パソコンパーツの歴史
デスクトップパソコン向けCPUの歴史5
〜2GHzを超えた戦いと
モデルナンバー〜
(2002年9月13日公開)

ついに登場2GHz
 
 1.8GHzの登場から2ヶ月もたっていない、2001年8月28日。インテルはついに2.0GHz/1.9GHz動作のPentium4を発表した。PentiumIII-1GHzの発表は2000年の3月であったので、わずか1年半で次の区切りである2GHzに到達してしまった。もちろん「半導体の性能は18ヶ月で2倍になる」という法則に完全に一致するのだから驚くほどのことはないと思うかもしれない。しかしPentium4発表前に2GHzのデモを行い人々を驚かせたのがつい最近の出来事だけに、その2GHz版が手にはいるようになるのはユーザーにとってうれしいことであった。
 この2GHz版は従来のPentimu4とは何も変わらない。強いて言えば従来のSocket423用以外にSocket478版が用意されたことくらいだ。Socket478版は0.13μmプロセス版のPentium4であるNorthwoodで採用されるSocket規格だ。Scoket478版はSocket423版よりCPUサイズが小さく、マザーボード上で場所をとらないという利点がある。またピンの間隔が423ピン版より狭いため高クロック化がしやすいのである。
 同じ頃、新チップセットも発表された。これは以前から望まれていた、メモリにSDRAMが使えるPentium4向けチップセットだ。これにより高価なDirectRDRAMを使う必要が無くなり、結果としてPentium4搭載パソコンの価格を下げることができるのだ。もちろんPentium4の帯域である3.2GB/sの3分の1の転送速度であるSDRAMを使えば当然性能に影響は出る。インテルのチューニングのおかげで性能低下は最低限に抑えられたがそれでも10%程度の低下は避けられなかった。それでもSDRAMが使えると言うことは大きな利点だ。2.0GHzとならともかく、1.5GHzなどの安価なPentium4とはSDRAMを組み合わせるのがバランスとしては一番良いのである。

Socket423とSocket478の違い

 2.0GHz発表の際に2種類の形状のPentium4が出荷された。同時に低クロック品も両形状のものが出荷される。Socket478版は従来のSocket423版よりサイズが小さくなっている。今後のPentium4は全てSocket478版となる。

小型デスクトップにも採用され始めるPentium4
 
 2GHzの大台に乗ったPentium4にもう一つうれしいニュースがあった。10月から11月にかけてPentium4搭載の小型デスクトップが各社から一斉に発表されたのだ。
 PCメーカー各社は、発熱量の大きいPentium4を小型デスクトップに搭載できるよう、内部設計や冷却装置などの改良を続けていた。そしてついにそれが実現したのだ。前に書いたとおり、小型デスクトップは日本では売れ筋のモデルだ。その小型デスクトップにPentium4が搭載されると言うことはPentium4の普及が急速に進むことを示している。2GHzの発表と小型デスクトップへの採用でPentium4を取り巻く環境はあきらかに良くなってきていた。

どんどん小さくなるPentiumIIIの位置
 
 Pentium4が急速に普及すると同時にPentiumIIIは急速に衰退していった。
 当初、インテルはPentium4の普及にはもう少し時間がかかりPentiumIIIの高クロック版をつなぎとして提供する予定であった。この高クロック版はTualatinという開発コード名で呼ばれる新しいPentiumIIIだ。これは現在のPentiumIII(Coppermine)を0.13μmプロセスにすることで高クロック化を容易にし、さらにL2キャッシュを256KBから512KBに増量することで性能向上も図るといものだ。まず現在のCoppermineの1.1GHzと1.13GHzを出荷。さらにTualatinコアに移り1.13GHz、1.26GHz、1.33GHz、1.4GHzを順に出していく。Pentium4発表時の計画はこうであった。
 しかし、Pentium4が予想以上に速く普及し、さらに低発熱であるPentiumIIIが必要と言われていた小型デスクトップにまでPentium4が採用し始めると、PentiumIIIを高クロック化する意味はほとんど無くなっていった。
 結局Coppermineは1.1GHzのみを発表、さらにTualatin版PentiumIIIのクロックは予定より下げられ、1.13GHz版と1.2GHz版が発表されるにとどまった。またこれ以上のクロックは発表予定をキャンセル。さらにこのTualatinは512KBの予定のL2キャッシュも半分を使えなくし従来同様256KBとして出荷した。また、価格はPentium4-1.8GHzよりも高価であり、いくらクロックあたりの性能が高いと言ってもこれは高価すぎる。インテルは高クロック版PentiumIIIが成功するとPentium4の普及が阻害されると考え、わざとPentiumIIIに魅力がないようにしたのだ。PentiumIIIはあくまで従来のシステムのアップグレード用という位置づけに変更したのである。
 こうしてPentiumIIIは急速にPentium4へと移行していき、いつの間にか各社から発表されるパソコンに採用されるのは(インテル製では)Pentium4とCeleronになっていた。
Intel PentiumIII(Tualatin)

PentiumIII(Tualatin)

動作クロック : 1.13MHz〜1.2GHz
L1キャッシュ : 32KB/L2キャッシュ : 256KB
拡張命令 : MMX、SSE
製造プロセス : 0.13μm
対応Socket/Slot : Socket370

