彼女の伝説、僕の石版 〜アミリオンの剣とともに〜

ハード/PS2
発売日/2003年12月18日
メーカー/D3パブリッシャー BESTMEDIA
値段/4800円
備考/-


 年末という時期には、沢山の新作ゲームソフトが発売される。
 元々TVゲームの顧客層は子供だ。クリスマスから正月のお年玉というゴールデンシーズンに、新作や大作を発表しないメーカーは少ないだろう。
 勿論この手の恋愛(ギャル)ゲームを子供が買うとは思えないが、それをさて置いても、本作は年末に発売する意図がよく分からない珍作である。

 いつもと変わりの無い夜、インターネットで「絵本を作成するソフト」を見つけた主人公。
 しかしソフトを起動した瞬間に眩い光に包まれ・・・
 気が付くと、そこは見覚えのない不思議な国。そして、見覚えの無い五人の少女が主人公を囲んでいた・・・

 とか、そんな話。
 単純に説明すると、オーソドックスな「異世界召還ファンタジー」系です。
 まぁ異世界召還系は結構好きなので良いんですが、問題なのは「手に負えない悪者出てきたから異世界から勇者(主人公)召還」系なことです。
 つまり、オーソドックスでありスタンダードでありステレオタイプであり・・・早い話が「使い古された時代遅れの設定」なワケです。
 正直、今の時代こんな設定で勝負をかけてきたということは、よっぽど優れたゲームデザインやテキストで構成されているのだろうと期待していました。
 「ありきたりな設定」に不安を抱くのではなく、その「ありきたりな設定」で勝負をかけるということは、それだけ製作サイドの自信の表れだと俺個人は思っています。
 だって、いくらなんでも恥ずかしいでしょう?「ありきたりな設定」をそのまま使うなんて、クリエイターとして。
 そのありきたりな中で、どれだけ新しいものを創り出せるのかという挑戦的な姿勢にも見えますしね。パロディという方向性も考えられますが。
 で、こういった前置きで期待させておいてシステムをば。
 極めてオーソドックスなテキストタイプのゲームです、基本的にはテキスト読み進んで行き、必要に応じて選択肢というスタイル。
 その他特異なシステムとして、主人公が持つノートパソコン(タイトルにある「石版」はコレのこと)を介したものが存在する。
 まぁシステムと言うには大げさなのかもしれないが、まずは「メール」。コレは主人公を召還した意思(ネタバレになるので避け)からの通達で、時たま受信しては主人公にアドバイスしてくれる(とは言えあまり必要は無いが)。これらは随時見れるようにもなっている。
 それから上述したように、本作のキーの一つとして挙げられる「絵本を製作するソフト」。
 これにより本作はストーリーの軌跡が絵本として出来上がっていき、プレイヤーは常時それを閲覧することが可能になる。
 本作はヒロイン達(5人、と1人)と世界を救う冒険の旅に出発するというくだりで始まりますが、その冒険の中で特定の条件下ではストーリー上で「これから起こる出来事」に対して「誰が」その対象になるかの選択をすることが出来ます。
 基本的にはこの選択によって対象キャラクターのシナリオが進むので、プレイ毎に特定のキャラに絞って進むのが妥当なプレイスタイルでしょう。
 ・・・という風に、システムは極めて単純です。普通のノベルゲームと考えてください。
 とは言え、周辺環境はかなり悪いです。
 まずレスポンス、画像表示が何故か妙に遅い。細かいセリフがキャラ毎に入れ替わりながら表示されるので、非常にテンポが悪く感じてしまう。
 それからスキップ、本作にはスキップ機能は存在しません。スキップはゲームシステムやスタイルによっては必要のない作品もありますが、本作はまず間違いなく「必要とする」タイプの作品です。上述したようにテンポも悪く共通ルートが多いので、何度もプレイしようとする気が起きない。ダレてしまうのだ。
 このように、各キャラクターをクリアするためには「何度も同じテキスト」を「ダラダラ」と読み進めなければいけないので、大きなマイナス点になる。
 ただそれ以外に関してはそれほど悪いところはなし(周辺環境のみで)、バックログ機能がないのは痛いですが、まぁ許容範囲。
 CGモードもありますし(結構CGの数も豊富)、セーブ箇所が多いのも(本作にそれほど必要か否かは別として)個人的には好感触。
 声優に関しても問題なし。ヒロインの声優はあまり聞いたことのない名前でしたが、演技は及第点以上かと。
 それよりもサブキャラに並ぶベテラン声優の名前が・・・加藤精三氏や清川元夢氏の声が聞ける恋愛ゲームなんて他にないさぁ。

