小ネタ集
2022年末時点のプリンターを徹底検証
新機種と旧機種を徹底比較
(2022年5月16日公開)

表中の背景が黄色になっている項目は、旧機種・参考機種からの変更点です。なお3機種で比較している場合は、旧機種1・参考機種1からの変更点となります

新機種「PX-S887」と旧機種「PX-S885」を徹底比較する

 PX-S887はPX-S885の後継機種だ。同機能の複合機PX-M885Fと共にPX-S885が生産完了となり、同時に後継機種の発表が無かったことから、インクパック方式は消え、エコタンク方式に移行するのではと思われていたが、複合機PX-M887Fと共にビジネス向けのA4プリンターの最上位として再び君臨する製品の登場となった。3年半ぶりの新製品だが、見た目は大きくは変化していない。しかし細かく見ていくと、色々な点が進化していることが分かる。

プリント(画質)
新機種
旧機種
型番 PX-S887 PX-S885
製品画像
発売日 2022年11月10日 2019年5月17日
発売時の価格(税込) 38,500円 32,978円
インク 色数 4色 4色
インク構成 ブラック
シアン
マゼンタ
イエロー
ブラック
シアン
マゼンタ
イエロー
カートリッジ構成 各色独立(インクパック方式) 各色独立(インクパック方式)
顔料/染料系 顔料
(文書キャビネット保存400年)
顔料
(文書キャビネット保存400年)
インク型番 IP11B(大容量)
IP11A(標準容量)
IP01B(大容量)
IP01A(標準容量)
ノズル数 3200ノズル 3200ノズル
各色:800ノズル 各色:800ノズル
最小インクドロップサイズ 3.8pl 3.8pl
最大解像度 4800×1200dpi 4800×1200dpi
高画質化機能 PrecisionCoreプリントヘッド
ノズル自己判断システム
PrecisionCoreプリントヘッド
ノズル自己判断システム

 まずは、販売価格を見てみよう。PX-S887の販売開始時の価格は38,500円で、PX-S885の32,978円から5,522円の値上げだ。新型コロナウィルスによる世界的半導体不足や製造や輸送の問題もあって、製造コストが上がり価格が上がる事が多い中、価格が上がってしまうのは仕方の無いところだろう。
 それでは、印刷画質を見てみよう。インクは4色の顔料インクで、インクパック方式を採用、最小インクドロップサイズやPrecisionCoreプリントヘッドを採用している点やノズル自己判断システムを搭載する点は同じだ。ただし、インクパックはPX-S885のIP01からPX-S887ではIP11に変更となった。とはいえ文書のキャビネット保存400年という耐保存性は変わらず、画質が向上したという話も無い。

プリント(印刷速度)
新機種
旧機種
型番 PX-S887 PX-S885
製品画像
印刷速度 L判縁なし写真(メーカー公称) N/A N/A
A4普通紙カラー(ISO基準) 25.0ipm 24.0ipm
A4普通紙モノクロ(ISO基準) 25.0ipm 24.0ipm
ファーストプリント速度 A4普通紙カラー 5.3秒 5.3秒
A4普通紙モノクロ 4.8秒 4.8秒

 続いてPX-S887の印刷速度を見てみよう。ノズル数には変化が無いが、印刷速度は24.0ipmから25.0ipmに微妙に高速化した。とはいえ実用上は変化を感じるほどでは無いだろう。

プリント(印刷コスト)
新機種
旧機種
型番 PX-S887 PX-S885
製品画像
印刷コスト
(税込)
L判縁なし写真 N/A N/A
A4カラー文書 8.7円 6.7円
A4モノクロ文書 2.7円 2.0円
インク1本の印刷枚数
(カラー文書)
ブラック 大容量:10,000ページ
標準:3,000ページ
大容量:10,000ページ
標準:3,000ページ
カラー 大容量:5,000ページ
標準:3,000ページ
大容量:5,000ページ
標準:3,000ページ
インク1本の価格
(税込)
ブラック 大容量:21,450円
標準:9,166円
大容量:19,228円
標準:8,217円
カラー 大容量:各10,780円
標準:各8,759円
大容量:各7,865円
標準:各6,391円

