D.C.P.S. 〜ダ・カーポ プラスシチュエーション〜

ハード/PS2
発売日/2003年10月30日
メーカー/角川書店
値段/通常版6800円・限定版8800円
備考/サーカス製作のPCゲーム「D.C. 〜ダ・カーポ〜」の移植作。


 移植前からタイトルだけは知っていた作品なのだが、TVアニメ化と共にその実態を初めて知る。
 そしてそのブラウン管に映し出される物語は、俺の心を凍りつかせるに十分な破壊力だった。正直、恐怖すら感じた。
 何というか・・・コレ、本当に面白いのか?

 何もないところから和菓子を生成する力と、他人の夢を見てしまう不思議な力を持つ主人公・朝倉純一。
 彼は一年中「枯れない桜」が咲き誇る初音島に、義妹・音夢と暮らしていた。
 ちょっとこそばゆいくらいが丁度よい、恋物語のはじまりはじまり。

 と、いうことらしい。
 個人的にこういう「特殊能力系=シナリオ・設定がファンタジー」は嫌いじゃないのだが、ゲーム開始時に主人公が二つ以上の能力を持ち、尚且つその能力に対して極めて淡白なスタンスを持っているという設定がどうにも解せない。
 主人公を独立したキャラクターとして演出するのは非常に効果的だが、「非現実的」なものを表現する場合には、主人公はプレイヤーの仲介役にならなければ、非現実性と作品内の世界設定を上手くプレイヤーに伝達することは出来ないと思うのだ。
 ユーザーに対して有無を言わさず作品に引き込もうとする意気込みは感じられるが、それほどまでのテキストも演出も無いので哀しくなるばかり。
 それはさて置き、システムをば。
 基本的にオーソドックスなテキストアドベンチャー。選択肢はありますが選択肢依存ではなく、場所移動依存のタイプです。
 日常は共通パート→昼間・学校内場所移動選択→共通パート→放課後・街中場所移動選択、というローテーション。
 この場所移動時に対象キャラクターとの好感度が一定以上のキャラクターが、各キャラクタールートへ以降というベーシックなもの。
 ただ場所移動時に他作品と異なるところに、「ガヤシステム」というのがある。
 これは「ガヤ=周辺の喧騒」を表現したもので、移動場所にカーソルを合わせた時に、その場所にいるキャラクターのガヤが聞こえるというものだ。
 つまり、声を頼りにして対象のキャラクターのいる場所を選択するというシステムである。
 声優に強い方ならかなり簡単にキャラクターを判別出来ると思いますが、最近の声優知らない俺はちょっと苦労。プレイ中に慣れましたけど。
 このようにゲームシステムに関しては特に不満はないのですが、周辺システムを含めるとちょっとプレイ環境が悪いところが少々。
 まずスキップ機能。一応搭載されてはいますが、本作は各シーン・イベントを別々に制作しそれらを繋げてシナリオが進行しているようなので、スキップの有効範囲がその各1シーンのみに限られます。
 つまりどういうことかというと、例えば朝通学時に誰かと出会うシーンがあるとします。そこでスキップを使って、そのシーンが終わり朝の学校のシーンに切り替わるとすると、その時点でスキップ機能が無効になるということです。
 選択肢や場所移動時にスキップ機能が停止するのはお決まりですが、このシーン切り替え時強制スキップ停止には不満が残る。
 この手のテキストに依存した作品は共通するシナリオが多いのでスキップ機能は重要なんですけどね・・・どうにかならなかったのでしょうか。
 それから、上記の理由でバックログ機能もその1シーン内に限定です。これは・・・まぁ許容範囲ですが。
 その他には特に目立った難点はナシ。それでもこのスキップ機能だけで十分マイナス点ですが。
 ・・・まぁ、そのため必然的にゲーム画面とほとんど対峙していなければならないので、もしかしたら製作サイドの策略なのかもしれませんけどね。
 システムについては以上で、これからは本作において重要になるそれ以外の部分について。
 本作品、はっきり言ってしまうと「ダ・カーポという作品独自のもの」といった要素がほとんどありません。皆無と言っていいくらいに。
 特に設定・シナリオが際立っていて、どれも「どこかで見たような」ものが多いです。
 恋愛ゲームにおいて様式美・パターン・お約束といった定石も確かに存在しますが、本作はそれをはるかに凌いでいます。
 簡単に言ってしまうと、ダ・カーポという作品を構成する要素のほとんどが「過去評価を得てきた作品の部分的要因」で出来ているように感じるのだ。
 どうもギャル(エロ)ゲー及び恋愛ゲームにおける「普遍的な人気要素」と「ユーザー受けする要素」を、ただ詰め込んでいるようにしか見えないのである。
 ついでに書くと、それらの要因はかなり最近のものに依存している傾向にある。
 つまり、「ここ最近」の「人気の出た作品」にあった「人気の出た要因」を集めて一本エロゲーを作ってみました。そんな感じである。
 確かに全てがありもののものを繋ぎ合わせたとまでは書きませんが、どうにも「あれに似ている」といった既視感が強い。
 そして上述したように本作のテキストはかなり甘く面白みのないものなのですが、それはテキスト以外の情報で全てが伝わってしまうからではないだろうか。
 テキストを面白くして盛り上げるよりも、「どこかで見たような設定や展開」を提供することによって、それ以上の効果を狙ったのではないかとも思うのである。
 そうすれば、作品の面白さを伝達するという過程の中で、テキストにその役割を依存する必要がなくなるのである。

