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ハード/PS2 発売日/2002年11月14日 廉価版/2004年3月18日 メーカー/ヒューネックス D3パブリッシャー 値段/通常版6800円 初回限定版12800円 廉価版2000円 備考/限定版、主題歌&挿入歌ミニアルバム・オリジナルサウンドトラック・クリアシステム手帳 求塚由真DXフィギュア付き 廉価版(SIMPLE2000シリーズ)有り |
■「ココロ前向きアドベンチャー」と銘打たれた、ヒューネックス10周年記念作品。 キャラクターデザイナー・原画に風上旬氏、メインシナリオライターに館山緑氏を採用。力の入れようが分かる。 内心ラブソングスの二の舞にならないだろうかと心配だったのだが、そんなことは杞憂だったようである。 |
主人公・当麻尚登は、病院のベッドの上で目を覚ます。 自分が何故ここにいるのか…ある一部の記憶だけが、彼の中から消えていた。思い出せるのは、酷く冷たい肌の感触。 得体の知れない悪夢と、記憶障害の中、彼は本当の記憶の姿を見つめていく… |
■この作品、パッケージデザインにしても、マーケティングにしても、酷く真っ当な「ギャルゲー」的な売り方をしていました。 ヒューネックス10周年記念作品ということで、今まで培ったノウハウとか、そういうのを前面に押し出していたのだと思います。 キャラクターデザインを担当した風上氏のイラストも、極めてキャッチーであり、ビジュアル的な示唆も申し分ない。 だが。 しかし。 正直な話、完成したこの作品は、そういった営業戦略とは相反したものとなってしまったようです。 端的に言うなれば、「ギャルゲー」としても、「恋愛ゲーム」としても、非常に曖昧で中途半端なものになってしまったからだ。 そういう意味で捉えれば、確かに決して出来が良い作品とは言えない。 それでも、本作にはその点を補って余りある魅力が隠れている…少なくとも、管理人はそう信じている。 ■静止画と、若干のアニメーションで構成されたOPムービー。 曲、映像とも派手さや斬新さはないものの、どこかもの悲しい雰囲気がプレイへの意気込みを駆り立てる。 そしてタイトル。ロゴやセレクト画面のレイアウト/デザインは、寂しげなところがかなり好み システムはオーソドックスなテキストアドベンチャー。 主人公移動型ではなく、言動などの最適な選択肢を導き出していくタイプのもの。 目新しいシステムは皆無なものの、特筆するのはその快適すぎるシステム環境。 まずスキップ機能、未読/既読スキップとオートモードが搭載。 これだけなら普通ですが、とにかくスキップ時のスキップっぷりが凄まじい。従来の作品に比べてえらく早い。 本作は難易度が結構高めなので、繰り返しプレイするには嬉しい機能。選択肢の間隔でダレることはまずありえません。 オートモードも、自動でテキストを送る間隔を任意で選べるので、利用価値も高い。 他バックログ、セーブ機能も124KBで24箇所、簡易セーブ等プレイビリティは十分。 オプションに関しても、そこそこ細かいところまでいじれるようになっているので、設定の幅も広い。 ボタンレスポンスの感度も異常なくらい良いし、プレイ途中選択肢の画面に移行したとしても、誤ってボタンを押さないようにディレイが かけられているのも良い。ボイス/画像のロードも早いので、極小のストレスも感じることなくプレイをすることが出来る。 …というのは多少褒めすぎかもしれないが、それくらい細かいところまで環境が配慮されているのは確かだ。 特に、ノベルゲームとして「読み進める」ことを前提にした環境というのであれば、多分現存するCS作品の中でもトップクラス。 無駄な…とは言わないが、こういうところに技術と金をかけられる作品というのは、正直珍しい。 さて、プレイ環境だけは鬼のような出来の良さということは伝わったと思う。 そこで本作の内容の話になるが、これが少しばかりややこしい。 確かに普通のテキストアドベンチャーではあるのだが、その真価はシナリオではなく演出によって発揮される。 従来の作品が「現在→過程→結末」と、時間軸と共にシナリオや各種設定が沿って進行しているのに対し、本作は特殊な形態をとっている。 本作、ゲームのオープニングとして提供されるのは「主人公が悪夢から目覚める」というシーン。 勿論、「夢から始まる」作品などは星の数ほど存在しますし、これ自体が珍しいものではありません。 ただし、本作は主人公が記憶障害…つまるところ、スタート時には「能動的な過去」が消失していることになります。 …「主人公が記憶喪失or記憶障害で始まる」という設定自体も目新しいものではありませんが… これが、シナリオの幅を広くする演出として突出している部分に値する。 ストーリー構成としては、「主人公目覚める→オープニングパート→本編へ」というものになっているが、このオープニングパートで描かれる僅かな日常部分と 選択肢によって、対象キャラクターに限定された本編のルートが確定するようになっている。 こういった「冒頭でヒロインを選択してしまう」システムは何度か使用されてきたが、本作はここからが見せ所である。 つまり、簡単に言ってしまうとパラレルなもの。 単純にヒロイン確定のため…一人だけに絞ることにより、より一層主軸を固定させるという技法があります。 進行する時間軸と、並行する設定のみを共有して、別の物語を作り上げる。 本作も、そういう形態をとっています。 