想い出にかわる君 〜Memorie Off〜

ハード/DC・PS2
発売日/2002年11月28日
メーカー/KID
値段/6800円
備考/-


 KID看板作品、Memories Offシリーズの3作目。
 前作が2ndであったのだが、本作は単純に3rdではなく「想い出にかわる君」という別タイトルをその頭に掲げている。
 恐らくはMemories Offを単純なシリーズものにしたくない製作サイドの考えなのだろうが・・・

 主人公・加賀正午は千羽谷大学に通いながら、ごく普通の学生生活を送っていた。
 そんな中、彼はいきつけのカフェで、高校時代の恋人・・・黒須カナタと突然再会する。
 それはただの想い出の物語・・・それとも、思い出にはまだ遠い物語・・・

 前作同様、前作・前々作の世界をそのまま継承。
 時代的には2ndから約1年後であり、初代から見るとすでに2年近くの時間がこの世界では流れていることになる。
 あまりこういうスタイルの続編というのは好きではないのだが・・・どうにも前作(単一作品として)の複数ある結果が限定されるのに違和感を覚える。
 それは製作サイドでMemories Offという世界を共有させるためだからだろうか、それとも単にキャラ人気への依存だろうか。
 前者ならテーマ及び作品概念などで統一された世界として納得はいくが、後者なら嫌悪感を抱かずにいられない。
 実際のところは後者なのだろうが・・・商業的には正しいとは言え、既存人気に寄りかからないと作品が作れないなんて情けなさ過ぎる・・・
 これでもKID好きなんだから、もっと頑張って欲しいものである。
 で、そんな本作だが。
 システムはシリーズを継承してオーソドックスな選択肢型ノベルゲーム、特筆するようなものはない。
 既読スキップ・バックログ・簡易セーブ・・・ノベルタイプに必須な周辺システムは全て搭載、コントローラ回りもKIDベーシック。
 おまけもグラフィック・ミュージックモード、ルート回収提示などプレイ状況の情報等も完備。
 上記のように、前作共々システム回りに関しては前々問題ないです。ノベルゲームとしてどっしり腰を構えてプレイが可能。
 そしてノベルゲーム肝心の内容ですが。
 抽象的かつ曖昧な表現で記されたシナリオ、中途半端に砕けた微妙な言い回しが続く読み辛いテキスト・・・まずこう感じました。
 勿論文脈や表現などは十分読み取ることは可能ですが、それにしてもその伝えたい情報の表現があまりにも不鮮明過ぎます。
 前作・前々作の悪い部分が肥大化したように思いました、情報を曖昧・抽象化することによって「何か難しいことを言っている」ということに陶酔している気がします。
 これはテキストや演出に該当し、シナリオのテーマなどを概念的に細分化した情報をプレイヤーに解釈を委ねているような。
 純粋に「キャラクター」があり、「シナリオ」があり・・・ではなく、どうにも製作サイドが伝えたい「テーマ」があり、その上で全てが存在しているような。
 つまり、その純然たるテーマを伝えるために最も適したキャラクター・設定を作り、そしてそれをインターフェイスにしてどのようなシナリオにすればこのテーマをプレイヤーに伝えられるだろうか・・・そのような模索を繰り返して出来上がった作品ではないか、というのが個人的な感想。
 どうにもテーマ性が先行し過ぎていて、キャラクターやシナリオに違和感が目立つんですよね、痛いぐらいに。
 確かに「製作サイドがこの作品で何を伝えたいか」ということに限定すれば、それはひしひしと伝わってくるんですよ。Memories Off伝統の非情なまでの現実を貫いた上での、各キャラクターのシナリオで訴えられているものは。
 ただそれの表現方法に癖があり過ぎた・・・確かに抽象的な表現や頭の回転が特殊なキャラは本シリーズの魅力でもあるのですが、ちょっと今回はそれがいき過ぎかと。
 どうもキャラクターがテーマを伝えるだけの傀儡で、シナリオはただの手段になってしまっている気がしました。
 勿論これはあくまで俺個人の主観にすぎませんが、何ていうかそれくらい「臭いがキツイ」作品であるのは間違いないと思います。
 とりあえず前々作・前作をプレイした上で、「コレは自分には合わないな」と思うようなら本作には手を出さないことが懸命です。
 ・・・今は落ち着きましたけど、プレイ当初はただの電波作品かと思いましたよ・・・本当に・・・

 その他で思ったこともいくつか。
 本作はシリーズ通して共通する世界を保有する作品なので、随所に前々作・前作に関する情報が飛び交います。
 その情報量はファンサービスなのでしょうが(こういう演出はどうも好かんが)そこそこ多く、基本的に前々作・前作プレイは必須条件です。
 それで終わればいいのですが残念ながらそうはいかず、どうやらオフィシャルで発売された関連小説等の情報も消化されているようです。
 個人的に気が付いたものでは、Memories Off 2ndの小説での伏線が本作で使用されているのを確認しました。
 そういうわけで、本作は悪い意味でMemories Offという作品の一部分なのですね。
 この手の作品は単一作品として純粋に楽しめないと駄目だと考えているので、こういう無意味な演出は止めて欲しいものです。
 ファンだったらニヤニヤして喜ぶとでも思ってるのでしょうか?

 上記したように本作は「テーマありき」の作品です。
 シナリオがどうとか、キャラクターがどうとかは本当に二の次と考えた方が懸命かと。勿論そのテーマを受け止めた上でなら、シナリオやキャラクターも魅力的に映ることは間違いはないと思いますけど・・・
 そして先程からテーマテーマと口酸っぱく書いていますが、個人的な解釈として本作のテーマは色んな意味で「独立への意思」だと思います。
 それは「何かからの脱出」でもあるし、「何かとの決別」でもあるし、そういった意味合いでの「独立」ではないかと。
 本当のところは分かりませんけどね、抽象表現だらけで受け手に解釈を任せるのならば、俺はそういう解釈をした程度に思って下さい。
 そういうわけで本作は上記(Memories Offに理解がある)の条件を突破し、相変わらず生温い甘チャンな主人公にも耐えられて、作品として受け手に発信される「何か」が作品を構成する要素として重要なものだと考えているような方にはオススメします。
 もしくは、純粋に説教臭くて鬱陶しいくらいの言い回しが好きで、哲学気取って理屈で固めた理論武装に快感を覚えるような方もオススメです。
 ・・・妙に棘のある言い方かもしれませんが、それくらい臭いがキツイんです。本当に。
 Memories Offという作品は好きなんですけどねぇ・・・ちょっと本作は個人的に苦手かな、何だか一つ一つの言動が計算されたものみたいで、辛い。



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