリオの過程のほとんどを「過去」に依存しがちなのですが… まさしく典型的なそれで、「過程」ではなく「結果」をただ提示していくだけのような気がしたのは残念。
 キャラクターもシナリオも、特に記憶に残るほどインパクトの強いものでもありませんし…まぁ、全体的に地味目な作品なのは確かです。
 ただし、本作結構面白いシナリオ上の仕掛けもあって、個人的に話が進み始めると「ぉおっ…!」と思わず引き込まれることも。
 ベタといえばベタなのですが、「え、ここでそんなん?」というような、今までの話が全てぶっ飛んでしまうようなシナリオが満載なのが○
 そして、そういう無茶苦茶と言えば無茶苦茶な展開を許せてしまえる、そんな変な魅力が本作にはあると、思う。

■個人的には結構楽しめました、好きか嫌いかで言うなら間違いなく「好き」です。
 確かにプレイ環境も良いとは言い切れないし、美少女ゲームとして見てもキャラがそれほど立っているとも言えない。
 恋愛モノとしても、描き方が他と比べて優秀というワケでもない…だが、それがとても気持ちいい。
 そういった感覚に触れてしまうのは、恐らく、本作が全体としてのバランスを非常に上手く整えているからだと思う。
 例えば…
 「キャラクターは最高なんだけどシナリオがなぁ…」
 「シナリオはいいんだけどシステムが足を引っ張って楽しめないよなぁ…」
 …というように、大体の作品は一部が特筆する点で、一部が酷評する点という具合が多いと思う。
 だが、本作はその評価する点が「全て同じ」である。
 五教科で5段階評価の通知表があるのなら、自分は本作に「全教科3」か「全教科2」をつける。つまり、そういう作品なのだ。
 特筆するような箇所はない、同じく特に酷評する箇所もない。
 だから、本作は良くも悪くも恋愛ゲーム作品としては、低い位置ながらも「完成度が高い」ため、奇妙な安心感を覚えるのではないか…
 「大きく目立った欠点がない」というのも、一つの武器だ。

 シナリオは結構長めながら、共通ルートも多くクリア対象キャラクター三人とボリュームは若干少なめ。
 おまけシナリオも二本あるものの、正直もう少し欲しいくらいだったかな。
 CG枚数も結構多目、単純に三人&おまけシナリオ二本クリア状態でも結構未回収のものが多い。実はルート多いのかもしれない。

■まとめとして。
 上述したことを踏まえて書くと、「別に面白い!と絶賛出来る作品でもないし、特に見所がある作品でもない。ただ、決して悪くない」作品。
 とりあえずストップをかけておいた方がいいのは…
 【「泣きゲー好き&泣ける=面白い」な方 (ただし、鬱展開好きな人にはオススメ)】
 【「キャラ立ち&キャラ萌えが評価の基準」な方 (男の方がキャラ立ってる気がするくらいだし…)】
 【「単純にキャラクターグラフィックが肌に合わない」方 (美少女ゲームとしては異質…だよなぁ。上手いし自分は好きですが)】
 …別に泣けるワケでも、キャラ立ちしているワケでもないのですが、結構な鬱話です。
 まぁ、最近では安く売っているみたいなので、SIMPLEシリーズのような感覚で買うと吉かもしれません。
 むしろ、2000円くらいの価値は十分あると思います。それ以上だとさすがにキツイですが。
 うん、B級好きと言うか、煮え切らない作品が好きな人にはたまらない作品だわ。勿論、自分も含めてですが。

■(自分がプレイしたのは「PS2版」ですので、上述したのもそれに準じます。DC版とは若干異なる部分もあるかもしれません、了承を)




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