チョコレート♪キッス
ハード/PS
発売日/2002年2月14日
メーカー/デジキューブ
値段/3800円
備考/-



 タイトルと発売日から察するように、バレンタインに便乗して発売された作品。
 宣伝広告もそれなりに行われ、値段の安さと相成って普及するかと思いきや・・・見事に失敗した面白い一例。
 それでも、個人的には好きな作品なんだけどね。

 主人公・有崎尚斗の通う高校(男子校)は、天災により半壊。授業続行が不可能になる。
 そんな状況の中、とある女子校が生徒の引き入れを容認。一ヶ月の間だけ、お互いが共学の時を過ごすことに。
 そんな中で、彼は幼馴染み・麻里絵と5年ぶりに再会した……

■今思うと、とても恥ずかしいタイトルである。
 バレンタインというイベントを効果的に使おうとしたのだろうが、それにしても「チョコレート♪キッス」というタイトルはもはやギャグだ。
 「♪」を含めて正式タイトルなのもかなり恥ずかしい…「ファーストKiss☆物語」の「☆」と並ぶくらいには。
 「甘さ」と「ほろ苦さ」を表すような、一昔前の少女漫画的タイトルは、そういった恥ずかしさを含めて個人的には嫌いではないのが…
 けれども、このタイトルで手が出せなかった人も多いのではないだろうか…そう思うと、少し悲しい。
 「ギャルゲー買うのは等しく恥ずかしい」と言われれば、まぁ、そうなんだろうけど。

■起動すると流れる、少々脱力感のある主題歌、及びオープニング。
 ムービーの出来は決して良いとは言えないが、80年代アイドルソングを彷彿させる主題歌は結構好きだ。
 …ここで、単純にスラップスティックな学園恋愛ADVを連想してしまうユーザーも多いだろう。
 それは当たらずとも遠からずだが、とりあえずタイトルへ。「New Game」を選択。

 システムは、主人公移動型のテキストアドベンチャー。コレといった特徴はない。
 狙ったキャラクターだけを追いかけていけば、ほぼ確実にエンディングを迎えることが可能。難易度はかなり低め。
 ただシナリオが相互関係にあるキャラクターが多いので、目当てのキャラクターともう一人のシナリオを進めるのが正しいプレイスタイル。
 最終的にメインの方に重点を置けばいいだけなので、基本的には二人同時進行としておいた方が良い。
 そういった大まかな基本システムについては何も言うことはないのだが、目に付く問題点はいくらでもある。
 フラグの立て方が甘いのか、もしくはただ面倒なだけだったのかは分からないが、イベントが全て独立したものになってしまっている。
 つまり、一本のシナリオとして出来ているストーリーを、それぞれを単独イベント化してしまったために起こる矛盾がある。
 対象となるイベントを起こさなかった場合でも、それが行われたとされてシナリオが進むことになってしまうのだ。
 少々分かりづらいので説明しておくが、つまり・・・

1日目2日目
主人公と買い物に行く前日のことを話題にする
主人公と喧嘩するちょっとギスギス

 ・・・という展開であったとする。もちろんこれらの展開は一例であり、チョコレート♪キッス本編にはなんら関係ない。
 で、問題になるのはA・Bというキャラを攻略するにあたって、通常の作品では1日目に該当するイベントを起こしておかないと2日目のイベントに繋がるはずはないのだが、 本作では1日目をスルーしても2日目のイベントを起こしてしまうと、1日目のイベントが起こったこととして処理されてしまう。
 これは個々のシナリオを突発イベント化してしまったためなのだが、勿論打開策が無いわけではない。
 きちんとイベントをシナリオとして整合性を持たせることに成功している作品は多く、はっきり言えばこの作品が特例なのである。
 確かに特定のキャラクターを追いかけていれば問題はないのだが、それで許されるものではないだろう。
 追いかけるキャラクターを拡散してプレイしてみれば、プレイヤーが完全に置いてけぼりモードに突入する仕様は正直どうかと。
 あの強烈な違和感は・・・あまり好ましいものではない。
 さらに言うと、ストーリー上での強制イベントの多さは正直鬱陶しさを感じる、もう少しどうにかならなかったものか。
 数回周する作品において、共通ルートの多さや、共通の強制イベントの多さは御法度である。

 作品の流れを組むシステムは基本的ながらも、それを全く活かしていないのは上述したことから分かってもらえると思う。
 さらに、細かい周辺システムの方も、平均的に見てもかなり下になっている。
 スキップ機能は2周目から使用可能だが、既読/未読無視の強制スキップ。バックログ有りで、こちらは標準的なものなので無問題。
 システムメニューは音量調節とサウンド出力の切り替えのみ、個人的には必要ないが、ボタン配置変更くらいは欲しかったかもしれない。
 ボタンレスポンスや画像/音声のロードは悪くないが、セーブ/ロードの際のメモリーカード読み込むは結構長い。
 致命的なのはテキストウィンドゥ内で展開される日常の会話で、選択肢が出現した時のレスポンスが早すぎること。
 選択肢が出現する際に、ディレイやユーザーに「次に選択肢がくる」と示唆するアクションやテキスト上の提示がないので、普通にテキスト送りのボタンを 押していると、気付かずに選択肢を選んでいる場合がある。
 「選択肢によって上下する好感度でシナリオが変化する」のが基本の作品で、この仕様はちょっとどうかとも思う。
 ユーザビリティの少なさというか…システム周りの練りこみが足らないというか…ちょっとプレイ環境は悪いかな、と。

