Memories Off 〜それから〜

ハード/PS2
発売日/2004年6月24日
メーカー/KID
値段/通常版6800円・初回限定版8800円
備考/初回限定版・オリジナルサウンドトラック付き
   15歳以上推奨


 泣く子も黙る、むしろ泣く子はもっと泣く。そんなMemories Offシリーズの4作目。
 続編を重ねるごとに、何やら変な方向に迷走しているという感じだが・・・はたして、今作はどうなのだろうか。
 前作を考えると期待と不安を抱かせるには十分なタイトル、そこが魅力というのもあるが。

 主人公・鷺沢一蹴には、恋人・陵いのりがいた。
 全てにおいて順調であった二人の関係は、卒業を間近に控えたバァレンタインデーから変わり始める・・・
 いのりから手渡されたのは、チョコレートと・・・別れの言葉だった。

 毎度のように、今作もシリーズ全ての舞台設定をそのまま移行。時間軸で言うと、前作から約一年後という設定のようだ。
 直接の舞台になるのは、主人公達が通う学校からして2でメインだった浜咲になるか。澄空関連の設定がほとんど出てこないので、2、及び 想い出にかわる君の情報があれば問題ないかもしれない。
 とは言え、やはり相変わらず全てのシリーズをプレイしていないとサッパリ分からない箇所が多いのはデフォルトだが。
 とりあえず、細かいことはさて置いてシステムをば。
 システムはシリーズを通して使用されているノベルタイプ。メッセージ・テキストを読み進めていき、必要な箇所に応じて出現する選択肢で 何を選んだかによってシナリオが変化する。非常にオーソドックスなタイプなので、今更説明はいらないだろう。
 環境設定に関しても、ノベルタイプを量産し続けているKIDなのでその辺ほとんど問題はない。個人的にノベルに必要だと思っている既読スキップ・バックログは 標準装備、スキップの早さも問題ない。その他「テキストを読み進めていくゲーム」と限定するのならば、快適なプレイ環境を約束できるだろう。
 ・・・多少気になることと言えば、音声の出力がステレオしかないことか(管理人のテレビはモノラル出力・・・買い換えてぇぇ)・・・
 さてシステムに関しては今更書くこともないので、その他に関して。
 まずテキスト表現。前作での特殊すぎる書き方を反省したのか分かりませんが、非常に読みやすくなっています。むしろ、純粋な読み物としてのテキストというならば、 シリーズ通して一番出来がいいかもしれません。
 想い出にかわる君のような曖昧で抽象的な表現もほとんどなく、初代のような独りよがりで比喩的な表現ばかりが目立つということもないです。全体的に2ndを 洗練させた感じがあり、それはテキストだけではなく、作品全体の雰囲気としても取れることが出来る。
 「Memories Off」というシリーズは、基本的に主人公と対象となる1キャラクターの間に存在する想いを主軸にして、「思い出」をどうにかするという形態をとっています。
 今回は、主人公と別れを切り出した恋人・・・そこにあるのは停滞する想いか、それとも終焉した想いか。その上で、各キャラクターとのシナリオが展開することになる。それ自体の 展開方式はむしろ想い出にかわる君に近いのですが、シナリオの流れがとても2nd寄りになっている。
 あまりMemories Offをプレイしていない方には分かりづらい説明をするのは嫌なのですが・・・つまりこれらは主人公そのものの意識の違いで、有性格主人公である作品では しょうがないことなのですが・・・まぁ、早い話が主人公の性格が2ndっぽいせいで、展開が想い出にかわる君っぽくても2ndのような雰囲気をかもし出している、ということでしょうか。
 あとは純粋に登場するキャラクターのせいでもありますね。いつもに比べてまともな思考のキャラクターが多かったのも印象的です、それでも他作品と比べるとキャラ立ちまくりの不思議 キャラが当たり前のようにいますが。
 そういうこともあって全体的に大人しめなせいか、Memories Off的には薄味であっても、他作品と比較した場合での平均的な見方でいうとかなり普通っぽい出来に仕上がっています。
 キチンとした背景設定があって、ちゃんとしたキャラクターがあって、それを踏まえたシナリオがあって、それらを破綻させないで表現し切れるテキストと演出があって・・・と、ノベルゲームとしては 安定したものになっていると思います。その作品自体の出来や、内容の如何はさて置いても。
 いくらいつもより大人しいといっても、Memories Off伝統の不思議思考全快のキャラは平然と存在しますし、甘ったるくて恥ずかしいような展開なぞどこ吹く風と巻き起こる痛いシナリオは当然 健在。読み手にいい意味で苦痛を与えてくれる、伝家の宝刀は錆付いてはいません。
 そんなワケで、単純に可愛いキャラがいて、泣ける展開があればいいなんて考えてる素人は手を出さない方が賢明です。

