高円寺女子サッカー
ハード/PS2
発売日/2006年4月13日
メーカー/スターフィッシュ・エスディ
値段/通常版7140(税抜6800)円 限定版8190(税抜7800)円
備考/CERO15歳以上推奨
   限定版封入/高円寺女子学園生徒手帳(設定資料集etc) オリジナルサウンドトラック


 「高円寺女子サッカー」…とても、懐かしい感じのするタイトルである。
 近年の主流としては、タイトルには作品のテーマを優先したものや、イメージ/雰囲気を重視したものが付けられるのが基本だ。
 そんな中、実に内容を想像し易いタイトルである。「高円寺」で、「女子」で、「サッカー」なのだから。

 主人公・「茂江流 斗志」は、東京は高円寺にある「高円寺女子学園」に新人の体育教師として赴任することになった。
 今までサッカー一筋であった彼は、学園に「女子サッカー部」が新設されることを知る。
 持ち前の熱い心を燃やして、彼は女子サッカー部を全国優勝へ導こうとするが…

■説明を読めば分かる通り、本作は基本的に懐古的であり、基本的に存在がギャグです。
 そもそも、主人公の名前が「もえる とうし」の時点で、作品のベクトルが明後日の方向に向かっていると言っていい。
 これは何だ、島本和彦リスペクトなのか!?
 それから、ゲームジャンルが「ドラマチックスポ根美少女ゲーム」という、分かりやすいような、恥ずかしいような代物。
 パッケージに堂々と書くものじゃありません、こんなの。
 しかし、スポーツという部活モノは、この業界でも安定した作品を排出しているのは、賢明な皆さんも承知のところ。
 きっと、「プリズムコート」や、「DOKIDOKIプリティリーグ」のような内容を想像したことでしょう。
 勿論管理人もそうでした。
 しかし。
 予想とは、裏切られるためにある。希望とは、砕かれるためにある。

■まず本作で驚くのが、なんと説明書。
 中身が「モノクロ」です、今の時代で。
 いわゆる表1表4だけがカラーで、他の中身は全て白黒。こんなの、PS2ソフトじゃシンプルシリーズ以外で見たことありません。
 この時点で、メーカーの本作に対するスタンスが見える。
 やる気のなさと、別にお金をかければいいってもんじゃないですけど、予算のなさが分かってしまう。
 まず、ここでプレイへの不安が一つ。

 ゲームを起動。
 非常に微妙な主題歌と、非常に微妙な静止画ムービー。
 主題歌の方は、公式サイトで聞いた時から微妙と感じていたが、ギャグだと思えば耐えられたのだけれど…
 それ以上に、ムービーのやる気のなさがいただけない。
 フリーの動画編集ソフトと、ゲーム中に使われるグラフィックがあれば、素人でも作れるのではないだろうか。
 少なくとも、プロの所業ではないことは確かだ。
 動画としての演出、効果…これでは素人であるユーザーすらも騙せない、その程度のレベルである。
 そろそろ、ゲームを購入したことを後悔し始めるだろう。
 ここで、プレイへの不安が二つ目。

 ここでタイトルへ。
 さていよいよ本編開始というところだが、ここでちょっと気になるところがあった。
 レスポンスの悪さである。
 PRESS START→NEW GAME…この辺は、基本的にどのゲームでも同じなのだが、どうも反応が悪い。
 項目を選択してからの間隔が、無駄に長いのである。
 初回プレイで、NEW GAMEを選択するまでの、ほんのボタンを2回押すだけの行為。
 それなのに、実に明確に「反応が悪い」と感じた。
 …とはいえ、タイトル画面での選択なのだから、ある程度の「溜め」を演出したのだと納得しようとはしたが…

