Memories Off #5 〜とぎれたフィルム〜
ハード/PS2
発売日/2005年10月27日
メーカー/KID
値段/通常版6800円 初回限定版8800円
備考/初回限定版・同封特典として、スペシャルムック(設定資料集)/スペシャルドラマCD付き
   CERO15歳以上対象


 毎度お馴染み、KIDの看板作品でもある「Memories Off」シリーズの5作目である。
 4作目から途中、5周年記念の連作「After Rain」3部作があったにも関わらず、その作品展開は止まることを知らない。
 …それだけ、必死というのも分かるのだが…

 主人公・河合春人は、映画作りという夢を目指して、大学の小さな映画サークルに所属している。
 たが、一年前、親友の雄介の死をきっかけにして、その夢を半ば諦めかけていた。
 そんな春人の前に、突然彼女が姿を現した。仙堂真尋…彼女の出現は、確実に春人達の日常を揺らすのだった…

■無印、2nd、想い出にかわる君、それから…と続いて、#5
 ちなみに、#5は「ナンバーファイブ」ではなく、単純に「ファイブ」だけ読むそうです。
 メモリーズオフファイブ。横文字にしてみると、何だかRPGのタイトルみたいだ。

■いつものように、微妙なCGで製作されたムービーと、毎度あまり変わらないノリの主題歌で構成されたオープニング。
 …これ、他のKID作品でも言えることなんだけど、正直こんなCG使用するくらいなら、静止画でメリハリ利かせた方が様になる。
 良く言うと、頑張ってるけど…でも…頑張って!
 悪く言うと、見苦しい。
 静止画を使った部分も、少々テロップ演出に頼りすぎな気もする。「いつものこと」って言ってしまえば、そうなんだけど。
 好きなシリーズだけに、こういう部分はやはり残念だ。
 勿論、そういう安っぽさが好きっていうこともあるが。

 システムや周辺機能そのものは、前作/前々作等とほとんど変更はありません。
 基本的なKIDスクリプトで、若干レイアウトや細かいところをいじってあるくらいです。
 ノベルゲームを遊ぶ上で重要な、既読/未読スキップ、バックログ、オートモード、クイックセーブといった機能は完全完備。
 気になった点といえば、若干、スキップモードをキャンセルする時の反応が悪い気がする。
 それから、セーブ時にメモリーカードへ書き込む際、そのローディングが長い。これは、各種データに記録した場面のサムネイル表示を 読み込ませているせいなんだろうけど…それとも、管理人のPS2が古いせいなのかな?
 その他、良い部分も悪い部分も特になく、ノベルゲームとして不快感を味わうことのないプレイは(内容はさておき)約束されるはず。

 さて、それではシステムはさて置き内容をば。
 「Memories Off」シリーズにおいて、管理人が好きになれない部分の一つに、「作品同士を干渉させ過ぎ」なところがあります。
 これは、前作のキャラをサブキャラで登場させてみるとか…
 前作のキャラが、今作のキャラと繋がりがあるとか…
 つまり、そういう演出です。
 「Memories Off」という作品は、全て同じ架空の街を中心にして描かれていますが、箱庭的なものを狙っているのだと思います。
 …ただし、箱庭という演出を有効活用するには…「Memories Off」は少し、作品雰囲気が現実的過ぎる気もしますけどね。
 で、そういった、「余計なファンサービス」ともとれる部分がどうしても好きになれないのですが。
 それが本作は、今までのが嘘のようにほとんどありません。
 せいぜいが、相変わらず信が出張っていること、「それから」で登場した木瀬が準メインキャラなこと、 ヒロイン・真尋の憧れているモデルが「それから」で登場した果淋であること…この3つくらいでしょうか。本当に、触り程度の干渉しかないです。
 それでも、信はともかくとして、木瀬の存在は前作からほとんど切り離されてますし、果淋も名前が出るだけなので…
 事実、今までのと切り離されていると見ても問題はありません。
 前提として求められる知識、を必要としないものになっているのは好感触。シリーズとはいえ、単独で楽しめないとその時点で駄目である。

 簡易作品内容や、タイトルを見れば分かるのですが、本作の中心になるファクターはとにもかくにも「映画」です。
 映画作りを主軸にして、それぞれの物語が綴られるという構成になっています。
 それから、第二ファクターとして「仲間」という要素が強く出ていると思う。
 「映画」と「仲間」。一人では決して作りえないものだから、単純に主人公と対象キャラを描くだけでなく、周辺にも気を配った描き方は好感触。
 主人公を中心にした、映画サークルという名の…居場所は、かなり丁寧に描いていると思う。
 部活もの、として見た場合の、「題材(この場合映画)」「恋愛要素を含んだ物語性」の融合も、それほど悪くない。
 キャラクターも、今までのに比べると随分毒が抜け、全体的に性格も若干大人しくなりました。
 …多分、キャラクターのインパクトだけなら、「それから」にも劣るかもしれません。そういう意味では、「Memories Off」らしからぬキャラが多い。
 良くも悪くも薄味、といった感じでしょうか。キャラクターの特徴だけを見るならば。
 とは言え、性格的なものはさて置いても、設定的なものに関して言うのなら、紛れもない「Memories Off」と言えます。
 「記憶」や「思い出」に順じた、それぞれの想い。
 設定は結構好きですし、キャラクターも地味ながらも的確に動いていると思います。それに合わせたシナリオも決して悪くない。
 起承転結を的確に結んだ物語性にも問題はないですし、パッと見、良作に見えないこともないのですが…
 ないのですが…
 細かいところに、乱雑な部分が多い。ちょっと、どうかと思うくらいに。
 とにかく、ストーリーとしてのシナリオは悪くないのですが、そのシナリオを肯定させるための情報が少なすぎる。というか、描ききれてない。
 何よりも、対象となる女性キャラクターが「どういう過程を経て主人公に惹かれたか」、「どのタイミングでそれを自覚したか」が全く描かれていない。
 今回の主人公は、映画に対しては能動的なのですが、他に対してはやや受動的です。
 そこで、構図に表してみると…
主人公
← 映画 →
対象キャラクター