 あと思ったことと言えば。
 物語というのは起承転結で成り立っているものですが、本作はその起が「付き合っている恋人に理由もなく別れを切り出される」という構成になっています。
 それだけで確かにインパクトのある出だしではありますし、読み手はその展開に引き込まれるのも分かります。
 ただし・・・そういった山場を最初に持ってきたせいで、本来「対象キャラクターと段々と仲良くなっていく→シナリオ展開」といった単純な構成をしている恋愛ゲームの起承転結という形態に、ちょっと 無理がかたっている気がします。
 つまり、最初に盛り上がったのはいいけれど、それからの展開が基本的に他対象キャラクターとの触れ合いとなってしまうため、非常に地味で退屈なものと思わせてしまう恐れがあるのである。
 シナリオ上しょうがないとはいえ、必要以上に(主人公に別れを切り出した)メインヒロインである・いのりが登場しないのも原因かもしれない。もちろんそれは皆無ではないが、我武者羅に主人公が 「別れを切り出した理由」を探らないために、そう思えるのかもしれない。
 この起承転結における盛り上がりの頻度というのが、ちょっとアレかな・・・と思うトコロも。
 それから、もっと如実に思ったことが一つ。
 起承転結の構成において、本作はまさしくその起承転結を司る展開しか存在していません。少々説明がし辛いですが、つまるところ起承転結という物語を構成する展開において、無駄な部分が ほとんどないと言っていい構成になっていると感じました。
 例えば対象キャラクターとの他愛の無いイベントであったり、直接シナリオに影響を及ぼさない展開であったり。基本的に恋愛ゲームの日常を構成する要因は、対象キャラクターとの何気ないやりとり なのですが、本作はその「何気ないやりとり」が恐ろしいくらい無いです。勿論皆無とは言いませんが。
 確かにごくありふれた日常描写というのもあるのですが、それらの描写・イベントのほとんどが何かしらのシナリオなどに影響を及ぼし、少なからず複線や展開を張っている構成になっているのが伺えます。
 それらは特に目立って悪評価に繋がると言うわけではないのですが、つまるところ「最小限の起承転結で物語が進行している」という構成は、主人公と対象キャラクターの関係そのものも最小限の表現で 補っているということに直結するのは明白です。ですから、何とも主人公と対象キャラクターの「シナリオ上での関係は完結」されているのは分かるのですが、「恋愛感情を踏まえた上での関係」がとても希薄に 感じられてしまうんですよね。
 それがちょっと違和感に繋がるんですね・・・シナリオ上では関係が成立しているのに、その状況に納得いかない、というか。
 まさしく物語の起承転結という展開だけで構成された作品、といった印象も無きにしろあらず。

 総評として、ノベルゲームという形態を模している作品と見ると、かなり出来はいいと思います。
 ああしかし残念かな・・・本作はあくまでもMemories Offというシリーズの一片を担う作品として存在を許される、つまりは単品の作品としてはその意味を全くと言っていいほど為さない。
 そういうワケで、本作は過去発売されたMemories Offシリーズを全てプレイした段階でないと楽しめないと思います。さすがに、過去の作品をプレイしていないと意味が分からない箇所が多いので・・・登場 キャラクターはまだしも、イベント等の細かい表現はさすがにどうかと・・・
 本当に良くまとまっている作品だと思うんですけどねぇ・・・Memories Offを全てプレイしているという前提から言えば、という限定付きですが。
 とは言え純粋に話だけ追うのならば、前作に比べるとシリーズ共通の知識を必要とする箇所は少なくなっていると思います(それでも多いですが)。ですので、折角ですからMemories Offを今作から入るので したら、廉価版も発売されているDuetと一緒に購入するのをオススメしておきます。
 まぁ前作等と比べて毒が落ちているので、ちょっと話に物足りなさを感じたのもありますが・・・それは多分、Memories Offというシリーズに毒されているから思えるのであって、平均的に見ると割と普通なのかも しれない。そう考えると、こういう評価で良かったのかもしれないな、とも思う。
 ともかく、想い出にかわる君でMemories Offから脱落した方も、このシリーズに挑戦してみようとしている方にも勧められる、かも。しれない。



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