 これは邪推なのかもしれないが、元々ダ・カーポという作品はそもそもそういうことを前提として作られた作品じゃないかと思うのだ。
 エロゲー業界というのは、ほとんどソフトは使い捨てと言っていい。一月に数十本の作品が発売される消費社会だ。
 その中でダ・カーポという作品は消費される一本として、ここ最近の人気の出た作品の要素を詰め合わせてみたお遊び的なエロゲーだったのではないか。
 はっきり言ってスタッフもそれほど真面目に作っておらず、ライトな感覚で楽しんでいたんじゃないのかなぁ・・・と考えてみる。
 恐らくは製作サイドでも思った以上に人気が出てしまってビックリしてるんじゃないだろうか、いくら絵師の人気があってもおかしい結果である。
 じゃぁ何で人気が出たのかというとこれは結構簡単で、エロゲー及びギャルゲーに足を踏み入れ始めた若年層に人気が集中したのでしょうね。
 彼らはこの業界の歴史や過去どんな作品があったのかを知りませんし、知ろうともしません。
 その知識がない中、とりあえず気に入った絵師のゲームを手にとってみるのが定石です。それで白羽の矢が当たったのが、本作・・・と。
 最近の人気の出た作品を集めた本作とはいっても、ここ数年分の普遍的な要素もあります。だが若年層は「何も知らない」のである。
 そんなギャルゲー知識ゼロの頭の中に、普遍的な人気要素のごった煮である作品を与えたらどうなるか?
 多分高確率でハマってしまうでしょうね。少なくとも「ギャル(エロ)ゲーに興味がある」程度のレベルの人間なら、すんなりとツボに入ってしまうでしょう。
 ちなみに書いておくと、この現象は現実に実際にありました。
 自分の大学の後輩がこの典型的な例で、「ダ・カーポ面白い」と大絶賛。勿論そんな彼はせいぜいここ2年くらいのエロゲーしか知りません。
 家庭用の恋愛(ギャル)ゲーなんてもってのほかで、さらにエロゲーしかプレイしないのにギャルゲーの全てを知ってるようなそぶり。
 何だか切ないですね、「ローマの休日を見たことがない映画通」とかそんな感じです。
 一昔前からギャルゲーに限らずアニメなどに触れていた自分からすると、本作はどうひいき目に見てもつまらないのですが、彼らにはそう感じられるようです。
 そういえば自分も昔はハマった作品に無駄に金をつぎ込んだり、妄信するあまり暴走したりしていた時期もあった。
 そう考えると、年々人口が増える若年層エロゲーオタク(無駄に金持ち)が本作にハマる→関連商品馬鹿売れ→結果としてアニメ化・CS移植。
 多分そんな道のりを歩んできたのだと思います、本作は。

 そんなワケで。
 本作はまっとうな家庭用恋愛ゲームユーザーには間違ってもオススメは出来ません。
 上述したように、本作は良い意味でも悪い意味でも「既存作品の普遍的人気要素のごった煮」です。
 悪い意味では、恋愛ゲーム・ギャル(エロ)ゲーに対して何の知識のない若年層ユーザーが、本作を「本作オリジナルの面白さ」と誤解してしまうこと。
 良い意味では、ここ近年の恋愛ゲーム・ギャル(エロ)ゲーにおける動向を探ることが出来る、ということ。
 少なくともある程度(この場合は)広い意味でギャルゲーをプレイした方じゃないと、本作はちゃんとした視点でプレイ出来ないと思います。
 勿論自分も他人に自負出来るほど詳しいワケではないですけど、必要最低限の知識は持っているつもりである。
 そうそう。
 移植するにあたってPC版から新キャラクターが4人追加されました。当然笑っちゃうくらいベタベタな設定ですが。
 色々書きましたけど、これはあくまで自分がそう感じたという一意見ということでご了承を。もしかしたら本作を単独作品として評価している人もいるかもしれませんし。
 ・・・しかし、もしかしたら本作を面白いと感じることが出来ない俺自身が、本当は古い人間なのかもしれないな。

 それでも、クマと挿入歌は個人的に好きだとか。そんな話。



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