 つのる不安を振り払いつつ、本編へ。
 本作のシステムは、基本的にはテキストアドベンチャー。選択肢によって展開が変化していくタイプだ。
 テキストの表示速度自体は、普通。ボタンレスポンスも悪くはない、のだが。
 セリフの場合、テキストが全文テキストウィンドウ内に表示される前にボタンを押すと、音声が全てキャンセルされるのが頂けない。
 つまり、「○○○×××□□□」というセリフがあった場合、音声の同調無しで「○○○×」までの表示でボタンを押すと…
 テキスト全文が表示されるものの、音声もキャンセルされてしまう。
 一般的には、テキスト表示の場合音声同調無しだと…
 1ボタン→テキスト全文表示/音声は続く
 2ボタン→その上で音声キャンセル
 というのが基本的である。勿論、それにならう必要性はないと言えばないし、1ボタンの作業がない分スムーズとも言える。
 この辺はプレイヤーの好みか、管理人はちょっと馴染めなかったが。
 それに加えて、本作は全体的にロードが多い上に、それにかかる時間が酷く長い。
 キャラクターの画像切り替えなんて、パターンが少ない上に頻繁に変えるから、非常にテンポが悪く感じる。
 メイン画像に対して、顔の表情だけ変えているタイプではなく、表情/ポーズ毎に変えるタイプなためだとは思うが…
 それでも、下手をすれば初期のPSゲームと思うくらいに時間がかかる。
 製作者の技術がないせいなのだろうか、誤魔化すために無駄なエフェクトもかけているが、逆効果にも思える。
 とにかく、従来のノベル/テキストゲームに慣れていると、この壊滅的なテンポの悪さに撃沈すること必至。
 恐らく、「面白い/面白くない」以前の問題で、本作を投げた人も多いだろうと予想する。
 それくらい酷い。
 さらにもっと酷いのは、選択肢だ。
 従来のノベル/テキストゲームにおける選択肢は、大体、場所移動(ルート変更)/好感度変化のために存在しているが、本作は違う。
 本作における選択肢とは、「生きる」か「死ぬ」か
 何だそれと思われるかもしれないが、実際その通りなのだから仕方がない。
 つまり単純に書くと、本作で二択の選択肢があったとしよう。
 片方を選択すると、普通に何事もなく話が進んでいくが、間違った方を選択すると即バッドエンド直行
 その時点でエンディング扱いになり、システムデータの保存と共にタイトルに戻されることになる。
 つまり、ほぼ常に正解の選択肢を選んでいかないと、ゲームオーバーになってしまうということ。
 「選択肢」の意味が、バッドエンドかゲーム続行の二択という、もはやプレイヤーを舐めきったところまで落ちているのがもはや哀れ。
 おかげで、選択肢の前にセーブは必須です。ここでも、ロード/ゼーブにかかる時間が長くてイライラが増大。
 プレイヤーに対して、ストレスを感じさせず、軽快にプレイを楽しませたいという意思が感じられない。
 腐ってもゲーム屋として、これはどうかと思う。
 選択肢のないデジタルノベルの方がまだマシだ。

 上述したのは、ざっとゲームに触れてみればすぐ分かる、システム的なマイナス点。
 次からはもう少しミニマムなところを見てみよう。
 グラフィック。
 キャラクターデザイン/ゲーム内メイングラフィックは同じ人が担当し、その統一感は安心出来る。
 現代的なデザイン/絵柄でありながら、見ていて疲れない健康的な画面はかなり好感触。
 ただ上述したように、キャラクタの表情変化の際にキャラクタの1枚絵ごと変えてしまうのは非常に残念。
 表情だけを置き換えるくらいの芸当は出来なかったのだろうか。
 そしてキャラグラフィックはいいのだが、何よりも背景グラフィックが最悪。
 雑多な3Dソフトを使って、適当に仕上げましたとか言わんばかりの、酷く申し訳程度に繕われたものである。
 専門学生が専用ソフトウェアを使って始めて作ったような、それとも会社のバイトに適当に作らせたか。
 少なくとも、「プロ」がやる仕事ではない。
 写真トレースOKと言われれば、時間はかかるものの管理人の方がまだ真っ当なものを作れる自信がある。
 音楽。
 全体的にあまりいい楽曲ではなく、総曲数も従来のゲームに比べて少ないが、逆に同じ曲を作中の展開に合わせて 何度も何度も何度も…使うので、非常に耳に残る。そういう点では評価していいのかもしれない。
 だが、SEに関して言うのなら最悪。
 音そのものの出来もそうだが、効果として使うタイミングも、演出も素人レベル。
 適当にSEを詰め込めば演出としてそれなりになる、と思うのも製作サイドの勝手だが、これはまるで覚えたての言葉を連呼するだけしか 出来ない赤子のようだ。見ていてその稚拙さと、滑稽さに言葉も出ない。
 インターフェイス、及び装飾グラフィック。
 インターフェイスは非常に味気なく、タイトル画面にしろ、選択肢画面にしろ、システム画面にしろ、とても淡白だ。
 必要事項を単純に並べ立てただけで、独自性のカケラも見当たらない。
 装飾は淡白を通り越して、かろうして「そういうもの」を保っているレベル。全体的にセンスが皆無。
 そもそも技術がないのか、それとも製作する気がないのかは分からない。
 何故このような作品が、商業レベルで発売されてしまうのかは謎と言ってもいい。
 演技。
 声優は女性だけフルボイス、男性は残念ながら声無し。この時点で大きなマイナス、統一性ないしね。
 出演声優は全員無名の伊新人(というか専門学校生らしいが)で、有名どころや、プロとして活躍している人は一切いない。
 演技のレベルは決して高いとは言えないが、全然違う畑から持ってきた人達ではないので、特に気にならないレベルだろう。
 むしろ、演技が酷い作品なんて探せば結構あるので、それに比べれば全く問題はない。

