To Heart
ハード/PS.PS2
発売日/PS版1999年3月25日 PS2版2004年12月28日
メーカー/アクアプラス
値段/PS版6800円 PS2版-
備考/Leaf制作のPCゲーム「To Heart」の移植作
    ・PS版ディスク2枚組 ・PS2版は「To Heart2」初回限定デラックスパックに同封
    ・PS2版のみCERO12歳以上対象


 まぁ、紹介も何も必要のないくらい有名な作品ですが。
 良くも悪くも、美少女ゲームの歴史を語る上で避けることの出来ない傑作であり、後発の作品に大きな影響を与えたのは間違いない。
 …と個人的には思ってる…が…

 主人公・藤田浩之。どこにでもいる、平凡的な高校生。
 幼馴染みがいて、頼れる友人がいて、口うるさい喧嘩友達がいて…そんな、彼にとってはあたりまえの日常。
 見慣れた景色、いつもの朝。ただ、ゆるやかに吹く風に、少しずつ春の訪れを感じさせるものがあった…

■何でもないプロローグから始まる、何でもない日常。
 没個性ゆえの勝利というか、普遍性の中で描かれる触れ合いとか、少しずつ変化していくお互いの関係とか。
 そんな他愛もないことが淡々と展開する日常と、細かい心理描写が冴えに冴えまくる学園恋愛ADVの傑作。
 もう古典とも呼べる時代になってしまったけれど、これほど学園モノの手本や教科書になる作品もないだろう。
 …安っぽい「属性」とやらで繋ぎ合わせただけの作品で満足してる連中(作り手含む)も、今こそ振り返って見習って欲しいもんなんだが…
 まぁ、ソレはさておき。
 ほとんど今更感があるのは確かなので、ここは一発軽めに書くことにしよう。

■基本的には、主人公移動型のテキストアドベンチャー。
 朝→学校での日常→放課後(ADVパート)という流れで進み、大きく選択が分岐するのは放課後のADVパートになる。
 放課後は主人公の教室がある2階から、校舎を下っていくように2階→1階→学校を出る(校門)→帰り道と移動場所を選択することが出来る。
 選択する場所には、そこで登場するキャラクターのアイコンが表示されているので、大体はクリアしようとしているキャラクターがいる場所を選択していけば 問題ありません。そういうワケで、難易度は若干低め。
 ただし、一人を追いかけていればいいというワケでもないシナリオもあれば、誰がいるか分からないアイコンもあるので、その辺はシビア。
 他、場所移動に関しては、主人公は教室から自宅へ向かおうとするので、2階に誰もいなければ1階以降の場所を選択することが出来る。逆に、1階を先に選んで 誰もいなくても、2階は選択することが出来ないという仕様になっている。
 大体は移動場所に誰かいれば、その時点で個別イベントが発生し、イベント終了→自宅へというルートになるが、稀にイベントが終了してもその後の移動場所を 選択出来ることがある。尚、そのイベント自体を発生後の選択肢(場所移動選択ではなく)で回避することも可能。
 ついでに、特定のシナリオに進むと、移動場所も若干増えることもある。
 そういう具合に、場所移動による対象キャラクターとのイベント、併合して現れる選択肢によって、好感度を上げていくのがメインになる。

■周辺システム。
 未読/既読スキップ、バックログ対応。ボタンレスポンスも悪くないし、音声・画像のロードも早いとは言えないが及第点。
 1ブロックで10個まで保存できるセーブ環境(PS版)、細かいところまでいじれるサウンド/ゲーム設定。
 ボイス設定もキャラごとにOn/Offが可能で、周辺機能はかなり充実。
 文句を言うのなら、アルバムモードが壊滅的に×
 グラフィックを一枚絵だけでなく、個別に収集出来るという箇所は面白いのだが、閲覧方式が登録されているグラフィックをページごとに分配し、 それを1ページないし10ページ飛ばしながら表示するというものとなっている。
 どこにどのグラフィックが登録されているか分からないし、同じグラフィックが連続している場合もある。
 日付順やキャラクターごとに整理することも可能だが、見たいグラフィックが瞬時に分からないという仕様はかなり悪評価である。
 せめて、キャラクターごとにわけたサムネイル表示があれば良かったんだが…