■だが全体的な雰囲気や、味のあるテキストはとても好感が持てる。
 キャラクターの掛け合いや言語センスは賞賛に値し、最小限の表現で最大限の魅力を引き出していると言っていいだろう。誇張もあるが。
 設定なども無駄に拡散しておらず、そのスマートなゲームスタイルには見習うことも多いはずだ。
 キャラクターの言動を裏付ける性格的な造形も、近年の作品とは思えないくらいしっかりしており、安易な属性だけで構成されていないことが分かる。 特に如実なのは、登場するキャラクターが等しく「主人公に依存し過ぎない」ことが挙げられる。
 本作は上述したように、「1本の大筋になる話を、2人のキャラクターで構成」されているのだが、つまり相互するキャラクターの中にはそれぞれの思いや、確執、憧れと いったものがあり、主人公の命題はそれを客観的に解決していくことにある。
 従来の恋愛ADVが「主人公←→ヒロイン」という構造になっているのに対し、本作は「ヒロイン1←主人公→ヒロイン2」という構造になっているのだ。
 これは別に二股上等とかそういうものではなく、大概の作品がそうであるように、ヒロインのトラウマ等を解決するのは主人公という当然になってしまった概念を、 あえて主人公がバイパスになることで話を進行していくというスタイルをとったのである。
 勿論、それらを解決するために主人公との関係は進展していくが…その「ヒロイン同士の相互関係」を中心に描いたのは良い着眼点である。
 これは「ゲームでしか表現出来ない構成」であり、こういった一捻りある作品は実に良い。

 ただ思うのは、別に無理をしてバレンタインに便乗することも無かったのでは、ということだ。
 この作品はエンディングがバレンタインになるのだが、正直言って話の流れからして無理矢理な感じが否めないのだ。
 突然・・・ふっと、現実に引き戻されたような、そんな後味の悪さがある。
 それでも上手くまとめられていると思うし、そんなに目くじら立てて否定するところでもないのだが・・・個人的にである。
 問題は商業政策の方で、何も2月14日に発売することはなかったとも思う。
 冒頭でも書いたが、この衝撃的なタイトルも相成って、インパクトはともかく一般的には「バレンタインに何ギャルゲーなんて買ってるんだ?」ということになる。 この二つの悪条件が重なって、手を出さなかった人も多かった…のかもしれない。
 勿論、「この日に発売しなければ意味がない」ということもあったのだろう・・・微妙なところで残念な作品だ、面白いのに。

■通常価格3800円、そのコストパフォーマンスの高さに並ぶものは少ない。
 弱点として、上記したようにシナリオ上の矛盾・強制イベントが多く、プレイしていて違和感が隠せないこと。それからシステムの悪さ。
 それから声優の演技面。自分はあまり気にしない方ですが、声優がアイドルのタイアップのため演技面は全くと言っていいほど期待出来ません。
 さすがにウィザーズハーモニーのような、邪神が光臨したくらいのものではありませんが、やはり素人集団なので…けれど、そういう舌ったらずな演技が好きな B級演技愛好家や、単純にマイナーアイドルが好きな方は問題ないかも。
 あとはイベントCG枚数・BGMが極端に少ないこと、BGMは逆に少なくて1曲1曲が耳に残りますが。
 クリアキャラクター数9人に対して、結果的恋愛でエンディングを迎えるキャラクターが5人だけであることもマイナスかも。
 強みはシナリオ云々よりもテキストそのもの、それからキャラクター表現。
 小奇麗ではないけれど、何とも言えない気だるく生温い雰囲気とテキストはかなり好きです。ギャルゲーテキストが良く分かってます。
 それと、イベントやシナリオそのものは少ないですが、キャラクターの描き方が秀逸。
 ・・・と、まぁ褒め過ぎな感じもありますが、同人誌作るくらい好きなのでその辺はスルーで。
 とは言え値段その他総合的に考えても良作だと思います、プレイしておいても損はないでしょう。
 1ファンとして本音を言うなら、5800円でも6800円でもいいから、もっとしっかりした作品として製作して欲しかったな。

■現在、本作を制作したデジキューブは倒産してしまったため、本作を含む関連商品は全て廃盤になっています。
 コンビニのデジタルプリント…今思えば、恥ずかしがらずにちゃんと買っておけばよかった…
 本作の版権がどこへいってしまったのかは分かりませんが、安ければ買い取りたいくらい好きな作品です。ええ、それはもう。
 それから、主題歌/声優を担当したアイドルグループ「Lala♪Lu」も、現在は解散しています。何て不遇な作品なんだ…



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