風の丘公園にて

ハード/PS
発売日/1998年9月3日
メーカー/テクノソフト
値段/5800円
備考/-


 サンダーフォースで有名なテクノソフトが製作した珍しい作品。
 当時は硬派なシューター達の間で、ちょっとした話題にもなったようだ(恋愛ゲーム業界、じゃないところが面白い)。
 ギャルゲーバブル真っ只中で発売され、大して評価もされずに忘れられた秀逸作品の一つ・・・と、個人的には思っている。

 主人公・川奈暁は、何の変哲もないごくごく普通の高校2年生。
 冬も近い晩秋、彼のクラスに転校生の少女がやってくる・・・そしてその少女は、暁を見るなりこう言うのだった。
 「やっと・・・会えたね」と。

 当時の恋愛ゲーム(ギャルゲー)は「何でもいいから出せば安定して売れる」代名詞で、あらゆるメーカーが参入してきた。
 そういった側面から見てみれば、シューティングゲームの筆頭メーカーがギャルゲーを出すなんて・・・その思惑を読み取るのは容易いだろう。
 しかし、その製作意図は当時としてはかなり斬新で、革新的であったと個人的には思う。
 ・・・まぁいささか過度の誇張や、主観的なものも混ざってしまうかもしれないが(俺はこの作品が大好きなのだ・・・)、こちらとしても気をつける。
 商業的には失敗(売上げやファンの獲得)してしまったが、中々深い作品なのである。
 まずはシステムなのだが、当時PC業界では汎用性の高いシステムとして流通し始めていたノベルタイプのものを使用。
 今となっては別にどうということも無いように流されるかもしれないが、CS恋愛ゲームにおいて、このシステムを初採用したのはこの作品なのである。(音切草やかまいたちの夜に代表されるサウンドノベルというのもあるが、ビジュアルや恋愛要素に特化させたのは初)
 本編を構成するシステムとして、恋愛要素を伝えるインターフェイスとしてあまりにも汎用性が高すぎて・・・最近ではノベルであることが一種のステータスでもある。
 その中で、本作はテーマでもある「叙情的恋愛」や「攻略概念の廃止」などといった明確な意思によって構成されている。
 ゲーム開始時に対象ヒロインを決定するダイレクトヒロインセレクトも、それらの意図の上に成り立つ。
 当時の主流である機嫌取りゲーム(複数の女性キャラに対しアプローチをかけるというもの)を真っ向から否定し、独自の世界の構成に成功。
 テキスト表示ウィンドウの変化(通常時・イベントCG時等)や画面レイアウト、演出面でも当時のものと比べるとかなり異端である。
 こう見ると、確かに着目すべき点はいくらでもあるように思えるのだが・・・
 敗因として、ゲームとしてあまりにも異端過ぎたことが一つ、そして内容があまりにも普通過ぎたことが一つ。
 当時の背景として、ゲーム性を重視したシュミレーションタイプがまだ主流だったことと、攻略過程→キャラへの愛着といったユーザーが多いことがある。
 本作に対してゲーム性を求めるのは苦である。
 ただでさえゲーム性に乏しい(それだけ特化しているという見解もある)ノベルタイプに、開始前からヒロインを選択するシステム。
 選択肢に時間制限を求める(現実的な対応能力を必要とする)といったシステムも積んではあるが、結果的には大した影響を持たせることは出来なかった。
 そして、当時はプレイヤー=主人公という風潮があり、ゲーム本編はプレイヤーが体験する別世界という認識が強かった。
 主人公を行動させて、女の子と仲良くなって・・・プレイヤーは主人公を媒介にしてゲーム世界の住人になり、キャラ達への思い入れも強化されるのである。
 しかし、本作の主人公は名前固定という、当時としては珍しいパターン。
 (もちろん名前固定タイプのゲームは当時としてもありますが・・・例えば「同級生」などは自由度が多く、主人公はプレイヤーの代弁者として機能し、同時にADVとして攻略概念を持たせることが可能です。他にも「EVE」「YU−NO」などに代表される本格的なADVなどもありますが、ストーリー及びシステム的な差異もあるのでこの場は割愛します。機会があれば、システムや内容などの経緯を思索してみたいですね・・・)
 当時として、攻略という行為のない薄いゲーム性・プレイヤーと主人公を切り離した設定・・・今なら受け入れられるかもしれませんが、薄味だったのですね。
 キャラクターも叙情的というコンセプトに則し、かなり控えめな設定。イラストに関しても、いわゆるアニメ絵ではないので・・・敬遠した人も多いはず。
 つまり、完全に当時の主流から外れているんです。
 それでいて、ノベルタイプにおける肝心のシナリオの方はというと・・・いたって普通の内容。
 一昔前の少女漫画のようだ、と個人的には思いました。妙にベーシックな展開と、甘ったるいセリフに、背景に華を添えてあるようなシーンなど・・・
 プレイしているこっちが恥ずかしくなってきます。
 そうですね・・・ギャルゲー風にアレンジしたハーレクイン、といった感じかもしれません。もちろんそこまで露骨ではないですが。

 原画はとても癖のあるC次郎氏を採用・・・好みが分かれるでしょうが、個人的には世界とよく合ってると思います。
 ゲーム中のグラフィックは高画質ハイレゾ表示で、何と言いますか、綺麗なだけならPSソフトでも間違いなくトップクラスの美しさです。
 ・・・逆に綺麗過ぎて、イベントCG表示中の文章が読みづらくなるというデメリットもありますが・・・
 音楽はサンダーフォースなどを担当なされた九十九百太郎氏。
 1曲1曲の出来も素晴らしく、恋愛ゲーム音楽としては最高クラスだと確信します(今まで音楽に力を入れた恋愛ゲームが少なかったという側面もあるが・・・)。
 この2点は本作品の強力な武器ですので、是非とも堪能して欲しいものです。

 この作品で評価出来ることの一つに、「普通」であることがあると思う。
 シナリオも普通、キャラクターも普通。恋愛ゲームとして、内容に可も無く不可も無く・・・誉めるところも無ければ、けなすところも無い。
 それは、まさに芸術的なまでの普通っぷりです。
 システムの特異性、キャラクターの特異性を持たせようと四苦八苦する恋愛ゲーム業界の中、こうして自然と普通を認識出来る作品は珍しい。
 確かに、その分面白み(良い意味でも悪い意味でも)が無くなってしまうかもしれませんが、普通の面白みもあると思います。
 実際問題として・・・このような「普通の話」を作るのが一番難しいのではないかとも思います。「普通じゃない話」は考えればいくらでも出ますから。
 そういう意味でも貴重な作品だと思いますし、多大な評価は出来ないとしても、覚えておいて損はない作品ではないかと。
 今では安く売っていますので、シンプルシリーズとして買うのが吉です。
 もうびっくりするほどリリカルラブストーリー



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