2020年末時点のプリンターを徹底検証 新機種と旧機種を徹底比較 (2021年3月5日公開)
EW-M530Fはちょっと特殊な製品だ。ファクス付きで、型番の法則も数字の前に複合機を意味する「M」が付く事から、ビジネス向けの製品ではあるのだが、ラインナップ上は家庭向け複合機EW-452Aの上位モデル扱いで、家庭向けプリンターのカタログに掲載されている。実際、インク構成などは家庭向けの下位モデルと同じだ。しかし、価格や機能的には、販売終了となったPX-M650Fの後継で、ファクス付きモデルの最下位モデルと考えられる。またデザインなどから分かるように、エコタンク搭載の複合機EW-M670FTのエコタンクを外したモデルと言える。そこで、PX-M650Fと比較しつつ、EW-M670FTとエコタンクに関連する箇所以外で違いは無いのか、それぞれ徹底的に検証する。 |
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シアン マゼンタ イエロー |
シアン マゼンタ イエロー |
シアン マゼンタ イエロー |
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(挿すだけ満タンインク方式・オフキャリッジ式) |
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(つよインク200X) |
(アルバム保存300年/耐光性7年/耐オゾン性2年) |
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77番(標準容量ブラック) |
ハリネズミ(染料) |
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黒:400ノズル |
黒:400ノズル |
黒:400ノズル |
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(MSDT) |
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(税別) |
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まずは販売価格を見てみよう。販売開始時の価格はEW-M530Fが15,500円で、PX-M650Fの22,980円よりかなり安い価格でのスタートだ。ただ、PX-M650Fが6年以上前のモデルで、当初は下から2番目のモデルだったこともありこの価格からスタートしているが、販売終了直前には15,980円まで下がっていた事を考えると、ほぼ価格を引き継いだ形となる。 それでは、印刷画質や速度、印刷コストなど基本的なプリント機能を見てみよう。インクは同じ4色インク構成ながら、全色顔料インクだったPX-M650Fと違って、EW-M530Fはブラックが顔料、カラーが染料となる。このあたりは同じラインナップ上はこの機種の下位モデルとなっている、家庭向けのEW-452Aと同じインク構成だ。インクジェットプリンターのインクには顔料インクと染料インクがあり、それぞれ特徴がある。顔料インクは普通紙に印刷した際に用紙上でインクが広がりにくいため、メリハリのある印刷が行え、耐水性も高い。一方、写真用紙などに印刷すると発色が悪く、また紙本来の光沢感が薄くなってしまう。また、光沢年賀ハガキやフィルム紙など顔料インクが非対応の用紙も一部にある。一方染料インクはその逆で、写真用紙などでの発色が良く光沢感もそのまま出るが、普通紙に印刷すると線が太くなったり、小さな文字や中抜き文字が潰れたりしやすい。ビジネス向けは普通紙への印刷がメインなので顔料4色が好まれ、PX-M650Fもその構成だった。一方、EW-M530Fはテレワーク需要の拡大によって、家庭でのビジネス利用をメインとする製品だ。そのため、用紙を選ばず使用できる染料インクを含む4色構成になっていると思われる。 実際の画質では、普通紙印刷の場合、カラーもモノクロもメリハリがあり耐水性の高い印刷が可能だったPX-M650Fと比べると、カラーが染料インクになっているため、カラー印刷の黒色部分以外では画質が落ちるといえる。またモノクロ印刷や、カラーの黒色部分でも、完全な黒でないグレー部分はカラーインクで表現する場合があるし、背景色がある場合は染料インクの上に顔料インクを打てないことから、染料ブラックを使用する場合があるので、全ての黒色で恩恵を得られるわけでは無い。とはいえ、黒文字だけでも顔料インクだと全体の印象はかなり良くなる。よほど普通紙印刷画質や耐水性を重視しないのであればEW-M530Fでも十分と言える。一方写真や年賀状の通信面の場合、EW-M530Fは染料インクが使用できるメリットがある。ただし、顔料のブラックインクを使えないため、カラー3色で黒を表現することになる。どうしても濃いグレーや濃い茶色にしかならず、影など黒の中の表現も苦手な傾向があり、染料ブラックを搭載した機種と比べれば劣ることになる。PX-M650Fはブラックを含む4色で印刷するため、黒色はしっかりと出るが、顔料インクであるため全体に発色が悪くなる。比較すればEW-M530Fの方が綺麗に見えるだろう。 ちなみに、画質に影響する最小インクドロップサイズは、PX-M650Fが3.3pl、EW-M530Fは非公表ながら、ベースとなっているEW-M670FTや、同機能の海外モデルが3.3plであるため、おそらくEW-M530Fも3.3plだ。