Pentium4の普及計画を前倒しできた理由

 実はPentium4の普及計画をこれほどまで前倒しできた理由は意外にも不景気によるものだ。このころ不景気の影響を受けてパソコンの販売台数はこれまでよりも少なくなっていた。しかし、これがPentium4の普及計画の前倒しとどう関係があるのだろう。
 前にも書いたようにPentium4とPentiumIIIではダイサイズが大きく異なる。Pentium4のダイサイズは新しいアーキテクチャを採用したCPUとしては小さい方だが、すでに円熟期に入っているPentiumIIIと比べれば倍近い大きさだ。一つのウエハーからは一定の面積分のCPUしか作れず、そのウエハーの製造数も決まっている以上、サイズの大きいCPUを製造すればその分一定時間での製造個数が減ってしまう。もし市場が好景気でパソコンがどんどん売れればCPUも沢山必要だ。そうなればインテルもPentium4よりダイサイズの小さいPentiumIIIの割合を増やして製造個数を増やさなくてはいけなかっただろう。しかし実際には世の中は不景気だ。CPUの数は予定よりも少なくてすむことが分かった。と言うことは大きなPentium4を作って製造個数が減ったとしても市場が必要とする数は十分に提供できるというわけだ。
 不景気は会社の利益を減らしてしまうが、Pentium4の普及計画を早められたという意味では良かったとも言える訳だ。

CeleronとDuron
 
 一方のローエンド向けのCPUはどうだろうか。2000年を終えた時点でDuronは800MHz、Celeronは766MHzとクロックではDuronが若干先行している状況だ。
 2001年に入ってすぐ1月5日にCeleronは早速800MHz版を発表しDuronに追いつく。また800MHzにもなってFSB66MHzでは少々問題がある。そろそろFSB66MHzでは性能が向上しにくくなってきたのだ。そこでこの800MHz版からはFSBが100MHzとなり若干の性能アップを図っている。 しかしながらその4日後の1月9日にAMDは850MHz版を追加しCeleronを再び突き放す。インテルはCeleron-850MHzを4月10日に発表したが、AMDは6月6日にDuron-900MHz版も発表した。インテルが追いつこうとすればすぐにAMDが突き放すという格好だ。
 元々、同クロックならCeleronよりDuronの方が性能が高い。その上Duronの方がクロックが上ならば完全にAMDの勝ちと言うところだろう。

VIAのCPUは?
 
 2001年1月19日に667MHzまでのCyrixIIIプロセッサを発表したVIAは、その2ヶ月後にはもう新しいCPUを発表した。2001年3月25日に発表されたそのCPUは「C3」というCPUだ。Samuel2の開発コード名であったこのC3は、「2」の数字が示すようにCyrixIII(Samuel)の改良版だ。基本的にはCyrixIIIに64KBの二次キャッシュを搭載したような物だと考えれば分かりやすい。また、製造プロセスは0.15μmへと若干細分化された。その他は変わらず、128KBのL1キャッシュで3DNow!に対応している。また、Socket370対応であるのも変わらない。この時発表されたのは733MHz版であるがより低クロックの667MHz版なども登場している。では、このC3はどの程度の性能を持っているのか、L2キャッシュの影響はどの程度なのだろうか。
 CyrixIII時代から比較的性能が良かった整数演算性能だが、これは同クロックのCeleronと比べて遜色が無くなった。CyrixIIIの時は若干Celeronより劣っていたが、64KBのL2キャッシュの力により、WordやExcel等のアプリケーションの速度はCeleronと全く同じといって良くなった。「ビジネスアプリケーション向けCPU」として開発されているだけの事はあるようだ。一方のマルチメディア系の浮動小数点演算性能はやはりCyrixIIIの後継といった感じだ。同クロックのCeleronと比べてもその性能はせいぜいが60%程度。悪い場合では40%程度しか出ていない。
 ではC3は整数演算性能だけがよい、たいした魅力もないCPUなのだろうか。そうではない。C3はCyrixIIIの良かったところをより進化させているのだ。その良かった点とは「サイズ」と「消費電力」だ。0.15μmへと細分化されたことで、L2キャッシュを新たに搭載しながらも52mm2と非常に小さくなっている。CyrixIIIの75mm2でさえかなり小さいと言われていたのだからC3の小ささが分かるだろう。これで製造コストの削減と高クロック化がより容易になる。また、動作コア電圧もCyrixIIIの1.9〜2.0Vから1.5Vへと下げられている。これにより消費電力はますます小さくなっている。
 このところ、CPUの消費電力は増える一方であり、小型のパソコンには搭載しづらくなっている。搭載できたとしても発熱の大きいCPUから熱を放熱するためにより高速回転のファンを搭載したりファンの数を多くしたりしなければならない。そうなるとファンの風切り音が大きくなってしまい従来よりも大きな駆動音がするようなってしまう。オフィスなどで使う場合は結構な騒音になるだろうし、DVD観賞用マシンや常に駆動させておくサーバーなどでは小さな騒音も気になるだろう。そんな中でC3の発熱の少なさは大きな魅力だ。より小さな本体へ搭載する事も可能だろうし、ファンの回転数を抑えることで静音パソコンを作ることも可能だろう。幸いなことにオフィス系アプリケーションの処理性能は問題ないレベルになっている。C3はWord・Excelやインターネット、メールなどの専用静音パソコンを作るのには最適なCPUへと進化したのである。

VIA C3

C3(Samuel2)

動作クロック : 667MHz〜750MHz
L1キャッシュ : 128KB/L2キャッシュ : 64KB
拡張命令 : MMX、3D!Now
製造プロセス : 0.15μm
対応Socket/Slot : Socket370