 と、何だかそこそこ好意的に紹介しましたが、ハッキリ言って本作は「面白くもない」し「好きでもない」です。
 ありきたりな設定の中で、どれだけそれを(良い意味で)逸脱したものを魅せてくれるのかと期待していましたが、全然駄目です。
 本当に、一昔前の「異世界召還主人公イキナリ勇者、世界救ってヒロインとくっつく」話。そのまんまです。
 でもその過程は?ヒロインのキャラクター性は?テキストは?と、少しでも作品の独自性を見つけようとしましたが、本当に「無い」んです。
 過程はネタバレになるので書きませんが、確かにオーソドックスであり、妥当なストーリーとも黄金パターンとも言えます。
 それでも、ドキドキもハラハラもしないというか・・・「冒険している」とも「世界を救っている」とも思えないというか・・・
 何だか、つまらない舞台劇を見せられているような感じなのです。
 キャラクターは・・・まぁいわゆるステレオタイプの娘ばかりです、見てくれで性格が分かる、ような。
 コレに関しては何も言えないですよね・・・特異的なキャラを実験的に出すのも、安全策を狙ってステレオタイプに逃げるのも。
 どちらも製作者のスタイルとも言えますしね。個人的にはステレオタイプながらも捻りをきかせたキャラが好きですが。
 テキストは、良くも悪くも「普通」。読みづらくも無くすんなり頭に入りますが、コレといった面白みも無い。
 そんなワケで「面白くない」というのは確信しているのですが、珍しく「好きでもない」と評価。
 個人的にはどんなに滑っていても、意欲的であり特異的なものが際立っていれば、それは高評価であり「好きな作品」になります。
 けれど、本作にはそれがほとんど皆無と言っていいほど無い。
 確かに最近は異世界召還モノが少ないので、昔を知らない若年層を狙って本作を作ったのでしょうが・・・俺みたいな世代にはもう駄目のダメダメ。
 本作は、本当に「異世界に召還された主人公が、戸惑いながらも世界を救ってヒロインとくっつく話」だけで説明に事足りる作品です。
 それ以上のものはないと思ってください。
 ついでにもう一つマイナスなのは、ヒロインとの異世界エンディングがないこと・・・コレは、本当にどうかと思う。
 いや、もしかしたらあるのかもしれないが・・・少なくとも、俺のプレイでは出来なかった。

 そんなワケで、本作はオススメしかねる作品になります。残念ですが。
 4800円と標準より安価ですが、そんな大金を払ってまで買う価値があるとは思えません。SIMPLE2000ならあるいは・・・程度で。
 それでも、プレイして思ったことですが、「エターナルメロディ」と「風の谷のナウシカ」が好きな方なら挑戦してみてもいいかも。
 いや勿論異世界召還モノとしてはエタメロの足元にも及びませんが、何となーくな雰囲気は感じれるかも。しれ、ません。
 それから何故ナウシカなのは、ちょっとところどころ思わせるセリフや演出があったため。まぁコレは邪推かもしれませんが。
 上述しましたが、何でこんな作品を年末のゲームラッシュにぶつけてきたのかが未だに理解できない。
 もしかしたら、どんなものでもいいから一本発売しないとヤバイ、切羽詰った状況だったのかもしれない・・・

追記・・・本作は主人公の名前は「主人公」です。
    登場キャラクターは異世界からの使徒として「使徒様」と呼びますが、表記はずっと「主人公」です。
    なぁ、ダレだこのゲームをデザインしたヤツは?

追記2・・・コレは本当に邪推かもしれませんが、本作はどっかの専門学校の生徒が卒業制作か授業の課題で製作したゲームなんじゃないかと。
     原画の方はプロなので何ともいえませんが、全体からくる「専門学校生臭さ」がキツイので・・・



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