粒状感の面では同等と言える。また「PrecisionCoreプリントヘッド」を採用しているため、普通紙印刷時に従来よりも高解像度の600dpiでプリントが可能なのも同じだ。 印刷速度はPX-M650Fのカラー文書7.3ipm、モノクロ文書13.0ipmから、EW-M530Fでは8.0ipmと14.5ipmにやや高速化した。ノズル数は同等なので、チューニングがなされたか、給紙時の速度向上などの理由による物だろう。 インクはカラーが染料インクである事や、本体形状の違いから、新しいインクカートリッジとなっている。PX-M650Fでは78番又は77番インクだったが、EW-M530FではIB10番となった。PX-M650Fではブラックのみ大容量と標準容量があったが、カラーと同じ78番インクが大容量となっており、標準容量の方が別型番の77番であったことや、4色セットも大容量ブラックとのセットであったため、実質、大容量一択の状態であったため、今回は1種類とされた。印刷可能な枚数は、A4カラー文書を印刷した場合、ブラックインクはPX-M650Fの大容量で850ページ、EW-M530Fで600ページ、同じくカラーインクは450ページと350ページとやや少なくなっている。一方でインクカートリッジの価格も、ブラックがPX-M650Fの3,780円からEW-M530Fでは2,880円に、カラーが各1,350円から980円と、印刷枚数が少なくなったのと同じ程度安くなっている。そのため、印刷コストはL判フチなし写真はPX-M650Fが27.8円でEW-M530Fが28.0円、A4カラー文書はそれぞれ13.5円と13.3円に、A4モノクロ文書は4.1円と4.6円であり、ほぼ同等となっている。交換回数は多くなるが、印刷枚数が少なくても使い切れる点では、印刷枚数が少ないユーザーにも安心と言える。 ちなみに、エコタンク方式のEW-M670FTと比較するとインク構成などは全く同じだ。違いとしてはモノクロ印刷の速度がEW-M670FTでは15.0ipmのところEW-M530Fでは14.5ipmに微妙の低下している他は、エコタンクに関連した箇所だ。つまりEW-M670FTはインクボトル1セットで、ブラックインクは7,500ページ、カラーインクは6,000ページと圧倒的に多く、ブラックインクは2,150円、カラーインクは各1.150円と、EW-M530Fとほぼ同価格だ。そのため、印刷コストはL判写真で5.9円、カラー文書が0.9円、モノクロ文書が0.4円と、EW-M530Fの15分の1から11分の1となる(L判写真は用紙代約4.3円を除くと23.7円と1.6円なので)。また、同梱のインクが別売りの製品と同じ量なので、初期充填を行った後も3,600枚以上プリントが可能だ。印刷枚数が少ない人は購入時の価格の安いEW-M530F、印刷枚数が多い人は購入時にインクが大量に同梱しており、その後購入するインクも安いEW-M670FTと、用途に応じて選べるようになっている。 |
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(セット可能枚数(普通紙/ハガキ/写真用紙)) |
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(150枚/30枚/20枚) |
(150枚/30枚/20枚) |
(250枚/30枚/20枚) |
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続いて、EW-M530Fの給紙、排紙機能を比較してみよう。対応用紙サイズや給紙方法と給紙枚数までPX-M650Fと同等だ。なおエコタンク方式のEW-M670FTとも同等に見えるが、前面給紙カセットからの給紙枚数がEW-M670FTでは250枚の所、EW-M530Fでは150枚という点が異なる。 |
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印刷速度 |
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続いてEW-M530Fのその他のプリント機能を比較してみよう。自動両面印刷機能はEW-M530FもPX-M650Fも搭載しているが、PX-M650Fは普通紙のみだったのに対して、EW-M530Fではハガキの両面印刷にも対応している。この点は家庭での利用も意識したと同時に、エコタンクモデルEW-M670FTの機能のままだからとも言える。EW-M530Fは印刷速度は向上した物の、自動両面印刷はPX-M650Fと同等だ。 便利な点としては廃インクタンク(メンテナンスボックス)のユーザーによる交換に対応したことだ。廃インクタンクはクリーニング時に排出されるインクを貯めておくタンクで、満タンになると交換するまで印刷が完全に止まってしまう。PX-M650Fでは修理に出して交換するしか無かったが、EW-M530Fではユーザーによる交換が可能で、インクなどと共に交換用メンテナンスボックス(1,800円)が販売されているので、これを購入して交換すればすぐにでも印刷が再開できる。修理費用の軽減と、修理に出している間プリンターが手元に無いという事態を無くすことが出来る。 |
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(216×297mm) |
