自社オリジナル初作品であるMemories Offが好評だったのが原因か、この辺りからKIDの方向性が大幅に変化する。 本作はMemories Offの次に製作されたKIDオリジナル作品であり、初期タイトル(仮タイトル)はただの「つばさ」だった。 正直タイトルのセンスだけ見るなら悪いとしか思えないのだが・・・本作はKIDオリジナル作品の中では(今のところ)一番好きな作品なのである。 |
母親を亡くし、父親もULP(ウルトラライトプレーン)の搭乗中に行方不明の主人公・深山直人。 高校2年の初夏。空への思いを馳せる彼は、ULPの試乗運転中に、不思議な少女・しずくと出会う。 そして、なし崩しに同居するはめになってしまったしずくとの、奇妙な生活が始まる。 |
物語を作るにあたって、その始まり方には一定のパターンや定石というものが存在する。 本作はいわゆるボーイミーツガール形式なのだろうが・・・それにしたって、この展開は少々強引な気がしないワケでもない。 何故しずくがいきなり直人の前に現れたのか、何故同居するにあたって直人がそれを拒否出来なかったのか。 一応そのあたりのツッコミたいところの説明はされるのだが、それでも冒頭からユーザーを引き込む演出や展開が失敗してるのが非常に残念だ。 本編に入っていくと、面白いんだけどなぁ。 システムはオーソドックスなノベルタイプのアドベンチャー。この辺りはMemories Offをベースにしているようで、基本的に選択肢によって展開が変化する。 まぁMemories Offのように主人公が選択肢通りに行動しないということはないが、直接シナリオに影響を及ぼさない選択肢は存在する。 そんなワケで、文章を読み、適切な選択肢によってシナリオを進行していくというスタイルになる。 その他周辺機能としてバックログ・スキップ等は搭載、セーブ箇所多く、この手のシステムで必要な機能はほぼ完備。 ノベルタイプのアドベンチャーとして純粋に標準以上の環境は整っているので、その辺は安心。 そこで内容ですが。 Memories Offで反省したのか(勿論あれが味ではありますが)、小難しくクドイ言い回しや奇妙な抽象表現はほとんどなく、全体的にスマートになってます。 テキストそのものがあっさりしていて、良く言えば癖がなく読みやすい、悪く言えば個性が無くありきたり。 そのような、言ってみれば淡々とした物語が淡々に展開していきます。 これが本作の一番の魅力であり武器であると思っているのですが、つまりは特筆することのなさ。そんな特徴の掴めない良さがあると思います。 別に泣きゲーというわけでもないし、考察するような内容も無ければ、特にこれといったテーマも見当たらない。 僅かばかりの背景設定の下に、4つのシナリオがそれぞれ(ほぼ)独立した形で進んでいくだけです。 それは1つの作品として非常に不安定なバランスのようにも見え、統制がなっていないからこそ曖昧で空虚な雰囲気が感じられるとも言える。 説明が少々し辛いですが、つまり本作は各シナリオを踏まえた上で「1つの作品」として捉えた場合、強烈な違和感に襲われるのです。 各シナリオが淡々としているせいでもあるのでしょうが、どうにも「同じ作品内のシナリオとは思えない」感覚が残る。 世界設定などが甘く、それぞれで互換性のある設定を絡ませるシナリオや演出がほとんどなかったせいなのか。 消化していない複線や、あまりにも説明がなされていない展開が多すぎるせいなのか。 何だか、作品から与えられる情報がいびつで、プレイしていると「狐に騙されている」ような印象を受けるのである。 そんなワケで、本作はあくまでも雰囲気や空気感、特化せずに曖昧なまま存在するキャラクターを客観的に受動することで面白さを見出せるタイプの作品です。 緻密な設定や意外性のあるシナリオ、魅力的なテキストに能動的なキャラクターを求める方には一切オススメ出来ません。 日常生活などの雰囲気や、主人公がキチンと方向性をもって行動しているトコロなんかは結構好きなんですけどね。 まぁ今現在の主流からは大きく外れてますし、そのフワフワした世界を味わいたいならどうぞ。 シナリオなどにこだわらなければ面白い作品だとは思いますし。 それから、いわゆる幼馴染み至上主義者とも呼ばれる方は是非ともプレイをオススメしたいトコロだ。 本作に登場する深山勇希は、幼馴染みのキャラクターとしてかなり好み。いや、勿論個人的にという前提つきですが。 アレは卑怯だよなぁ・・・ 追記・ULP(ウルトラライトプレーン)は、簡単に言ってしまえば超小型の飛行機のこと。 免許と機体、土地があればいつでも飛ばしてもいいようだ。本作では主人公の直人がULPの免許を取得しようと奮闘する様も描かれている。 |