春雨曜日

ハード/DC
発売日/2001年3月22日
メーカー/シムス
値段/6800円
備考/-


 まぼろし月夜を製作したシムスの作品で、基本的にスタッフもほぼ一緒。
 それほど広告を行っていなかったのか、それとも俺が油断していたのかは知りませんが、本作の存在を発売後店頭で知る。
 ジャケットでまぼろし月夜スタッフ製作というのは分かりましたし、期待して・・・勢いで買ったはいいものの・・・?

 主人公・中垣祐は、高校受験に失敗するわ失恋はするわで、傷心中の中学3年生。
 そんな彼の元に、親戚が経営する温泉旅館「春雨」でのバイトの申し出がかかってきた。
 春休みを利用して、彼はその春雨で様々な出会いをすることになる。

 何ともこう・・・歯切れの悪い事前設定です。
 簡潔に言うと「自分の都合の悪い壁にぶち当たってへこんだ中学生が、それを忘れるためにもバイト」するという解釈になります。
 確かにゲーム開始時のプロローグとして「失恋する」というのも良いです、やっきになって「バイトする」展開も良いでしょう。
 ただそれを中学生という主人公にやらせてしまうと、物語として全くと言っていいほど拍車がかからないんですよね。
 親戚が経営する旅館でのバイトという展開が、もの凄く逃避に見えてしまう。
 ちなみに話の発端になっている「失恋」と「受験失敗」ですが、ただ密かに想っていた少女が一緒に勉強していた男友達と付き合うようになり、一気にやる気を無くして受験に落ちてしまったという・・・何とも情けないオチ。
 全体的なユーザー層から見てみると、もうこの時点で主人公に感情移入出来ないのですね。
 俺自身は基本的に客観的な立場でこの手のゲームをプレイするのですが、それでも主人公の言動は鼻につくところがありました。
 まぁ・・・良い意味でも悪い意味でも中学生の主人公ですね。
 システムは基本的なノベルアドベンチャーで、選択肢による分岐と場所移動による対象キャラクター選択でシナリオは進みます。
 システム部分は周辺機能含めてまぼろし月夜と全く同じです、違う箇所といえば2回目以降のプレイで選択肢による感情変化の度合いが色別表示されるくらい。
 そういうわけで、ゲームそのものにに関しては及第点以上は推せます。普通のノベルゲームです。
 そして問題のテキスト・シナリオ部分なのですが、これも良い意味でも悪い意味でまぼろし月夜と全く一緒です。
 本作も独特の空気感と、春雨に集まったキャラクター同士の掛け合いの魅力を保持し、日常描写に関してはかなり好みなのですが・・・
 ちなみにいうと、それだけの作品です。
 シナリオそのものの出来に関しては、もう涙するしかありません。もう救いようの無いくらい面白みなのない仕上がりになってます。
 エンディングとか各キャラクターのシナリオとかはどうでもいいです、それ以外の日常はかなりいい雰囲気を出しているのですが。
 グラフィックに関してもまぼろし月夜そのままで田嶋安恵氏が担当していますが、やっぱり作品世界に合わない気がします。
 これはまぼろし月夜でも思ったことなのですが、ユーザーが共感した部分が製作者が意図したものとは別のところにあったのではないかと思う。
 まぼろし月夜がユーザーに支持されて、シムスでもそれでは続編っぽいものを作ってみようという動きがあったのでしょうけど・・・
 一体どこの部分が求められていたのか、そして製作サイドはどこで人気を得ていたのかがすれ違っていたようなんですよね。
 本作発売前の盛り上がりと、発売後の盛り下がりはそりゃもの凄かったそうです。
 それから本作に関しては恋愛要素が全くと言っていいほど存在しません、基本的に「主人公の傷を癒す」のがゲームの目的なので。
 そんなワケで、対象キャラクターとのシナリオは恋愛話というよりは身の上話・恋愛手前のちょっとイイ話程度です。あやや。
 どうにもこうにも中途半端なのが・・・本当に一体何を意図して製作したんでしょうね?
 まぁ・・・頭ごなしに悪い作品とは言いませんけど、酷評になるのはやっぱり期待が裏切られたということが相乗していますね。

 あらゆる意味で「まぼろし月夜の劣化コピー」品。客観的に見て可も無く付加もない、ただそれだけの作品。
 あるいはまぼろし月夜を未プレイの状態で、本作をプレイすれば評価も変わるんでしょうけど・・・
 まぁ製作サイドも「ちょっと不思議なほのぼのとした話」が作りたかったようですし、そういう意図のものとしては成功しているかも。
 それでいて、その不思議な日常描写や、キャラクターの掛け合いなどに重点を置ける人ならそこそこ楽しめるかと。
 シナリオ主義者と、まぼろし月夜のような作品を期待している方、主人公=自分の分身と考えている方は止めておいた方がいいです。
 ついでに言うと、本作のイメージ的には「ラブひな」です。キャラ配置や展開方式がそっくりです。
 目新しさも無ければシナリオ的な面白さもありませんが、変な先入観もなくプレイ出来ればあくまで普通のノベルゲームだとは思います。
 最後に特筆することを上げれば、音楽は良いですね。サントラ未発売ですが。
 もうシムスはこの手の作品は作らないでしょうね、実際作ってないようですけど。それはそれでちょっと残念かな。



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