KID作品の中でも影の薄い本作、廉価版・PS2リメイク版発売と共に普及してくれることを願う。 人の生死を扱った作品の一つなのだが・・・その選択は、安物の感動を与えるためだったのかは正直分からない。 だが、プレイ後に虚脱感を得られる作品の数は少ないだろう。 |
主人公・穂村元樹は、車に轢かれそうになった恋人・遊那を助けるために重症を負ってしまった。 その際に幽体離脱してしまった元樹。困惑する彼だが、自分が元の身体の中に戻るには自分を強く想ってくれる人が必要と知る。 しかし……肝心の遊那は、ショックで元樹に関する記憶を全て失っていたのだった。 |
はっきり言って、滅茶苦茶な設定であることは否めない。。 確かに漫画やアニメではよくある設定かもしれない、ただしこれはゲームであって、ジャンルは恋愛モノなのである。 その時点で、ユーザーにはもう最終的なものが見えてしまうかもしれない。 さらに、KIDというメーカーはよく生死を扱うシナリオを提供するのだが、その表現の賛否が非常に激しい。 大々的に生死を扱うことをテーマにした本作は・・・それだけでユーザーの幅を縮めてしまい、商業的にはあまり芳しくない結果に終わったのだろう。 それでも、評価すべき点はあるのだが。 システムは、主人公移動型のテキストアドベンチャータイプがメインとなっている。 その上で、本作には特殊システムとしてルームパートというものが存在する。 純粋な霊体=精神体になったことで、いわゆる念力や霊力といった能力を多少使えるようになった主人公が、恋人・遊那に自分の存在を気付いてもらうため次々と彼女の部屋でポルターガイスト現象を起こしていく・・・という、何とも言い難いシステムである。 ストーリー上、何度かこのルームパートへシステムが移行することがあるのだが、実際のところそれほど重要ではない。 画面内(遊那の部屋)で気になる個所をクリックし、ポルターガイスト現象発現→遊那気付く、といった作業を行うだけだ。 その中には特定のシナリオに突入するための必須条件等もあるが、直接ルームパートでの結果が影響するのは遊那シナリオだけという素敵っぷり。 もはや、何のために存在しているかサッパリ分からないシステムである。 時間がかかるわ、ストーリー上強制プレイだわ、遊那の行動には頭を抱えるしかないわ・・・よっぽどこの遊那というヒロインに愛着がないとやっていられない。 参考までに個人的な意見を書かせてもらうと、俺は四六時中遊那を卑下にしながらプレイしていました。 (誤解しないように言っておくと、あくまでもルームパートというシステムが嫌いなだけで、遊那そのものはそれほど嫌いじゃないです。あしからず。) とにかく、このルームパートとかいう駄目システムはさておき、その他の周辺設定はそこそこ快適なので問題はない。 そういうわけで本作は基本的にテキストアドベンチャーなため、その評価はシナリオに依存する。 上記したように生死を扱った作品であり、そしてその対象が1キャラ等ではなく作品全体のテーマとして置かれている。 「人が死んで泣けるシナリオ」が量産・賞賛されていた時代でもあり、それを安易な感動として疎まれていた時代でもあった。 生死を全面的に押し出した本作は、その安易な感動を撒き散らすものと見られていたのも事実。 だが実際のところを見ると、製作サイドもあざとい考えで本作を作っているわけではないようなのである。 主人公の迷走っぷりや、死(正確には危篤状態)による彼を取り巻く環境の変化。 特に記憶を失ったヒロイン・遊那の言動が、あまりにも無邪気過ぎて悲しい。パッと見はただ鬱陶しいだけですが。 彼女の記憶を刺激しないように振舞いつつも、主人公の死によって思いが揺らぐ友人達。 その辺りはかなりよく描かれていると思います、素人目ですけど。 ルームパートのせいで中だるみする箇所は多々ありテンポには欠けますが、終盤からエンディングにかけての展開は中々のもの。 「安易な感動」を伝えるだけの作品かと思いきや、その期待は見事に裏切られる。 あるのはただ強烈な虚脱感。何とも言えない後味の悪さ(良い意味で)と、素直に喜べない結末は正直脱帽。 「恋愛ゲームのハッピーエンド」という概念に疑問をもち始めたユーザーは、一度プレイすることをオススメしておきます。 初回プレイでは強制導入するプロローグ部分を省くと、1プレイのかかる時間は3時間程度とかなりお手ごろ。 ただしクリア対象キャラクターが4人と、そのボリュームが少なめなのが難。 その他欠点としてルームパートの存在、これはとにかく面倒且つダルイので、さくさくシナリオを楽しむタイプの方は止めておいて下さい。 それ以外に関してはプレイする分には問題はないです、普通のノベルアドベンチャーとして遊べます。 今現在PS2でリメイク版も発売され、もう少し知名度が広がって欲しいものである。 |