あまりこれといった告知や展開もされず、いつの間にか発売していたという感じのする作品。 確かに当時は家庭用恋愛ゲームが低迷していたこともあるのかもしれない、事実として本作の認知度はかなり低いようである。 とは言え知名度が作品の出来に比例するとは限らない、本作はそんな隠れた名作の一つである。 |
主人公・伊達将明は、伝統ある剣道の名門校・桂木館高校剣道部の主将である。 インターハイ前に行われる全国強豪校五校で行われる合同合宿・・・各々の思いを抱いて集まるライバル達。 高校最後の夏、静かに青春が燃え上がる。 |
・・・と、そんなおおよそ恋愛ゲームとはちょっとかけ離れた設定で本作は始まる。 ここが本作の特筆するべきところの一つで、確かに恋愛ゲームなのだけれども、「恋愛」と「剣道」の比重がほぼ半々であること。 主人公が燃やすのはライバル達への闘志であり、決して女の子への下心ではない。 登場する女性キャラクターも「剣道」を通したライバルであり仲間である。主人公にとって全ては「剣道」であり、色恋沙汰ではないのである。 そんな硬派な中に、ほんのりと香るように発生する恋物語・・・そのテンポ・センスが神懸り的であり、本作の魅力である。 ゲーム本編のシステムだが、2000年作品にしては珍しくノベルタイプではない。 基本的に育成シミュレーションパートと恋愛アドベンチャーパートの2つで構成され、主人公・部員を育成しつつ好感度を上げていくスタイルになっている。 ここで注意することは、この2つのパートに明確な区別はないということ。 多少説明が複雑だが、本作は1日を9つの時間で構成し、その中で主人公が行動可能なのは朝から夜までの6セクションになる。 そしてその各1セクションに対して、前日の内に7つの育成場所から選択し翌日の育成スケジュールを組む。 当日は育成スケジュールに沿った行動が強制的に行われるのではなく、ADVパートとしてその対応場所に向かうことによって育成が開始される。 つまり、スケジュールを組んだ上で、合宿所周辺を散策するようなADVパートが進行するというわけである。 この際主人公が育成を行わなくても部員は勝手に成長し、育成しないのであれば各1セクションは3回の移動が可能になっている。 このように、育成パートと恋愛パートを前記したが、システム的な違いは無い。あくまでも便宜上のものである。 育成パートは自校単独で行ってもいいし、他校と合同練習することによって対象キャラクターとの好感度も上げることが可能。 この際対象キャラクターと一定のイベント・好感度を突破すると、特殊な必殺技・愛情技や友情技というのを取得出来る可能性もある。 さて、育成とか必殺技とかいう単語が出るが、本作は恋愛ゲームでありながら、実はそこそこ整っている剣道育成シミュレーションゲームでもある。 前記したような選択育成により主人公・部員のパラメータを上げつつ、合宿最後に執り行われる五校戦に優勝することが本作の目的の一つ。 育成そのもののプロセスは各育成場所・合同育成などによって微妙に異なり、それを考えながら行うベーシックなもの。 そしてその上で存在するのが剣道による試合パートである。 実際の剣道のルールと同じで、5人による勝ち抜き戦というスタイル。サイドビュー・アクティブで試合は進む。 試合前に攻防のパーセンテージ(100%MAXで、攻・防のどちらに比重を置くか)を決め、使用する技を選択するとオートで試合が始まる。 これがターン制で行われ、先に体力が無くなった方の負け、ということになる。 ・・・必殺技を叫びながら回転したり燃え上がったり衝撃波出したり、体力切れ(一本)での勝敗しかないなど、本当に剣道やってる人から見るとどうなんだろうか・・・ 試合は合宿最後の五校戦、他は練習試合や一騎打ちなどで行われる。特に五校戦は優勝がフラグのキャラもいるので逃すわけにはいかないところだ。 と、合計7日間の合宿が本作の舞台になる。 はっきり言って純粋に面白い作品です。育成・試合・恋愛パートやキャラクター同士の掛け合い、雰囲気がよく絡み合って雰囲気を盛り上げていますね。 特に目立ったような悪い部分は見当たりませんしね・・・気になったのは音声のバランスがモノラルだと聞き辛いとか、そのあたり。 その他難点というと、本作そのものの難易度。かなり難しいです。 育成・恋愛とどちらかが欠けてもいけないので、その微妙なスケジュール管理やイベント発生のタイミングなど、かなりシビアなので・・・ 攻略本が発売されていますのでそちらを参考にすればその難易度を極限に下げることは可能です、可能ではありますが・・・ 残念ながらこの攻略本には致命的な誤植があり、ある1キャラだけ攻略本通りに進めても攻略出来ないという素敵仕様。難儀な話です。 それ以外はゲームとしても恋愛ゲームとしても上手くまとまっている作品です、逆にまとまり過ぎてる気もしますが。 そういう意味では、あまりにも整理されているところが弱点なのかもしれません。華もなければ毒もないような。 本作の魅力は剣道を中心に、友情や根性や恋などといったいかにもなキーワードが散りばめてあるところにあります。 簡単に言ってしまえば「少年漫画風スポーツラブコメ」なのですね。 恋愛部分や女性キャラクター表現などといった最近の美少女ゲームで特化している部分(まぁすでに形骸化しているが)には劣りますが、それ以上の武器はあるかと。 俺のように男性キャラクターの作品的位置や、掛け合いによるキャラクター表現などに面白みを見出せる人は是非ともやってもらいたい一品。 それから上記したように、本作には女性キャラクターも多いですが、それと同じくらい男性キャラクターが多いです。 主人公の剣道のライバルとして、そして友人として・・・強敵と書いて「とも」と呼ぶ、そんなイカスお兄ちゃんが沢山。 一応友情エンドとして彼らとのエンディングも存在するので、そっち好きのお姉さんにもプレイしてもらいたいトコロ。 こんな一つのこと(この場合は剣道だ)に熱くなれる高校生、多少古臭いかもしれませんが、それが逆に懐古神経を刺激するのですよ。 そういうことを考えるとあまり若年層にはウケないかもしれませんね・・・熱血・スポ根が理解出来ないと辛いかも。 ええ、勿論俺は大好きですよ。どうやら廉価版も発売されるようなので、是非とも普及してほしい作品の一つです。 さぎりがどうしようもないほど好きなのです。 |