(216×297mm) |
(216×297mm) |
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続いてEW-M530Fのスキャナー部を見てみよう。スキャナーの解像度やCISセンサーという点は同じで、ADFも搭載している点や、原稿のセット可能枚数まで同じだ。ただし、ADFのスキャン速度が3.0ipmから5.0ipmに高速化している。スキャンだけで無く、後述のコピー時の利便性もアップしている。 |
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EW-M530FとPX-M650F共にダイレクト印刷機能を搭載していない点で同等だ。 |
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Epson Smart Panel |
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Android 5.0以降 (EPSON Smart Panel使用時のiOSは11.0以降) |
Android 2.3.3以降 |
Android 4.1以降 |
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(OneDriveはアプリからのみ) |
(OneDriveはアプリからのみ) |
(OneDriveはアプリからのみ) |
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EW-M530Fのスマートフォン、クラウド関連機能を見ていこう。専用のアプリは従来のEPSON iPrintに加えて、他の最新機種にならって、Epson Smart Panelにも対応した。ほぼ同じ機能のエコタンクモデルのEW-M670FTはEPSON iPrintのみ対応でこの点は最新機種ならではの進化だ。とはいえEpson Smart Panel対応のプリンターのほとんどが対応している、Wi-Fiダイレクトの簡単接続機能(iOSはQRコードをカメラで読み取り、Androidはプリンターを選択して本体で許可するだけで接続出来る)には対応していない。対応端末はiOSがPX-M650Fでは5.0以降だったのがEW-M530Fでは10.0以降に、Androidも2.3.3以降だったのが5.0以降に変更されているが、これはプリンターの発売時のEPSON iPrintの対応端末なので、現在はPX-M650FもiOS 10.0以降、Android 5.0以降となる。 その他のスマホからのプリント・スキャン機能やクラウド関連機能、メールやLINE、リモートプリントの機能などは全く同じだ。 |
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濃度調整 |
濃度調整 |
濃度調整 |
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影消しコピー パンチ穴消しコピー |
影消しコピー パンチ穴消しコピー |
EW-M530Fのコピー機能を見てみよう。基本的な拡大縮小コピー機能に変化はない。ただし、PX-M650Fでは2面割付と4面割付が可能だったが、EW-M530Fでは2面割付のみとなる。一方、免許証などの裏表をそれぞれスキャンすると、1枚の紙に並べてコピーしてくれる「IDコピー」機能はPX-M650Fも搭載していたが、EW-M530Fではこれに加えて、原稿の周囲や綴じ目に出来る影を消してくれる「影消しコピー」と、パンチ穴を消してコピー出来る「パンチ穴消しコピー」機能を搭載している。また、スキャナーの項目で説明したとおり、ADFでのスキャン速度がPX-M650Fの3.0ipmからEW-M530Fでは5.0ipmに高速化している。同じ原稿の連続コピーなら良いのだが、ADFを利用して、複数の原稿をコピーする場合、スキャンとプリントの遅い方の制限を受けることになる。PX-M650Fの場合、プリントはモノクロ13.0ipm、カラーが7.3ipmなので、ADFの3.0ipがボトルネックとなり、それ以上の速度が出ない。それに対して、EW-M530Fのプリント速度はモノクロ14.5ipm、カラー8.0ipmで、ADFは5.0ipmなので、ADFの方がボトルネックになる点は変わらないが、3.0ipmから5.0ipmになった分だけ高速にコピー出来ることになる。ADFを利用したコピーが多いなら、使いやすくなったと言えるだろう。ちなみにEW-M670FTと全く同じ機能となっている。 |
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8dot/mm×7.7line/mm(精細) 8dot/mm×7.7line/mm(写真) |
8dot/mm×7.7line/mm(精細) 8dot/mm×7.7line/mm(写真) |
8dot/mm×7.7line/mm(精細) 8dot/mm×7.7line/mm(写真) |
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続いて、EW-M530Fのファクス機能を見てみよう。基本的にはほぼ同じ機能であるが、送信原稿サイズはPX-M650FではA4、B5、A5サイズが可能だったのに対して、EW-M530FではA4のみとなった点が異なる。一方、アドレス帳の件数はPX-M650Fの60件から、EW-M530Fでは100件に、グループダイヤルも59宛先から99宛先に、順次同報送信も60宛先から100宛先にそれぞれ増加している。ちなみにEW-M670FTと全く同じ機能だ。 |
