BMP8322.gif


白い古書、ぞっき本も、時を経て読むと面白いものです。

今月の一冊は、これ!


BMPA115.gif




BMP42B3.gif

いなかの図鑑

ながた はるみ著
啓明書房刊(1977年2月1日発行)

 帯に「ふるさとのカタログ」とあります。続いて、●ながたはるみが暖かい絵と文でつづる〈いなかの図鑑〉●生活習慣と四季の行事・懐しい色々な遊び・おふくろの味・田舎の味など●ぜひ伝えたい日本の良きふるさとのこころ、と続きます。これがこの本の全てを伝えています。帯の惹句を読むだけで、田舎暮らしの経験者は一挙に、あの何物にも代え難い幼き日々を思い浮かべるのです。
 今、思い返すと書店でこの本を手にした時、私は慣れぬ都会の生活に少々疲れ、心はささくれだって苛立つ日々を過ごしていたように思います。表紙の「いなか…」を見ただけで、私は間違いなく自分の田舎生活を懐かしみ、かけがえのないものを取り戻そうと、本をめくる間もなく買い求めたに違いありません。

 田舎暮らしと言っても、内地(本州)のこととて、私の過ごした北海道とは少々異なりますが、気持ちは一緒で変わりありません。
 一月から十二月まで、月を追って田舎の生活を描く構成になっていて、イラストと文がなんとも温かく、眺めるたびに心がほんわかとしてきます。しかしやがて、失ったものの余りに大きいことに気付き、愕然として本を閉じるのです。こんなはずではなかったのにと…。

 それでも私は、時々この本を取り出して眺めます。なぜか? それは取り戻せぬものえの郷愁、失ったものの大きさを再確認するための儀式とも言えるかもしれません。

BMP9145.gif