Celeronの猛反撃
 
 Celeronが850MHz、Duronが900MHzという状態で2001年前半を終えたローエンドCPU。インテルの2001年8月の時点でのCeleronの出荷予定はこうである。2001年第3四半期(7〜9月)で900MHz、年末にようやく950MHzを出荷し、2002年の初めにようやく1GHz版という予定だった。これはDuronに追いつくどころかますます差を付けられてしまうような予定である。
 ところがPentium4の普及が早まったことでその影響がCeleronにまで出てきた。これまでCeleronはPentiumIIIのクロックに追いつかないようにクロックを上げてきた。当初の予定でCeleron-1GHzが2002年となるのはPentiumIII-1GHzが2001年いっぱいは残ると予想したからだ。ところがPentium4の普及が予想以上に速まり、PentiumIIIが早くに終息に向かうことになった。そうなると1GHz版どころかPentiumIIIそのものが2000年の第4四半期にはほとんど姿を消してしまう。ということはCeleronはPentiumIIIのクロックに追いつく心配をせずにCeleronのクロックを上げることができるのだ。Pentium4はクロック重視の設計のためCeleronが追いついてしまう心配は全くない。Celeronは高い動作クロックの製品を製造する事がができれば、あとは何の問題もなく出荷ができるのである。
 「製造する事ができれば」という面ではCeleronには十分な余裕がある。もともとCeleronはCoppermineを基本としている。CoppermineコアのPentiumIIIはすでに1.1GHzまで出荷されており、同じコアのCeleronも今すぐに1.1GHz版が出荷できるはずだ。その後にはTualatinコアもあるため、これを使用すればもう少しクロックが上げられるという訳だ。
 急遽予定を早めたインテルはまず2001年7月3日に900MHz版を出荷してDuronに追いついた。一方のAMDは今後Celeronのクロックが急速に上がる事に危険を感じ、8月21日にDuron-1GHzを発表して一足早く1GHzに達する。しかもこのDuronは開発コード名「Morgan」で知られる新しいDuronだ。といっても製造プロセスやL1/L2キャッシュ容量に変更はない。ただしEnhanced 3D Now!がさらに進化し3D Now! Professionalとなった点が異なる。3D Now!Professionalは簡単に言えばEnhanced 3DNow!にインテルのSSEを追加したような物だ。AMDが急にインテルのSSEに対応してきた理由は、この時点で、3DNow!対応ソフトよりSSE対応ソフトの方が圧倒的に多いからだ。つまりSSEに対応することでCeleronに対して拡張命令でも同等に戦うことができるようにした訳だ。あくまでCeleronに負けない姿勢が分かるだろう。
 しかしこの後のインテルはがすごかった。900MHzの発表から2ヶ月後の9月3日、なんと1GHzを一気に超える950MHz/1.0GHz/1.1GHz版を発表したのだ。普通は1GHzなどの区切りは一端最高クロックになる事が多い。ところがインテルは1GHzの区切りを無視し1.1GHzまで3段階も上げてしまったのだ。それと同時にCeleronは動作クロックでDuronを超えることにもなった。これは久しぶりのことだ。この異様とも言える高クロック化はインテルがAMDに対して本気で反撃を開始することの現れだろう。またCoppermineコアの限界の1.1GHzまでを発表しきってしまったということは、CeleronがTualatinコアに移行する準備が整った証拠であった。
AMD Duron(Morgan)

Duron(morgan)

動作クロック : 1.0GHz〜
L1キャッシュ : 128KB/L2キャッシュ : 64KB
拡張命令 : MMX、3DNow!Professional
製造プロセス : 0.18μm
対応Socket/Slot : SocketA
 
Celeronの猛反撃
 
 AMDもインテルがいきなり1GHzを超えるとは思っていなかったのだろうか。簡単にインテルにリードを許してしまったが、それでも10月1日にはDuron-1.1GHzを発表しインテルに追いつく。
 ところがである。インテルは1.1GHz版までいきなり3段階も出荷したにもかかわらず、1ヶ月とたたない10月3日にCeleronの1.2GHzの出荷を開始した。Duronが追いついたと思ったのも二日間だったというわけだ。この1.2GHz版Celeronは予定通り0.13μmプロセスのTualatinコアを使っている。消費電力も下がり発熱も小さくなり、高クロック化もねらえるようになったCeleronだが、驚く点は他にもある。このCeleronは今までの「PentiumIIIのL2キャッシュを128KBに減らした」バージョンではなく、PentiumIII同様256KBのL2キャッシュを搭載しているのだ。つまり実質このCeleronは「FSBが100MHzのPentiumIII」と考えられる訳だ。PentiumIIIが終息に向かい、差別化を図る必要が無くなったためPentiumIIIをそのままCeleronに名を変えたのだと思われる。と言うことはこのCeleronはPentiumIIIとほぼ同じ性能を持つことになる。1.1GHzから1.2GHzへは性能面では性能面で見ると100MHz以上の向上をを果たしたのである。
 Duronもこれに対抗、1.2GHzは11月15日に出荷を始める。翌2002年の1月7日には一足先にCeleronが1.3GHzへ。遅れること2週間、1月21日にはDuronも1.3GHzへ到達した。
 一転して追う立場となったAMDのDuron。これまでの立場を一瞬にして逆転する力を持つところはさすがインテルであるといえるだろう。
Intel Celeron(Tualatin)

Celeron(Tualatin)

動作クロック : 1.2MHz〜1.4GHz
L1キャッシュ : 32KB/L2キャッシュ : 256KB
拡張命令 : MMX、SSE
製造プロセス : 0.13μm
対応Socket/Slot : Socket370