それだけなら、何それ普通じゃない?ということになるが、ここで更に一工夫。 開始時点に対して複数存在する未来、これが従来の構成とするならば。 本作は、開始時点に対して複数存在する過去、と言うのが望ましいか。 勿論、進行するシナリオ、という点においてはどのような作品も同じと言えますが、本作はその比重を特に過去に置いている。 開始時点で、主人公の過去を不鮮明にし、前提される情報をほぼ0にすることにより、プレイヤーと主人公の立場を同位置に持っていく。 そこで、複数存在する未来(個別シナリオ)を用意し、そこには複数存在する過去(前提情報)を紐解かせる。 通常、過去話は絡むとしても、一方方向に進むのが常なスタイルが多い中、ちょっと珍しいものになっている。 確かに、意外な過去が提示される作品も多い。 突然、脈絡もなく突飛な過去設定が飛び出す作品もある。 そう考えると、別に大したことのない演出だとも言える。 ただし、過去が不鮮明であり、同時に未来が不確定、それでいてその全てが並列処理される。 さらに、全てのキャラクターをクリアした上で登場する隠しキャラクター…そのシナリオで提示される、それこそ「最後の物語」。 ちょっと、プレイしてて「うぉっ」と思いました。 物語としての構成/演出、ノベルゲームとしての構成/演出が、半端じゃなく高いです。それはもう残念なくらいに。 上述したように。 本作を賞賛する点は、まず快適すぎるシステムとプレイ環境、そして作品全体の構成と演出。 これだけで、とにもかくにも「ノベルゲーム」としては非常に良く出来ているものだと思います。 何しろ、「読み進める」ことだけしか考えずに、プレイビリティの低い作品や、単純にルートが分かれるだけの作品が多い現状ですから… そんな本作ですが、やはり内容を考慮してしまうと、唸ってしまう部分も多い。 何しろ、「記憶を取り戻す」ことが物語の主軸になってしまっているせいで、女性キャラクターの扱いがややぞんざいになっているのが難。 主人公と対象キャラクターを結ぶ関係が、ほぼ全てその「記憶」を中心にして動いてしまっているので… つまり、お互いの思い、そのベクトルがお互いに対して向いてないんですね。 勿論、お互いに共有する情報、進行するシナリオ、その中で紐解かれていく真実。物語性や盛り上がりについても手堅く、問題はない。 ただし、そこにお互いを認識し合う掛け合いや、触れ合いが十分に描ききれているのか?というと、それは否。 物語を構成するミステリ的な部分を前面に押し出してしまったせいで、他の部分の比率がえらく低くなってしまっているのですね。 そのため、主人公と対象キャラクターが、どういった過程を経て惹かれあったのかが分かりませんし。 …中には、そういった部分を、失われた過去に依存してしまうキャラクターがいるので、もしかしたらそもそも描くつもりがなかったのかも? 他、女性キャラクターのパーソナル的なもの、も魅力的に描ききってるとは言えません。 これは、キャラクターそのものの設定よりも、キャラクターのシナリオ上での設定、を重視してしまったせいで起こってしまったと思います。 何せ、単純に物語としては面白いですから、本作。 結局何が言いたいのかというと… お互いの想いを、物語性をもった的確な表現とシナリオで描く「恋愛もの」としての要素を、本作は有していなくて。 単純にキャラクターの魅力そのものを発揮させる、シナリオとパーソナル表現で描く「美少女ゲーム」的な要素も、本作は有していません。 これを、上述したパッケージデザイン、マーケティングに当てはめると… 企画営業、ゲーム内容、商業政策、それらのほとんどが、ちぐはぐに混ざり合ってしまったせいで、こんなことになってしまったのではないかと。 ■まとめとして。 本当に残念な作品。傑作になる可能性を自ら潰した、隠れた良作という感じですね。 「恋愛ゲーム」としても不完全、「美少女ゲーム」としても不完全。 「ノベルゲーム」としての完成度は悲しいくらいに高いのですが、それを活かすことが出来なかった。 ただし、個人的には「美少女ゲーム」的な要素、単純にキャラを立てるだけの作品は好きではないので、その辺は主観的な評価には繋がらない。 惜しむべきは、恋愛要素か…もう少し、キチンとキャラを繊細に描いて、シナリオ周りを整えれば…あるいは… それでも。 本作は、どことなく「これがスレッドカラーズの完成系」って思わせる、何とも言えない魅力があります。 恋愛要素が希薄?キャラクターがシナリオに飲まれてる? それでいいじゃない、スレカラだもの。 全体的に漂う、乾いた秋風のような雰囲気。生温い清流のような、柔らかいテキスト。音楽も、特筆することはないが、耳に優しい。 超大好き。 大声を上げてオススメとは言えませんが、是非ともプレイしてもらいたい一品。 現在は廉価版も発売していますので、安価で入手することが出来ます。通常版も、中古では随分安くなっているみたいですし。 確かに残念な部分を多く含む作品ではありますが、それ以上に特筆する箇所が多いのも確か。 おまけシナリオや、隠しキャラクター、そういったプレイ後の「おまけ要素」も異常なくらい充実していますし。何しろ、最初にルート固定してしまうので、 その分全てのシナリオが独立した作りになっているのため、作品全体としてのやり応えは十分過ぎるほど。 これで2000円(廉価版)なら、買わない方がおかしい。 …人気が出ろとは言わないから、せめてもっと普及しないもんかなぁ… |