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(角度調整可) |
(角度調整可) |
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(角度調整可) |
(角度調整可) |
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(Wi-Fiダイレクト対応) |
(Wi-Fiダイレクト対応) |
(Wi-Fiダイレクト対応) |
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MacOS 10.6.8〜 |
MacOS 10.6.8〜 |
MacOS 10.6.8〜 |
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最後にEW-M530Fの操作パネルやインターフェース、本体サイズなどを見てみよう。液晶はPX-M650Fの2.7型から、EW-M530Fでは2.4型へとやや小型化された。また、液晶内のメニューが最新機種と同等のデザインとなり洗練されている。両機種ともタッチパネル液晶で、タッチ操作を基本としているが、PX-M650Fはテンキーやスタートボタン、ストップボタン、ホームボタン、戻るボタンなどは物理ボタンで用意しているが、EW-M530Fは電源ボタン以外はボタンが無く、すべてタッチパネル操作となる。液晶にはバックライトが搭載されているため、EW-M530Fの方が暗い場所でもテンキーやスタートボタンが押しやすい他、液晶内だけで操作が完結するのでわかりやすいと言える。一方でファクス機能を多用する場合は、テンキーが物理ボタンで用意されている方が、押した感触があり、押しやすいという意見がある。このあたりは一長一短だが、EW-M530Fではスッキリとわかりやすくなった反面、ファクス利用時はやや不便になったとも言える。また、大きな違いとして、PX-M650Fの液晶と操作パネルは本体から斜めに飛び出した状態で固定されているが、EW-M530Fでは本体前面に取り付けられ、起こして角度調整が可能となった。見やすい角度に調整できるため。高い位置に置いても低い位置に置いても操作がしやすいと言えるだろう。 インターフェースはUSB2.0、無線LAN、有線LANに対応しているのは同等だ。対応OSはWiindows XPがSP1以降からSP3以降に変更されているが、マイクロソフトのサポートの終わったWindows XPやVistaにも引き続き対応し、MacOSも10.6.8以降と比較的古いバージョンから対応する。 本体サイズは、PX-M650Fの425×360×230mmから比べるとEW-M530Fは375×347×230mmで、特に横幅が小型化している。ただ高さに関しては同じ230mmの様に思えるが、PX-M650FのADFは固定式で、使用できる状態で230mmなのに対して、EW-M530FのADFはたたんでフラットにできるため、その状態で230mmとなる。使用時は255mmとなり、高さは25mmだけ大きくなったとも言える。耐久枚数に関しては、5万枚で据え置きとなる。ちなみに操作性や本体サイズなどはエコタンクモデルのEW-M670FTと全く同じだ。 EW-M530FはPX-M650Fと比べると型番上は下位モデルに位置づけられるが、機能面ではほぼ劣っていないことが分かる。最新モデルの中では性能が低い方にはなるが、それでも6年前の機種と比べると全体的に底上げされたためだろう。印刷速度もやや向上し廃インクタンクの交換にも対応、ADFの速度も上がり、コピー機能もやや強化された。操作性の面では液晶サイズはやや小さくなったが、それよりも角度調整できる利便性の方が大きいだろう。本体サイズも小型化した。それでいて、PX-M650Fの生産終了間近の価格を引き継いでいるため、お得感は非常に高い。PX-M650Fと比べて気になる点は、カラーが染料インクである点と、テンキーが液晶内に表示されるようになった点だが、前者は文書の画質によほどこだわりが無ければ、オールマイティーに使えて便利だし、後者もファクスの使用頻度によっては問題にならないだろう。文書印刷がメインで印刷枚数がそれほど多くないがファクス機能も必要ならば、価格据え置きで操作性や機能面で最新に一新された事で、魅力が増したと言えるだろう。 また、エコタンクモデルのEW-M670FTとはモノクロ印刷速度の0.5ipmの差と、普通紙セット枚数が250枚から150枚になっている点以外は、うり二つと言える製品だ。印刷コストが11分の1から15分の1になり、同梱インクで3,600枚以上印刷できる代わりに、本体価格は4万円アップするEW-M670FTとは、印刷枚数によってどちらがお得かという点だけで決められるため、分かりやすい選択肢が増えたと言えるだろう。 (H.Intel) 【今回の関連メーカーホームページ】 エプソンhttp://www.epson.co.jp/ |
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