0.13μmプロセスヘと移行するVIA
 
 VIAはというと、C3の750MHz版は2001年5月30日に発表された。そして、6月5日には800MHz版を追加している。この800MHz版、実は名称は同じC3だが製造プロセスが0.13μmへと細分化しているのである(開発コード名:Erza)。そしてこの0.13μmプロセスへの以降は実はインテルと比べてもほとんど同じ時期に移行している事になる。AMDよりはかなり先行した格好だ。それどころかライバルのローエンドCPU(Celeron/Duron)の移行と比較するならば最も速いのだ。製造プロセスで先行したからといって性能が上がる訳でも、売り上げが上がる訳でもないが、高クロック化と製造コストを下げることが望める。インテルやAMDと互角以上にやっていける可能性があると言うことだ。
 この後、9月11日に800MHz版、12月19日に933MHz版が追加された。VIAの目標である「2001年中に1GHzへ」という目標は後一歩で達成されなかったが、C3も徐々に高クロック化ができているため、それほど悲観することも無いと思われる。むしろ、インテルとAMDが急速にCeleronとDuronのクロックを上げていなければ、追いついていたはずだ。その点でC3は決して悪い状況ではないのだ。
 結局1GHz版は2002年の6月6日とずいぶん遅れてしまったが、これでVIAも1GHzCPUメーカーの仲間入りを果たした。

VIA C3

C3(Erza)

動作クロック : 800MHz〜
L1キャッシュ : 128KB/L2キャッシュ : 64KB
拡張命令 : MMX、3D!Now
製造プロセス : 0.13μm
対応Socket/Slot : Socket370

クロックの差が問題となるAthlon
 
 AMDのAthlonの性能は非常に高い……これはパソコンに詳しい人たちの間だけで知られる話だ。パソコン(のハード面)が詳しくない人にとってはPentium4とAthlonの違いは分からず、カタログ上では単純に動作クロックを比べてしまう。動作クロックの面では2001年9月に時点でPentium4が2.0GHz、Athlonは1.4GHz。いくらAthlonの性能が高いと主張しても動作クロックの「数字」が低ければ市場では思うようには売れない。クロックが離されるにつれてPCメーカーへの採用が減り、売り上げが落ち込みだした。そこでAMDは対策を考え出した。
 解決策として最初に思いつくのはAthlonのクロックをPentium4並に上げればよい。クロック差が問題ならそのクロック差を無くしてしまえばいいという訳だ。この「Pentium4並に上げる」という事は言うだけなら簡単である。しかしクロック重視のPentium4とは異なりAthlonは性能とクロックのバランスを考えた設計だ。クロックではとてもPentium4には太刀打ちできない。
 もう一つの方法はAthlonの価格を同クロックのPentium4と同程度に設定することだ。同クロックなのだから同じ価格というのならばパソコンに詳しくない人でも納得する。確かにこうすれば「数」が売れるようになる。しかし1.4GHzといえばPentium4の最低クロックだ。ところがAthlonにとっては最高クロックなのだ。せっかく高い価格をつけ、利幅が大きいはずの「高クロックAthlon」を、価格が下がってきた「低クロックPentium4」と同価格帯のに設定にすることになる。これでは、たとえ「数」が売れても利益には結びつかない。
 ここでAMDはひとつの方法を思いついた。しかしこれは賭けに近い方法だった。もし市場が受け入れてくれなければ取り返しの付かないような方法である。
 その方法とはAMDが「Quant Speed アーキテクチャ」と呼んでいる方法だ。と言っても特殊な機能をCPU自体に搭載する訳ではない。動作クロックの代わりにモデルナンバーを採用すると言うことである。つまり「Pentium4の何MHzと同程度の性能を持っているか」を数値で表すのだ。さて、この方法に聞き覚えがある人もいるだろう。そう、これはかつてのPentium時代にAMDやCyrixなどが使ったP-Rating方式と同じなのである。この時は市場に受け入れられることなく失敗に終わっている。AMDは失敗に終わった方法を採用しようと言うのだろうか。しかしこの失敗は「実際にはそれほど高くない性能をごまかす」のに使われた事が原因なのだ。ほんの一部のベンチマークテストでかろうじて同性能を示すのをいかにも全てにおいて同性能のように示した風に説明した。これが失敗原因だったのだ。そのために失敗原因を知った上でならば大丈夫だとAMDは理解したのだろう。
 開発コード名Palominoで呼ばれていたCPUは、この方法を採用した初めてのCPUで、「AthlonXP」として2001年10月10日に出荷された。この時は1800+/1700+/1600+/1500+で、動作クロックは1.53GHz/1.47GHz/1.4GHz/1.33GHzとなる。このAthlonXPは従来のAthlonに比べて、ハードウェア・データープリフェッチ機能の搭載や3DNow! Professionalの採用などの強化が行われている。データープリフェッチ機能はCPUが必要とするデーターをあらかじめ予測して、メモリからデーターをキャッシュに先読みしてしまう機能だ。3DNow! Professionalは少し前にDuronに搭載された物と同じだ。Enhanced 3DNow!にさらに52個の命令を追加している。この52個はSSE互換のためSSEにしか対応していないプログラムでもPentium4/IIIと互角に戦えるようになった。このような改良により1500+の動作クロックは1.33GHzと、従来のAthlon-1.4GHzより低いが性能面では高くなっているのだ。
 また1800+とはPentium4-1.8GHz(1800)よりも高い(+)性能を持つことを示した物だ(AMDはPentium4とは言及しておらず、単に「他社製のCPU」としているが)。実際にほとんど全てのベンチマークテストでPentium4-1.8GHzよりも高い性能を示した。それどころかPentium4-1.9GHzも超え、2.0GHzに迫る性能を示すこともあった。性能面ではPentium4と互角になった。後はモデルナンバーが市場に受け入れられるかどうかだ。
AMD AthlonXP(Palomino)

Athlon(Palomino)

動作クロック : 1500+(1.33GHz)〜2100+(1.73GHz)
L1キャッシュ : 128KB/L2キャッシュ : 256KB
拡張命令 : MMX、3DNow!Professional
製造プロセス : 0.18μm
対応Socket/Slot : SocketA