 次は、本作特有のシステムを。
 本作はまがりなりとも「サッカー」ゲームである。育成要素も、SLG要素も一切ないが、一応試合としてのサッカー描写は用意してある。
 とは言え、それほど突出した「システム」が組まれているわけではない。
 単純に、現在の試合展開に合わせて、的確に指示を与える(選択肢で)、というだけの話である。
 そういうわけでゲームとしては不出来だが、試合描写は分割ウィンドゥを使用したり、フェイスアップを使用してみたりと、演出は頑張ってる。
 ただロードが長い上に、画面切り替えなど試合を表現するために多様しているせいか、スピード感が皆無。
 もっと技術があるのなら、ちゃんとキャラ育成が可能なSLGにして、試合も試合専用の別システムを組んで欲しかった。
 「キャプテン翼」みたいなので。

■さて、こうして本作にちょっと触れてみたが、大体どのようなものかは伝わっていると思う。
 細かいロードのせいでテンポが最悪。
 背景グラフィックのクオリティは恐らくPS2で発売されたソフトの中で最も下。
 選択肢による即死エンドが多すぎて、そもそも選択肢の意味がない。
 さらに、その中に普通に好感度審査のための選択肢が混ざっているため、ルート判別が非常に困難。
 全体的に安っぽい、というか安い。
 B級というよりC/D級。

 管理人は生粋のB級好きですが、それでも本作は少々荷が重い、と感じるくらいの作品。
 確かに全体的な出来の低さもあるのですが、何よりも製作サイドのやる気の無さが非常に嫌。
 馬鹿ゲーでもいいし、微妙な内容でもいい。けど、真面目に作って欲しい。
 そういう意味では、本作はすでに「作品」であることの概念的な意味を自ら放棄したとも言えます。
 ただし。
 唯一本作の武器だと言えるようなものがあるとしたら、それはもはや定石の範疇では捉えられないテキストと展開のセンス。
 これだけは絶賛してもいい。
 いい…けど、テキストも、展開も、それに伴うキャラクターの描き方も、場の描き方も、かなり人を選ぶ。
 この作品は、いわゆる「キャラ萌え」とかの要素が一切ありません。
 いや、ある意味そうなのかもしれないけど…単純に、女性キャラクターをユーザーに対して能動的に動かすことは決してしない。
 あくまで、その作品世界内で、自由奔放かつ明朗快活に動く。
 キャラクターが活きている、という点においては絶賛してもいい。しかし、その表現があまりにもミニマム過ぎる。
 つまり、製作サイドが楽しみ過ぎてるのね。
 ユーザーに媚びないのは評価する、けど、「ユーザーを全く相手にしない」というのとは違う。
 展開。
 あらゆる定石、あらゆるお約束、そして複線/息をのむ展開…
 そういった固定概念を、良い意味でも悪い意味でも完全に裏切ります。「高円寺女子サッカー」という作品は。
 これに対して、無粋で混沌とした作品未満の駄作とみるか、予測不可能で前衛的な革新的な作品とみるか。それはユーザー次第。
 いや、本当にこの作品の評価は難しいんですよ。
 体裁など技巧的な側面を見ると、はっきり言ってお話にならないくらいのレベルです。駄作という言葉も生ぬるい。
 それでも、この奇妙な空間と波長があってしまったら…評価は180度変わります。
 そういうタイプの作品なんですよ。
 0か10しかない。

■そういうワケなので、中途半端にオススメは決して出来ない作品です。
 出来は最悪です、これは間違いない。かといって、つまらないワケでもない。けど、人には勧められない。
 購入しようとするなら、大博打と思ったほうがいいです。どうやら、出荷台数も少ないらしくて、相場も値下がりしませんし。
 ちなみに、参考になるかは分かりませんが。
 管理人は、これを好きか嫌いかどっちか決めろと言われたら、間違いなく「好き」と答えます。
 ゲテモノ好き専用ゲームなのかもしれませんね。
 あと、重要なことを一つ。
 本作は、決して「恋愛ゲーム」ではないということです。つまり、恋愛要素を踏まえるともう下の下です。
 それでも、一応キャラ別シナリオもあるし、エンディングもあります。
 …何故なら、本作は「ドラマチックスポ根美少女ゲーム」だから!
 ドラマチックスポ根美少女恋愛ゲームじゃないのよね…
 まぁ、色々と楽しめました。色々と。

 



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