2020年末時点のプリンターを徹底検証 新機種と旧機種を徹底比較 (2021年3月5日公開)
PX-S6710TはPX-S5080の後継モデルと見ることも出来るが、実際にはPX-S5080は継続販売されていること、さらにPX-S5080がインクカートリッジ方式なのに対して、PX-S6710Tはエコタンク方式であることからも、全く新しいモデルと言える。実際、エプソンのカラープリント対応のエコタンク搭載機としてはこれまで複合機しかなく、初めての単機能プリンターとなる。イメージ的には2020年夏に発売された複合機、PX-M6712FTをベースとしたプリント機能だけの製品と言えるだろう。今回はPX-S6710Tに一番近いと思われる、ビジネス向け顔料4色でA3ノビプリント対応のPX-S5080と比較しているが、ベースとなっているPX-M6712FTも参考機種として比較している。一体どのような違いがあるのだろうか。 |
プリンター部のみ |
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シアン マゼンタ イエロー |
シアン マゼンタ イエロー |
シアン マゼンタ イエロー |
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(「挿すだけ満タン」インク方式) |
(「挿すだけ満タン」インク方式) |
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(DURABrite ET) キャビネット保存400年 |
(つよインク200X) |
(DURABrite ET) キャビネット保存400年 |
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74番(標準容量) |
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黒:800ノズル |
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(ノズル自己診断システム搭載) |
(ノズル自己診断システム搭載) |
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(最速32枚/分) |
(最速20枚/分) |
(最速32枚/分) |
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(最速32枚/分) |
(最速32枚/分) |
(最速32枚/分) |
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(税別) |
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(税別) |
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まずは販売価格を見てみよう。販売開始時の価格はPX-S5080が34,980円、PX-S6710Tは90,500円と大きく異なる。機能面の差が要因では無く、印刷コストが安いエコタンク方式であるため、本体価格は高く設定されている。ちなみに複合機版のPX-M6712FTは139,980円で、5万円近い価格差がある。プリント機能だけで良いなら、かなり安くに、エコタンク方式のA3プリンターが購入できる事になる。 それでは、印刷画質や速度、印刷コストなど基本的なプリント機能を見てみよう。インクは顔料4色インクというのは同じだが、PX-S5080では「つよインク200X」の名称が付けられていたインクは、「DURABrite ET」インクとなった。「つよインク200X」では写真の耐保存性が、アルバム保存300年、耐光性45年、耐オゾン性30年と高くなっていた。しかし、今回は写真の耐保存性は明言されなくなった代わりに「文書のキャビネット保存400年」がうたわれている。顔料4色構成では画質上、写真印刷向きでは無く、文書印刷がメインになると思われるため、写真の耐保存性が高いより文書の耐保存性が高い方が合っているといえる。 前述のようにインクカートリッジ方式であるPX-S5080に対してPX-S6710Tはエコタンク方式となる。本体左側にインクタンクを搭載しており、ここにインクボトルからインクを補充する形となる。補充自体は「挿すだけ満タン」インク方式を採用しているため、ボトルを注入口に挿し込むと注入がスタートし、満タンで自動ストップする。ボトル自体はインクがこぼれにくい構造になっている。さらに、差し込み口の形状を色ごとに変えてあるので、間違った色のタンクに補充する心配も無い。インクカートリッジ方式と比べて特に難しいと言ったことは無いだろう。さらに途中で補充可能なので、大量印刷の前には補充しておくことで、途中でインク切れで止まっていたという事も防ぐことができ安心だ。