一気に2000+へ
 
 モデルナンバーについては、パソコンに詳しい人ほど受け入れにくい物だったようだ。しかし時間がたつにつれ市場になじんでいった。しかしながらAthlonのモデルナンバーとPentium4のクロックには未だ200MHz相当の差がある。そこでまず、追いつくことを考えたようだ。
 2001年11月5日には1900+を、翌2002年1月7日には2000+を発表。モデルナンバーではPentium4にようやく追いついたことになる。2000+は1800+の時と同様、Pentium4-2.0GHzよりも高い性能を示したため「最速」の座を奪い返すことにも成功した。モデルナンバー制の成功と合わせて、市場ではAthlonXPの採用も徐々に進んでいった。

2つの新製品
 
 ようやく追いついたとAMDがほっとしたのもわずか1日のことだった。インテルは翌2002年1月8日に新Pentium4と新チップセットの両方を発表した。
 新CPUの方はNorthwoodの開発コードで呼ばれていた新Pentium4だ。このNorthwoodは様々な面で進化を遂げている。まずはL2キャッシュの容量だ。Pentium4は設計上、L2キャッシュの増加がが性能に現れやすい。そのためWillametteの256KBの倍の512KBが搭載された。また製造プロセスも0.18μmから0.13μmプロセスに細分化され、より高クロック化しやすくなっている。また、0.13μmプロセスになったことで面積はL2キャッシュを増やしたにもかかわらず30%小さくなっており、その分製造コストは安くなる。よりPentium4を低価格で提供できるようになったわけだ。また消費電力も下がり2.2GHz版で55.1W、2.0GHz版で52.4WとWillametteより低くなっている。0.13μmプロセスになったことで高い電圧をかけなくても高クロックで動作するようになり、Willametteの1.725Vから1.5Vへと下がったためだ。
 この時に発表されたのは2.2GHzと2.0AGHzだ(2.0GHz版にはWillamette版もあるため「A」をつけることになっている)。クロックは200MHz更新された訳だ。また性能の方はL2キャッシュの倍増のおかげでWillametteより10%程度向上している。Northwoodの2.0AGHzはWillametteの2.2GHz相当の性能を持つことになる。と言うことは発表されたCPUはクロックで見れば1段階のアップだが、性能では2段階分アップしているのだ。ちなみに1.6AGHzと1.8AGHzも出荷され低クロック品も徐々にNorthwoodへと切り替わっていった。
 ちなみに今回の新Pentium4はSocket478版のみの提供となる。WillametteではSocket423版が提供されていたためソケットのプラットフォームが変更になった訳だが、2.0GHz版発表時にWillametteにもSocket478版も提供され徐々に移行していったため市場にもSocket478用マザーボードが数多く出ていた。そのため、それほどの混乱はなかったようだ。
 新チップセットは前年8月に発表されたi845のマイナーチェンジ版だ。「i845 B-Step」とか「i845D」などと呼ばれる。ではi845と何が変わったのだろう。それは対応メモリである。新たに「DDR SDRAM」が使えるようになったのだ。DDR SDRAMとは簡単に言えば倍速のSDRAMである。PC1600(200MHz動作)とPC2100(266MHz動作)、PC2700(333MHz動作)の3つが市場にはあるが、i845 B-Stepで使えるのはPC1600とPC2100である。ちなみに1600や2100というのは転送速度を示している。つまりPC1600は1.6GB/s、PC2100は2.1GB/sという意味だ。PC133 SDRAMと比べるとPC2100では倍の転送速度を持つことになる。それでいて価格は従来のSDRAMと同程度であり、SDRAMに取って代わるメモリと考えられているものである。
 従来のi845ではメモリが足を引っ張り10%程度性能が低下していた。今度のDDR SDRAMではDirectRDRAMの3.2GB/sほどではないにしろ、SDRAMの1.06GB/sと比べれば非常に高速であるため、性能低下が低く抑えられるという訳だ。実際、性能はDirectRDRAMの時と比べても2〜3%程度の低下で抑えられた。
 このi845 B-StepとDDR SDRAMの組み合わせは安価で性能が高く、ようやくPentium4に適したチップセットが登場したわけだ。これにNorthwoodのPentium4を組み合わせれば最強の組み合わせということになる(もっとも性能にこだわるハイエンド機種ではi850とDirectRDRAMの組み合わせが残った)。これまで価格が上がってもDirectRDRAMを選ぶか、性能が低下してでもSDRAMを選ぶか迷っていたメーカーは多かっただけに、メーカーはこぞってi845 B-Stepへと移行した。
 Northwood版Pentium4の登場は、ある意味本命もPentium4である。そしてチップセットにi845 B-Stepが登場しPentium4とその周辺環境はようやく整った。これによってAthlonに対してより戦いやすくなったのだ。

Intel Pentium4(Northwood)

Pentium4(Northwood)

動作クロック : 2.0GHz〜2.8GHz(HT Pentium4除く)
L1キャッシュ : 8KB/L2キャッシュ : 512KB
拡張命令 : MMX、SSE2
製造プロセス : 0.13μm
対応Socket/Slot : Socket478

AthlonXPの問題
 
 AthlonXPの「2000+」の意味は「2000」MHzより性能は必ず「+」であるという意味だ。つまりどんな処理をさせてもPentium4-2.0GHzより性能が高くなければならない。もしかするとAMDにはその気はなかったのかもしれないが、これまでの状況から市場ではそうとられていたようだ。ところが、Pentium4がNorthwoodに移行すると、この式が崩れてしまった。Pentium4が同クロックでも10%ほど性能か向上すると、性能面では互角になってしまったのだ。つまりAthlonXP-2000+とPentium4-2.0AGHzでベンチマークテストを行うと、AthlonXPが勝つものとPentium4が勝つものとが出るようになってしまった。。これではAthlonXPはPentium4(Northwood)と同性能であるとは言えても、超える性能を持つという従来の主張は通らない。打開策としてモデルナンバーを下げ、従来の2000+を1900+に、他のも1段ずつ下にスライドさせればAMDの主張は守られる。しかし今まで2000+だった物が急に1900+になれば市場は混乱してしまう。
 結局は全く新しいCPUができるまでこのままで行くしかなかった。新しいCPUになれば従来のCPUへの影響を考えることもなく調整できる、それまでの我慢である。