■本作が「名作」って言われる理由は色々あるのだけれど、単純に凄いのは日常を描ききったこと。
 確かに非日常的な設定や、そんな設定に則したシナリオが存在するのだけれども、そういった設定自体で話を完結させる以上に、本作は日常の描写にこだわった。 だからこそ、非日常的なはずなのに、強烈な違和感を覚えることがない。
 勿論日常的な風景の中で話が展開する作品はそれまでにもあったのだけれども、本作が初めてメディアで発売された(PCオリジナル版が1997年)時代で、 システムを含めてここまで特化させたものは存在しなかったと言える。断言は出来ないかもしれないが。
 システム的なものと言うと、すなわち「ノベル系」というアレである。
 この話をすると、チュンソフトが開発したサウンドノベルまでいかなければならないのだけれど…それはこの際置いておいて…
 つまるところ、「キャラクターとの日常的な触れ合い」にしろ「細かい心理描写」にしろ「的確な心理演出」など、そういった美少女ゲームで要求される「女性キャラクターの魅力を 最大限に表現」するためのシステムとして、「ノベル系」とも呼ばれるシステムが徐々に頭角を現していく。
 (突っ込まれないように書いておくと、サウンドノベルからヒントを得てLeafが開発したのがビジュアルノベルという形式で、そのシリーズの三作目が本作。だから 心理描写や演出を最初に高めたのはシリーズ一作目の「雫」という作品とも言える。こちらはPC版しか存在しないので割愛。)
 で、それをあまりにもありふれた、学園恋愛モノでやってしまった。それも、当時としてはほぼ完璧な形で。
 1997年という時代において、このシステム、この内容、そしてこの完成度。
 …後発の作品群における傾向を見れば一目瞭然なのだが、やはりシステムにしろ内容にしろキャラにしろ、参考にしている部分があると思う。
 この辺は当時を体験した人しか分からないとは思うけど、それでも、やはり本作は今でも輝きを失わない作品だ。

 家庭用に移植されたのは1999年だが、PC版に比べてかなり変更された箇所が多い。
 シナリオはエロゲーだった原作から、家庭用にするため無理が無いように、細かいところから設定レベルまで変更。
 グラフィックも全て描き直し、イベントの追加など、ベタ移植ではなく改良版とも言える出来になっている。
 しかも、その変更要素のほとんどが原作の味を殺すことなく、むしろプラスになっているのが凄い。
 充実したおまけも美味しく、無駄に出来の良いミニゲームが収録。作中の合間に入ってくるのはちょっとアレだけど…
 そういったこともあってか、「To HeartはCS版の方が出来が良い」と言う方も多く、個人的にもそう思っている。
 …最近のベタ移植、何となく追加キャラ、エロシーンを排除しただけの変更…そんな生温い移植ばかりするメーカーも見習って欲しいものだ。

■家庭用オンリーな人にしろ、エロゲーオンリーな人にしろ、少なくとも「美少女ゲーム」と呼ばれる業界に触れるなら絶対にやっておくべき作品。
 今現在主流となっているものに比べれば、派手さもなく地味な作品だし、設定も味気ないところがあるのも確かだ。
 だが、「属性」などという安っぽいもので構成されていない、非常に練りこまれたキャラクターの性格的なディテールや、細かい心理描写や小気味良い情景描写、 何でもない関係から展開するお互いの距離の詰め方、演出…実に瑞々しく、的確である。
 ちょっとベタ褒め過ぎた感もあるが、やはり当時の衝撃は今でも忘れられない。
 若輩の連中にもプレイして欲しい作品だが…少なくとも、今の風潮じゃ無理か…古典名作として、触れておいて欲しい作品なのだが…
 まぁ、ウチのサイトに足を運んでくれるような方は、多分すでにプレイ済みの方がほとんどだと思いますけど。

 とにかく。
 今は続編でもある「To Heart2」も発売していますし、限定版にはPS2版の本作も同封されています。
 この機会にプレイする、もしくはプレイし直す、というのもいいかもしれません。

■ちなみに、上述した紹介文は「PS版」を基準にしています。
 PS2版での変更点は、グラフィックや音質の向上などで、確かに画像の美麗さや音質はかなり上がっていると思います。
 ディスクが1枚になったので、PS版にあったディスク入れ替えの面倒(特におまけをプレイする時)が無くなったのは美味しい。
 ただ…若干ボタンレスポンスが悪くなったような…画像/音声のロードも長くなったような…気がする。
 あと、最初のオートロードも悪くなっているのが欠点。あとは、特に文句は無いです。




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