なお、方式の変更に伴って、PX-S5080では76番(大容量)又は74番(標準容量)のインクカートリッジだったが、PX-S6710TではIT08番のインクボトルとなった。 最小インクドロップサイズに関しては、PX-S6710Tは非公表ながら、同性能の海外のモデルでは3.8plとなっており、おそらく3.8plとなる。PX-S5080では2.8plだったので、ドットは若干大きくなったが、写真や年賀状印刷ならともかく、普通紙への印刷ではそれほど画質は変わらない。文章中のグラフや写真で若干ざらざら感が増している程度だろう。一方PrecisionCoreプリントヘッドは引き続き採用し、普通紙にも600dpiの高解像度で印刷が出来るので、細かい文字や図面なども綺麗に印刷できる。さらに、PX-S6710には「ノズル自己診断システム」が搭載され、ヘッドのドット抜けを印刷ジョブごとに自動検知して調整してくれるため、何百枚も印刷したら、途中から筋が入ってやり直し……という無駄が軽減される。 印刷速度に影響するノズル数は、PX-S6710Tでは各色800ノズルとなっている。PX-S5080はブラックは同じ800ノズルだったが、カラーは各256ノズルだったので、PX-S6710Tではカラーもブラックと同等のノズル数まで増加したことになる。これが印刷速度に大きく影響しており、カラー印刷はPX-S5080の10.0ipm(image per minute:1分あたりの印刷枚数。数字が大きいほど高速)から、25.0ipmへ2.5倍高速化している。また、同じノズル数のモノクロ印刷に関しても、18.0ipmから25.0ipmに向上しており、卓上タイプのインクジェットプリンターとしては非常に高速になった。この数値なら卓上タイプのレーザープリンターにも引けを取らない速度だ。 印刷コストに関しては、PX-S5080がA4カラー文書が7.8円、A4モノクロ文書が2.5円のところ、PX-S6710Tではそれぞれ2.0円と0.8円へと大きく下がった。カラーは約4分の1、モノクロは約3分の1だ。1万枚印刷すると、PX-S5080ならカラーは78,000円、モノクロでも25,000円のところ、PX-S6710Tならカラーが20,000円、モノクロは8,000円まで抑えられる。本体の価格が55,000円上がったといっても、印刷枚数が多ければ元が取れる計算だ。また、PX-S5080のモノクロ印刷より、PX-S6710Tのカラー印刷の方が安いので、今までは印刷コストを考えてモノクロ印刷で我慢していたという場合でもカラー印刷が気楽に使えるようになる。 この印刷コストの差は、インクカートリッジとインクボトルの容量の差だ。PX-S5080では大容量を使用した場合、A4カラー文書を印刷すると、ブラックインクは2,200ページ、カラーインクは1,100ページ印刷が可能だ。カートリッジ価格はブラックインクが4,830円、カラーインクが各1,930円となる。一方、PX-S6710Tのインクボトルに関しては、1本でエコタンクが満タンになり、ブラックインクは7,500ページ、カラーインクは6,0000ページ印刷できる。ブラックは約3.5倍、カラーは約5.5倍の容量だ。それでいてインクボトルの価格はブラックインクは5,200円、カラーインクは各2.600円と大きく変わらない。ブラックで約7.6%アップ、カラーで約34.7%アップだ。価格差の割に容量が大きく、これが印刷コストの安さにつながっている。また、PX-S6710Tにはもう一つお得な点がある。インクジェットプリンターの場合、初期設定の際、インクの充填が行われ、これに大量のインクを消費してしまうため、同梱のインクの大半は使用してしまうのが常だった。PX-S5080でも同じである。ところが、PX-S6710Tは、別売りの物と同じインクボトルが付属することもあって、インクタンクが満タンの状態から初期充填を行う。そのため、大量に消費してもかなりの量が残るとされている。PX-S6710Tでは正確な値は公表されていないが、海外の同機能のモデルではブラックインクが2,800ページ分、カラーインクが4,500ページ分残るとされており、PX-S6710Tでもこれに近いと思われる。これはPX-S5080の別売りのインクで、ブラックは1本分以上、カラーは各4本分以上となり、27,990円分となる。同梱のインクを使用するだけでも、本体価格の差は縮まると言える。 ちなみに、これらの機能は、複合機のPX-M6712FTと全く同じとなっている。 |
プリンター部のみ |
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(用紙幅64mmまで対応) |
(用紙幅64mmまで対応) |
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(セット可能枚数(普通紙/ハガキ/写真用紙)) |