さらに進化するPentium4
 
 2月26日にインテルは300mmウエハーの製造を開始した。従来よりもウエハーの直径が1.5倍になったことで、一つのウエハーから採れるCPUの数が極端に多くなった。具体的には200mmウエハーの時と比べて約2倍のCPUが製造できるようになり、製造に余裕が出るようになった。
 続いて2002年4月3日にはPentium4は2.4GHzへとクロックが上がった。その少し前の3月13日にはAthlonXPも2100+(1.6GHz)になっていたが、再び引き離されてしまった。このPentium4もAthlonXPも従来のそれらとは何ら変わりはない。単なる高クロック版だ。Pentium4に再び変化が訪れるのは1ヶ月後のことだ。
 5月7日、Pentium4のFSBが533MHzへと進化した。もっとも533MHzへ進化したと言っても性能が大きく変わるわけではない。しかしアクセスが高速になる分若干でも性能が向上するのは喜ぶべき事だ。また発表されたのは2.53GHz、2.4BGHz、2.26GHz(FSB400MHz版と区別するためBが付く)とこれまでよりワンランク上のクロックも提供された。
 これと同時にFSB533MHzに対応したチップセットの発表になった。DirectRDRAM用のi850Eが同日に、半月遅れでDDR SDRAM用のi845E/i845GE/i845Gの3つが発表になった(i845GはFSB400MHzのみ対応。後述)。特にこのDDR SDRAM用の3つは組み合わせるICHが従来のICH2からICH4に変更になりUSB2.0への対応を果たしている。またi845GEとi845Gにはグラフィック機能が内蔵され、より安価なシステムが組めるようになった。一方i845Eとi845Gには外部グラフィックスカード用のAGPスロットを持つ。つまり外部グラフィックのみのi845E、内蔵のみのi845GE、両方使えるi845Gと選べるようになった訳だ。Pentium4を取り巻く環境はさらに良くなったといえるだろう。

Celeronも進化する
 
 2002年5月16日にCeleronも次の段階へと移った。この時発表されたのは1.4GHz版と1.7GHz版だが、2つのCPUの間にクロック差がありすぎると思わないだろうか。実はこの2つは名称こそ同じCeleronだが、中身は大きく異なる製品だ。
 1.4GHz版は従来のCeleron(Tualatin)の単なる高クロック版だ。100MHzアップした以外にL2キャッシュ容量等に変更はない。
 一方の1.7GHz版はPentium4を基本にした新しいCeleronだ。これまでのCeleronはPentiumIIIを元にしていたが、PentiumIIIがPentium4へ移ったことでCeleronもPentium4を元にした新しいCPUへと生まれ変わったという訳だ。ちなみにこの1.7GHz版CeleronはPentium4を元にしていると言っても0.18μmプロセスのWillametteを元にしている。Pentium4がNorthwoodへと移行してゆき、余ると思われるWillametteをCeleronに回すという事なのだ。またL2キャッシュはWillametteの半分の128KBにされてしまった。Northwoodと比べればわずか4分の1の量だ。Pentium4のL2キャッシュがが512KBになった今、CeleronのL2キャッシュは256KBでもいいと思うかもしれない。しかし市場にはまだWillametteのPentium4が残っており、その旧Pentium4との差別化のために128KBになったのだろう。しかし、減ったL2キャッシュは直接性能に影響が出る。Pentium4のL2キャッシュが256KBから512KBになった際に10%程度性能が向上したことから分かるように、逆に128KBに減ったCeleronは性能がWillametteと比べても10%程度低下してしまった。またFSBは533MHzに進化したPentium4と違い400MHzとなっている。
 インテルは本気でCeleronもPentium4のアーキテクチャに持っていこうとしている。そのことが分かるのは価格だ。1.4GHzの価格が1万1880円、1.7GHzが1万1080円なのである。わずか800円ではあるが、1.7GHz版の方が安いのだ。しかも動作クロックが高いにもかかわらずである。これはCeleronもNetburstアーキテクチャへの移行を進めるたいというインテルの気持ちの表れである。
 そして、このCeleron向けに出荷されたチップセットが上記のi845Gである。i845Gの対応FSBが400MHzのみであることからもCeleron用であることがよく分かるだろう。このi845Gの価格は非常に低く抑えられており、グラフィックスカードが必要ないことと合わせて、Willamette版Celeron搭載パソコンをさらに低価格にする事に貢献している。もちろんi845GEやi845Eを使っても良い。
 こうしてCeleronもついにNetBurstアーキテクチャへの移行を始めたのだ。
Intel Celeron(Willamette-128K)

Celeron(Willamette)

動作クロック : 1.7GHz〜1.9GHz
L1キャッシュ : 8KB/L2キャッシュ : 128KB
拡張命令 : MMX、SSE2
製造プロセス : 0.18μm
対応Socket/Slot : Socket478


