主人公・伊波健は、恋人・ほたると穏やかな日々を過ごしていた。ほたるはピアノに秀でた才能を持った、健自慢の恋人でもあった。 しかし、ピアノのコンクールが近づくにつれ、お互いすれ違いと焦燥の毎日を送ることになる。 そんな中で、健が選択した答えは…… |
前作における文章そのものの読み辛さや、非常に分かりづらい表現もかなりスマートになり、テキスト面での心配はほとんどない。 そういうのをあまり初心者である俺が言うのも何なのだが・・・つまるところ、「前作よりも読みやすくなった」としておこう。 それでも、シリーズ独特の癖のあるキャラクターや、色んな意味で濃いシナリオは健在なのだが・・・ システムは前作同様テキストノベルアドベンチャー、スクリプトなどはMeories Off Completeのものを使用している模様。 いくらテキストタイプのシステムが進化を望めないものだとしても、レイアウトや外装がほぼ一緒というのはどうかと思いますけど・・・ まぁそういうわけで、システムや環境設定に関しては問題なしです。ほぼ完成されていますから。 KID作品は基本的にシステムや環境設定が同じなので、作品として受け取る場合、やはりその設定やシナリオなどに依存しなければなりません。 その中でMemories Offという一括したシリーズは、極めて現実的で生々しいものとなっています。 まず他のKID作品と比較してみて分かるのが、ファンタジー要素を一切含んでいないという土台。 ノベルタイプに限らず恋愛ゲームといった類の作品には、ファンタジー要素(非現実的な)を多く含んだシナリオやキャラがある場合があります。 それは作品そのものの設定であったり、ある特定のキャラやシナリオだったりします。 そのような設定が存在するのは、プレイヤー(現実的既知)から外れた「あるはずのない物語」を強調し、シナリオに一層深みを作ることが出来るからだと思います。 有名なところで言えば、幽霊だとか、絶対に助かるはずのない病が治るとか、ロボットだとか・・・色々です。 それらは現実的設定の上にある非現実的設定を持ち、様々なシナリオを構成・展開することが可能となります。 勿論かなり強い武器でもありますが・・・その汎用性に溺れて迷走する作品も少なくはありません。 前置きが長くなりましたが、このMemories Offというシリーズは、他のKID作品はおろか、他恋愛ゲーム作品と比べても特化しています。 あらゆる非現実性の否定と、現実性(それでも作品世界として、の限定付かもしれませんが)を貫いているところにある。 前作としても、確かにキャラクターやシナリオにはかなり強い癖はありますが、あくまでも現実的な側面に沿って展開しています。 それは本作としても同じことで、事前設定・背景設定に沿った生々しい物語が展開されます。 事前設定として、主人公が彼女持ちという、もはや修羅場は避けられない運命にあるような状態であるのが素敵です。実際そうですが。 登場(攻略対象)キャラクターとして、その彼女の姉や親友を登場させるあたり、中々精神的に辛い面もあります。 ・・・シナリオを書いた人は、サディストか何かなのでしょうか? シナリオ展開なども先が見えるくらいにあざとくて、尚且つそれが一番効率が良い精神的打撃・・・あまり従来の恋愛ゲームっぽくないところも〇。 一昔前のトレンディ(死語)ドラマのような雰囲気にも似ています。 主人公や、周りの環境を追い込むところまでおいこんで・・・最終的な決断は、かなりあっさりしているというか・・・ キャラクターやシナリオに対して色々のめり込むというよりは、展開していくその状況を賞味する。そういったプレイスタイルにも近いです。 Memories Offというシリーズをプレイする上で重要なことは、プレイヤー=主人公という概念を持たないこと。 勿論前作にも言えますし、想い出にかわる君についても言えることです。 これは、単純に主人公=プレイヤー・・・作中で行動している主人公=自分の分身という感情移入をしない、ということです。 確かに、主人公に思い入れ・感情移入が出来ない恋愛ゲームなどはつまらないとも言えますが、このシリーズは逆にそれが出来ないと面白くないんです。 作中の世界に対し、プレイヤーはあくまでも傍観者でなければならない・・・ 本シリーズにおいて、最も嫌悪される筆頭事項は、「主人公が総ヘタレ」であることです。これは間違いありません。 過去にすがって現在を生きれない・・・現在の甘い汁だけを吸って生きていたい・・・ 事前設定での影響もあるかと思いますが、それを差し引いても・・・本シリーズの主人公は、精神が幼稚です。 ですから、普通のプレイスタイルの場合では主人公とプレイヤーの間に大きな確執が出来てしまいます。本来なら分身であるはずの主人公に、です。 本シリーズは基本的に有性格主人公を採用しています、プレイヤーは憧れも、同調もしない主人公です。 こんな情けない主人公は嫌だ・・・そこでパッドを投げ捨ててしまえば終わりですが、ここでは落ち着いて、あくまでも傍観者と決め込みましょう。 選択肢は全て可能世界へのフラグと割り切って、眼前で繰り広げられている物語は自分とは何も接点のない、ただの物語だと。 (ドラマのようだと前記したように、プレイヤーとして入り込めるゲームスタイルではなく、傍観者として入り込めるスタイルが良いのである) それが出来るのならば、本シリーズを楽しめるかと思います。 そういう訳で、作品世界の展開方式や状況打破のプロセスなどに面白みを感じられる人ならオススメです。 恋愛ゲームの面白さは、可愛い女性キャラクターと、主人公を媒介にしてのめり込められるシナリオだ・・・と思うような人は、門前払いです。 基本的に現実的な側面が大きいので、いわゆる萌えキャラと呼ばれるもの・・・非現実性を帯びるような設定を持つ娘・シナリオはないので、あしからず。 その癖にキャラクターグッズや、メディア展開が大きいというのは、ちょっと個人的に「?」な部分もあります。 最後に書いておくと、これらは個人的に思っていることであり、実際の思惑はよく分かりません。 もしかしたら、俺はKIDが発信している情報を正しく受け取っていない可能性があります。それが怖いところではありますが。 つまり、結局のところ本シリーズも一般的な商業的恋愛ゲームと一切変わらない、という真実もあるということです。 実際のところ、それが正しい姿なのかもしれませんが・・・個人的には悲しいですね。 最後になりましたが、恋愛ゲーム業界の流れを知る上でも一度はプレイしておきたい作品(シリーズ)ですので、やっておいて損はないでしょう。 |