(50枚/20枚/20枚) |
(1枚/1枚/1枚) |
(50枚/20枚/20枚) |
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A3まで (250枚/65枚/50枚) 【カセット下段】 普通紙A3〜A5 (250枚/−/−) |
(250枚/50枚/20枚) 【カセット下段】 普通紙のみ・B5〜A3 (250/−/−) |
A3まで (250枚/65枚/50枚) 【カセット下段】 普通紙A3〜A5 (250枚/−/−) |
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用紙サイズ自動検知機能搭載 |
用紙サイズ自動検知機能搭載 |
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続いて、PX-S6710Tの給紙、排紙機能を比較してみよう。対応用紙は最大はA3ノビ、最小はL判という点では共通だ。しかし、PX-S6710Tは大きく進化している。まず、用紙幅はL判の89mmより小さな64mmまで対応している。このサイズは、B6ハーフサイズのプライスカードに用いられ、小売店などで重宝されそうだ。一方長尺印刷に関しては、PX-S5080が1,200mm(1.2m)までだったのに対して、PX-S6710Tでは6,000mm(6m)まで対応し、垂れ幕や横断幕などの印刷にも使用できる。 給紙に関しては、前面給紙カセット2段+背面給紙という点では同じだ。ただ、PX-S5080の背面給紙は1枚ずつの手差しだったのに対して、PX-S6710Tでは連続給紙が可能なトレイ式へと進化した。普通紙は50枚、ハガキや写真用紙は20枚までセットできる。もちろんA3ノビ対応だ。また、前面給紙カセットは250枚セットできるものが2段あり、下段は普通紙のみである点や、B4やA3サイズをセットする場合はカセットを伸ばす必要があり本体から飛び出す点は、PX-S5080と同じだ。ただ、上段カセットはPX-S5080ではA3ノビまで対応していたが、PX-S6710TではA3までとなり、A3ノビに非対応となった。つまりA3ノビは背面給紙のみとなる。一方の給紙枚数は、上段は普通紙は250枚で同じだが、ハガキはPX-S5080の50枚からPX-S6710Tでは65枚に、写真用紙は10枚から50枚に増えた。また、下段はPX-S5080はA3〜B5サイズの普通紙対応だったが、PX-S6710TではA3〜A5となり、B5より小さなA5サイズにも対応している。合計の給紙枚数は、普通紙は501枚から550枚に、ハガキは51枚から85枚に、写真用紙は11枚から70枚に増え、交換の手間が軽減されたことになる。 また、排紙トレイはPX-S5080では手動で引き出す必要があったが、PX-S6710Tでは自動伸縮するようになった。引き出し忘れて印刷した用紙が床に落ちてしまったという心配が無くなった。また、A4とA3で伸張量が調整されるようになっており、A4サイズの印刷なのに最大まで伸びて邪魔になるという事がないように工夫されている。 さらに、用紙種類・サイズの登録機能と印刷設定と異なる場合にエラーが表示される機能は引き続き搭載されているが、PX-S6710Tでは用紙サイズの自動検知機能を搭載しているため、違う用紙をセットした際に、サイズを手動登録する手間が軽減されている。ちなみに、これら機能も複合機PX-M6712FTと同等だ。 |
プリンター部のみ |
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印刷速度 |
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続いてPX-S6710Tのその他のプリント機能を比較してみよう。自動両面印刷機能はPX-S6710TもPX-S5080も対応しており同等だ。普通紙だけで無くハガキに対応しているのも同じだ。ただし、PX-S6710Tは1枚目表の印刷時に2枚目を給紙しておき、1枚目を裏返している間に2枚目表を印刷、2枚目を裏返している間に1枚目裏を印刷するという、「両面高速紙送り機構」を採用している。自動両面印刷の場合、表面を印刷した後、そのままもう一度プリンター内に吸い込まれ、前面給紙の場合と同じくプリンター後方で180度方向転換することで、裏返しているわけだが、これに時間がかかってしまい、両面印刷時は印刷速度が極端に低下してしまう。PX-S6710Tでは、この裏返すのに時間がかかる間に2枚目の表を印刷することで、時間を無駄にしないという手法だ。そして、2枚目を裏返している間に1枚目の裏を印刷する形となる。ここで、自動両面印刷の速度を見てみよう。
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