AMDの苦悩

 一方のAMDはと言うと、AthlonXPは2002年3月13日に2100+(1.73GHz)を発表してPentium4に(モデルナンバーでは)あと一歩と迫る。ところがインテルは2.4GHz、2.53GHzを立て続けに発表。再びAMDは引き離されてしまった。しかもAMDは0.18μmプロセスでは1.73GHz以上のAthlonXPを出すのが難しいことから、インテルに離されても高クロック版の投入ができなかった。AthlonXPはクロックはおろかモデルナンバーでもインテルに差を付けられるという事態になる。
 またDuronはというと2002年1月8日に発表した1.3GHzを最後に、9月現在(この文章を書いている時点)で高クロック版の発表はない。DuronもまたCeleronに離されてしまったのだ。

AMDの0.13μmプロセスへの移行の遅れ

 よく考えてみればAMDはなぜ未だに0.18μmプロセスの製造を続けているのだろうか。ライバルのインテルは2002年1月にPentium4を0.13μmプロセスに移行させている。Celeronは2001年の10月に移行しているし PentiumIIIに関してはもっと早い。なぜAMDはここまで遅れたのだろうか。
 実は新プロセスへの移行が早ければ早いほど、ハードルは高く費用もかかるのである。インテルと違いAMDには高い費用をかけハードルを乗り越えてまで新プロセスへ移行する事ができなかったのだ。もともとAthlonはクロック向上にまだ余裕があったため、無理をして0.13μmプロセスへ移行する必要もなかったのだ。
 ここに来てAthlonXPに0.13μmプロセスへの移行が必要になったわけだが、インテルの移行からしばらくたった今なら、ハードルも費用も低く抑えられる。ようやくAMDも0.13μmプロセスへと移行を始めた。
 この新プロセスを採用した新しいAthlonXP(開発コード名Thoroughbred)は2002年6月10日に2200+(1.8GHz)として出荷を開始した。「新しい」といっても製造プロセスが細分化されただけで、L2キャッシュの増量などは行われていない。そのため性能は従来のAthlonXPと何も変わらない。
AMD AthlonXP(Thoroughbred)

AthlonXP(Thoroughbred)

動作クロック : 2200+(1.8GHz)〜
L1キャッシュ : 128KB/L2キャッシュ : 256KB
拡張命令 : MMX、3DNow! Professional
製造プロセス : 0.13μm
対応Socket/Slot : SocketA

AMDの0.13μmプロセスの問題1

実はAthlonXPのL2キャッシュを増やさなかったのには訳があるのだ。
 インテルがPentium4が0.13μmプロセスへの移行の際にL2キャッシュを512KBに増やせたのはダイサイズが小さくなったためだ。L2キャッシュが256KBのまま0.13μmプロセスに移行するとダイサイズが非常に小さく(半分程度)なる。ところがそこまで小さくする必要はない。そこでL2キャッシュを512KBに増やして性能向上を図った訳だ。もちろん512KBに増やしてもダイサイズが従来より減少し、製造個数が確保できる。
 もちろんこれはAMDにも当てはまる。AthlonXPが0.13μmプロセスに移行したことでダイサイズは大きく減少した。ではなぜL2キャッシュを増やさなかったのか。実はAMDには工場の数が足りないのである。インテルはいくつもの工場を持ち、0.13μmプロセスへと移行しても5〜6個の工場で製造が可能だ。ところがAMDは0.18μmプロセスの時点でさえ2つしか工場を持たなかった。Fab25とFab30の2つだが、そのうちFab25は古いため0.13μmプロセスへの移行は難しい。結局移行できるのはFab30一つだけとなる。
 これは製造できるウエハーの数が半減することを意味する。工場が2つから1つになるのだから当然である。AthlonXPはダイサイズが半減したが、同時に製造工場も半分になったのだ。せっかく小さくなったダイサイズをL2キャッシュの増量で大きくしている場合ではないのだ。とにかくCPUを小さくして製造個数を稼がなければならない。
 つまりAMDにはL2キャッシュを増やす余裕がなかったのだ。工場の数が減ったなら新しく造ればいいじゃないかと思うかもしれない。しかし工場の建設には莫大な費用がかかる。AMDはインテルほど資産がある訳ではなく、5年に1つのペースがやっとだ。会社設立25周年の際にFab25、30周年にFab30を建設しているのである。次は35周年、まだ数年先の話だ。それまで0.13μmプロセスはFab30だけという訳だ。今はまだいいのである。AthlonXPも2100+以下は0.18μmプロセスを使っているしDuronは完全に0.18μmだ。しかし今後はどんどんと0.13μmに移行する。そうなると製造個数が明らかに不足してしまう。
 この対策としてAMDは別会社に製造を委託することを決めたようだ。次世代CPUは自社で製造し、AthlonXP/Duronのような成熟したCPUは他社に任せるという訳だ。もっともその場合、動作クロックが上げにくいなどの問題が発生する危険性がある。今後他社に任せたCPUがうまく出荷されるかどうかが鍵となるようだ。

AMDの0.13μmプロセスへの問題2

 AMDの0.13μmプロセスの問題はもう一つあった。それは消費電力だ。2200+で67.9W、2100+で62.1Wと非常に高い消費電力を示している。Palominoの2100+は72Wであったので、それほど下がっていない事が分かる。
 通常、プロセスが細分化されると同じクロックでも従来より低い電圧で動作するようになる。すると消費電力が低くなるのだ。Pentium4ではWillametteからNorthwoodに移行する際に1.725Vから1.5Vへと低下した。ところが、AMDはPalaminoからThoroughbredへ移行した際にそれほど電圧が下がらなかった。Palaminoの2100+では1.75Vだったのが、Thoroughbredの2100+で1.60V、2200+で1.65Vである。Pentium4に比べて電圧の低下が悪いことが分かるだろう。どうやらAMDの0.13μmプロセスの歩止まりが良くないため、電圧を上げなければ高クロック品が採れないと考えるのが妥当だろう。つまりAMDの0.13μmプロセスが思ったほどうまくいっていないのではないだろうか。

