まぼろし月夜

ハード/DC
発売日/1999年9月23日
メーカー/シムス
値段/5800円
備考/-


 ドリームキャスト初期に発売された作品で、そういう意味では比較的にメジャーな一本。
 開発はシムス。その道には詳しくないのでどんなメーカーかは知りませんが、かなり裏方で活躍した硬派メーカーだそうで。
 さてさて、これまた思いたったように恋愛ゲーム製作に手を出したように見えますが・・・

 季節は初夏、主人公・田中隆史は一人の着物姿の少女・あやめと出会う。
 彼女は自分の曽祖父の恋人だった少女で・・・震災でその命を落としたまま幽霊となっていたのである。
 主人公を祖父と勘違いした彼女との、奇妙な同棲生活が始まったのだった。

 どんなジャンル・業界にも必ず一本はあるという「幽霊もの」です。
 よくよく考えてみればもっと早い段階で出てきそうな設定ですが(98年あたりに)、CS恋愛ゲームではメインとして扱ったのは初。
 実は幽霊だったオチのキャラは何人かいましたが、主軸として使用した場合の効果を上手く利用した快作だと思います。
 システムはオーソドックスなノベルアドベンチャー、期間は初夏ということで7月から9月までの約2ヵ月。
 選択肢による好感度によりシナリオが分岐していきますが、基本的に平日放課後には対象キャラクターを選択出来ますので難易度は低め。
 既読スキップなど各周辺設定や使いやすさも及第点以上、ノベルアドベンチャーとして必要最低限のものは完備。
 そういうわけで、必然的にその判断基準はテキスト・シナリオに絞られてきます。
 最初にテキストそのものですが、比較的読みやすく、なんと言ってもそのキャラクターの掛け合いと雰囲気がとても上手く絡み合っている。
 無意味にキャラクターを誇張せずすっきりした表現と、自虐的なまでに媚売った箇所もなくすんなり受け入れられる。
 その分突飛した部分は期待出来ませんが、ノベル系作品として読み進めることに疲れと飽きが来ない部分は注目すべき点です。
 このように、テキストそのものや雰囲気、掛け合いなどはノベル系作品の中でも屈指の出来。
 ただし非常に残念なことに、各キャラクターのシナリオを評価の対象とすると、正直顔を歪めざるをえません。
 本作にはクリア対象キャラは8キャラ(隠し入れて9キャラ)いるのですが、はっきり言ってシナリオの完成度として高低差が激しいのです。
 確かにシナリオ・ストーリーの好き好きもありますし、他作品でもこういう状況は多々あります。
 実際のところ、本作のシナリオに対して「感動した」というような意見も多いですし、個人的にもそれは同じです。
 ただし、その良く出来たシナリオはあくまで一部のキャラクターのみで、その他のシナリオに関しては・・・思わずパッドを落としそうになりました。
 全体的に見て背景設定も良く出来てます、テキスト表現に関してもかなり好みです。
 シナリオも完結していますし、そういう意味では「完成度」は高いのかもしれませんが・・・各キャラ毎にその出来具合の差が激しいです、本当に。
 表現するのが難しいですが、同じくらい良い設定という材料が、調理の仕方によって味の良い・悪いがハッキリ出てしまった感じ。
 これはあくまでも個人的見解になりますが、もうつまらないとかどうでもいいで済む問題ではなく、純粋に「悔しい」のです。
 一方ではテキスト・シナリオ共に素晴らしい出来を誇れるライターの方が、何故一方でこんな貧しい表現しか出来ないのか。
 そしてその一方の出来で製作サイドが納得しているのがとても悔しくて・・・あと一歩で傑作と呼べる作品になったかもしれないのに。
 ・・・まぁこれはあくまで個人的な意見です。キャラクターそのものを踏まえて言うと、確かに全てのシナリオは必然的にも思えます。
 それからどういうシナリオが良い・悪いのかを判断する材料はとても難しいですしね。
 本作の場合上記したように日常描写や掛け合いが最大の武器だと思うのですが、それを考慮した場合シナリオの結果はある意味正しかったのではないかと。
 各シナリオに差異があるのは、その武器でキャラクターを表現する以上しょうがなかったのかもしれません。
 他にグラフィックですが、これはかなり人を選ぶと思います。
 キャラクターデザイン・原画は田嶋安恵氏、かなり濃く癖のある絵を描く方です。
 立ちグラフィックは結構好きなのですが、元々エロ作家なので原画に無意味なエロ表現が加わっているのが壊滅的に悪評価。
 作品の持ち味がもう爽快感さえある日常描写にも関わらず、それを台無しにするようなグラフィックです。個人的にですけど。
 はっきり言ってグラフィックに関しては本作に合ってないと思います、もう少し淡い感じの方が向いていたかと。
 これは邪推かもしれませんけど、製作サイドで「自分達の武器」を履き違えているような気がします。

 かなり褒め過ぎた感じもありますが、個人的に「最も傑作に近い良作」の一つ。
 日常描写に関しては、今までプレイしてきた作品の中で一番好きかもしれません。無理もなくキャラが立っているのは感嘆の一言。
 それから音楽もかなりの良質です、CS恋愛ゲームの中でもかなり上位の出来。雰囲気にも良く合いますし。
 弱点としてシナリオの差異が激しすぎること、それから全体的に地味目(武器でもありますが)なこと。あとは好き好きでグラフィックでしょうか
 全体的に見て作品レベルはかなり高く、世間的もそこそこ評判は良いようです。
 DC版なら今現在かなりの安価で発売されているので(商業的展開がPS初期ギャルゲーなのは泣ける)、手に取るのもアリかと。
 ただDC版で非クリアキャラクターだった2キャラをクリア可能にしたPS版も出ていますので、買うならそちらの方を。
 PS版なら廉価版も発売していますので、余裕があるなら是非。
 いや、本当に悔しいくらい大好きな作品なんですよ。もう涙が出るくらいに。

追記・ちなみにワンダースワン版の発売が予定されていたが、製作中止になったようである。
   ・・・それにしても、どうやってWSに移植するつもりだったんだろうか・・・それとも「あわせ打ち」みたいなヤツだったんだろうか。



戻る