 早い話が基本的に「映画」を中心にして人間関係が構築されているので、主人公とキャラを結ぶ際に、映画というフィルタを通してしまう。
 そこで、主人公が能動的になる「映画」というファクターを仲介してキャラクターを見てしまうため、そこに表現のバランス崩壊が起きます。
 主人公は映画を通して、女性キャラクターに惹かれていく。
 これは、結構丁寧に描いています。悪くないです、主人公ですから…
 ですが、女性キャラクターの想いが、映画を通してしまうせいで純粋に見えづらくなっているのは事実です。
 本当に。
 いや、正直言って、「どういった経緯で主人公に惹かれたか」が全く理解できないキャラが、何人かいました。
 管理人の読解力が無いせいなのだろうか?と不安にも思いましたが、多分、そうじゃないと思います。
 ええと、あまりネタバレになりそうなので、深くは書くことはできませんけど…
 例えば、過程も前触れも無く「前から好きだった」と提示すれば、何も言えない。こういう感じです。
 少々、キャラクターの設定、本編開始以前からそうだったと提示される「前提」の箇所、それをこういう風に使うのは卑怯だと思います。
 その設定に頼り切った恋愛模様を描いてしまっているので、単純に物語としては優秀だとしても、恋愛話としては評価出来ない。
 これは、かなりのマイナスポイント。
 ぅぅん…キャラは悪くないんだ…シナリオも、設定も悪くないんだ…
 ただ、それを上手く扱ってないシナリオライターが悪いんだ。
 ぁぁ、残念。
 設定をもう少し上手く扱うことが出来れば、上に上げた問題点も色々と解消できると思うんだけどな。
 そういった、細かい部分での荒が目立つ。
 おかげで、体裁としてはキチンとしたノベルゲームになっているのに、その実中身が整ってないせいで、酷く変な作品になっている。
 良い器を用意して、良い素材を用意して…だけど、料理に失敗しました。そんなところだ。

 上述したように、確かに大半は残念な出来と言わざるを得ませんが、その中でもやはり光るものはいくつか。
 一部のキャラに関しては、おもわず唸るところも。
 キャラクター表現や、テキストの運び方が一部異常なくらい突出しているシナリオがあるので、その部分だけは高評価。
 と言っても、本当に一部だけなんだよなぁ…

■まとめとして。
 内容も、雰囲気も、キャラクターも、プレイをしたら「ああ、やはりいつものMemories Offだな」と安心出来る作りにはなっています。
 そういう側面から見ても、ちゃんとしたシリーズであり、続編としての存在をまっとうしていると言えます。
 おまけに、今まであったシリーズ同士の干渉がほとんど排除され、正直いきなり本作をプレイしたとしても、問題なく内容を楽しむことが出来る。
 ここは、大きな評価点。
 ただし、それ以上に「Memories Offとしては(その内容はどうであれ)恋愛模様が描かれていない」という問題点もある。
 それは単品作品としてみた場合も同じで、全体的な体裁は整ってはいるものの…正直、それほど面白いわけではないです。
 むしろ、それこそ今までの「Memories Off」を肯定してきていたからこそ、この出来に頷くしかない。とも言えます。
 ちょっと、残念な作品になってしまったかな。というのが素直な感想。
 化ける可能性は十分にあったのに。
 良い点と言えば、「映画作り」を中心とした、「仲間達」の場。部活ものとしてとらえるのならば、その構成や描き方はかなり好みです。
 物語性や設定、キャラクターは良い素材が揃っているので、「恋愛話」の部分を無視すれば、個人的には面白いと思います。雰囲気も好きだし。
 他欲を言えば、もう少し話を長くしても良かったかなぁ、と思う。
 管理人が全ルートを終えた時点での総プレイ時間は、27時間程度。いつもなら、30時間はオーバーするんだけどな。

 少なくとも、オススメは出来ません。
 最近KIDは新作を発売して1年くらいすると、廉価版として資金を回収するやり方をしているので…1年待って、安くなったら、という感じです。
 「Memories Off」が好き or 単純に興味がある、方なら問題はないでしょうけど。
 かなりアレな評価ですが、真尋ルートと、あすかBルート、香月(のキャラクターの描き方)は良く出来てたと思うな。
 というか、香月をあんな雑に扱うなんて、ライターは一体何考えてんだ…

 木瀬シナリオまだぁ?




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