2600+とモデルナンバーの乱れ

モデルナンバー動作クロック
1500+1.33GHz
1600+1.40GHz
1700+1.46GHz
1800+1.53GHz
1900+1.60GHz
2000+1.67GHz
2100+1.73GHz
2200+1.80GHz
2400+2.00GHz
2600+2.13GHz
 2002年8月中旬の時点でインテルは2.53GHz、AMDは2200+であり、AMDがインテルに大幅に遅れているのがハッキリと分かる。せっかく0.13μmプロセスに移行したにもかかわらず、たった100+(66MHz)高い製品が出荷しただけだった。AMDの0.13μmプロセスは順調ではないのではないかと思われていたのだ。
 ところが、ここで思いがけない出来事が起こった。2002年8月21日、AMDは一気に2600+/2400+を出荷しインテルを抜き去ってしまったのだ(クロックでは抜けていないが)。しかもこの2種類のCPUはそれぞれ、2.13GHz/2.0GHzと、2GHzオーバーを達成した。いきなり400+分も高いクロックを出荷できたと言うことはAMDの0.13μmプロセスが順調になったことを示している。これでインテルと互角に戦えることが示された訳だ。
 ベンチマークテストを見てもモデルナンバーではPentium4を抜かしていることもあって軒並み高い性能を示した。久しぶりにインテルから「最高速」の座を奪い返したのだ。

 さて、今回のAthlonXPには不思議なことが起こっている。従来のAthlonXPでは動作クロックを66MHz上げるごとに、モデルナンバーを100ずつ上げてきた。右の図は動作クロックとモデルナンバーの一覧だが、これを見てもそのことが分かるはずだ。ところが一カ所だけズレが生じているのが分かるだろうか。そう、2200+と今回発表した2400+の間である。  2200+から2400+へ上げるところで、モデルナンバーは200(2段階)しか上がっていないにもかかわらず、動作クロックは200MHz(3段階)アップしているのだ。本来なら2.0GHzなら2500+を、2.13GHzなら2700+と名乗る事ができるはずである。モデルナンバーが高い方がインテルに対して有利であり高価に販売できるにもかかわらず、なぜ、わざわざモデルナンバーを下げて販売するのだろう。
 これは冷静に考えれば分かることだ。実は、モデルナンバーは実際の動作クロックの向上率より高い割合で向上しているのだ。例えば1500+(1.33GHz)と2000+(1.67GHz)を見比べてみよう。クロックは25%向上しているが、モデルナンバーは33%上がっている。つまりモデルナンバーは33%上がっても性能は25%しか上がっていないのだ。と言うことは動作クロックの66MHzに対して、モデルナンバーを100上げるのは少々「上げすぎ」ということである。
 しかし、実際問題としてモデルナンバーを1667や1814などのわかりにくい値をつける訳には行かない。あくまで製品名の一部なのだからわかりやすくと言うことだ。それなら66MHzに対してモデルナンバーは100という法則をたてるのも無理はない。実際AMDはモデルナンバーを性能の上下を示す指標で、厳密な性能差を表している訳ではないとしている。しかし市場ではPentium4の何MHz相当かを示す数字として理解されている。 Pentium4は1.5GHzから2.0GHzに上がる時にクロックがきちんと33%向上しているので、性能も33%向上している。しかしAthlonXPでは25%しか性能は上がっていない。とどういう事になるかというと、1500+では明らかにPentium4-1.5GHzより高い性能を示していたのに、2000+では差が縮まってしまったのである。さらにインテルはPentium4のL2キャッシュをNorthwoodで512KBに増やし、さらにFSBも533MHz化した。Willametteと比べて明らかにクロックあたりの性能は向上してしまった。2.2GHzと2200+の性能差は僅差であり、AthlonXPの「+」は意味を失っていた。さらにこのまま66MHz=モデルナンバー100を続けていると、名前は????+なのにPentium4-????MHzより性能が低いという事になるのは明らかだ。そこで、今回は調整のためにクロックを1段階飛ばした訳である。これでどの程度調整できたかは不明だが、Pentimu4に抜かれるのを先延ばしすることはできただろう。

AMDに対するインテルの反応

 AMDに抜かれたインテルがこのまま黙っているだろうか。そんな訳はない。すぐさま8月26日にPentium4の高クロック板の出荷を開始した。しかも、一気に2.8GHz版までが出荷された。正確には FSB533MHz版の2.8/2.66GHzとFSB400MHzの2.6/2.5GHz版の4つだ。これによりAMDを大幅にリードすることになったのだ。しかも、AMDに5日だけ最高速の座を奪われたわけだが、実際にはPentium4-2.8GHzは秋葉原で8月24日の時点ですでに販売が開始された。対するAthlonXP-2600+/2400+はこの時点で店頭には並んでおらず、こちらはインテルのリードとなる。
 インテルとAMDの最新CPUが手に入ったところで行われたベンチマークテストを見ると、Pentium4-2.66/2.6GHzとAthlonXP-2600+ではほぼ互角であった。それぞれ得意な処理分野があるため、Pentium4がリードするベンチマークテストと、AthlonXPがリードするベンチマークテストがあったが、総合的に見れば勝ち負けの数は同等くらいなので、同程度の性能を持つことになる。
 このことより、AthlonXPのモデルナンバーに間違いはないと言うことが証明された。それと同時にPentium4の方がまるまる200MHz分リードしている事も証明された。つまり最速CPUの座はわずか5日でインテルの元へと戻ったのだ。

 このように、激しい争いを続けるインテルとAMD。次回は、Hyper-Threadingや64bitなど、さまざまな方向に発展していく様子をお伝えする。
(H.Intel)