 次はPX-S887の印刷コストである。インクパックは変更となったもののインク1セットの印刷可能枚数は変わっていない。しかし、インクパックの価格は上がっている。PX-S885用のインクパックも価格改定により値上げとなったが、これと比較しても価格は高い。大容量インクの場合、ブラックは20,240円から21,450円に5.98%(値上げ前からだと、11.56%)、カラーは8,250円から10,780円に30.67%(同37.06%)の価格上昇となる。ブラックインクに比べてカラーインクの値上げ幅が大きい。また、標準インクの場合、ブラックは8,690円から9,166円に5.48%(値上げ前からだと、11.55%)、カラーは6,710円から8,759円に30.54%(同37.05%)の価格上昇となる。値上げ率は大容量インクとほぼ同じとなっている。これにより、印刷コストはカラー文書でPX-S885の7.1円(値上げ前は6.7円)から、PX-S887は8.7円に、モノクロ文書は2.1円(同2.0円)から2.7円に上がることとなった。これにはベースとなる複合機PX-M887Fの方針転換が影響している。もともとインクパック方式は、大容量インクによる低印刷コストを売りにした方式だったが、PX-M791FTという、さらに低印刷コストのエコタンク方式の機種が登場してしまった。そのためインクパック方式は印刷コスト面では中途半端となってしまったため、大容量インクによる交換の手間の軽減と、最上位機種としての高性能、ある程度の低印刷コストをエコタンク方式より手頃な本体価格で提供するという位置づけとなったようだ(印刷コストを安くすると本体価格は高くなるため)。プリントだけのエコタンク方式の機種は無いとはいえ、ベースとなる複合機が変更されたため、PX-S887でも同じく印刷コストが上がってしまった。ちなみに下位モデルのPX-S730Fはカラー文書は10.5円、モノクロ文書が3.6円なので、これよりは低印刷コストとなる。

プリント(給紙・排紙関連)
新機種
旧機種
型番 PX-S887 PX-S885
製品画像
対応用紙サイズ 定型用紙 L判〜A4
(用紙幅64mmまで対応)
(フチ無し印刷非対応)
L判〜A4
(用紙幅64mmまで対応)
(フチ無し印刷非対応)
長尺用紙 長さ6,000mmまで 長さ6,000mmまで
給紙方向
(A4普通紙セット可能枚数)
背面

(80枚/30枚/20枚)

(80枚/30枚/20枚)
前面 【標準カセット】
(250枚/50枚/50枚)
【増設カセット(オプション)・3段まで】
A4〜A6・ハガキサイズ
写真用紙などはA4のみ
(550枚/50枚/50枚)
【標準カセット】
(250枚/50枚/50枚)
【増設カセット(オプション)・1段のみ】
普通紙のみ
(550枚/−/−)
その他
排紙トレイ自動伸縮 −(取り外し式) −(取り外し式)
用紙種類・サイズ登録 ○(カセット収納(前面)/用紙セット(背面)連動) ○(カセット収納(前面)/用紙セット(背面)連動)
用紙幅チェック機能 ○(印刷時) ○(印刷時)

 続いて、PX-S887の給紙、排紙機能を比較してみよう。対応用紙サイズや長尺印刷機能、フチなし印刷に非対応である点などは変わっていない。印刷時の用紙幅チェック機能も引き続き搭載されている。給紙機能に関しては、標準では背面給紙+前面給紙1段で同等だ。給紙枚数にも変化はない。一方、増設カセットについては機能が強化されている。増設カセットはオプションで本体の下に取り付けられる様になっている。1段で普通紙550枚給紙と、標準の前面給紙の250枚より大量給紙に対応する。PX-S885ではこれを1段増設する事が出来たが、PX-S887では3段まで増設できるようになった。全てに同じ用紙をセットすれば550枚×3段+標準の250枚+背面80枚で、1,980枚までの給紙に対応できる事になる。また、この増設カセットも自由度が高まった。PX-S885はA4〜A6サイズの普通紙またはハガキのみの対応だったが、PX-S887ではファイン紙や各種写真用紙、フォトマット紙にも印刷が可能となった。ただし、写真用紙はA4又は六切のみで、L判、KG、2L判は使用できない。これにより、例えば標準カセットにしかセットできない封筒やL判の写真用紙と、ファイン紙やA4の写真用紙を同時にセットできる。複数の用紙を使い分けるような使い方の場合、非常に便利だろう。ちなみに増設カセットは19,360円で、PX-S885用の増設カセットの16,500円より価格が上がっている。

プリント(付加機能)
新機種
旧機種
型番 PX-S887 PX-S885
製品画像
自動両面印刷 対応/非対応 ○(湿温度センサー搭載) ○(湿温度センサー搭載)
対応用紙 普通紙 普通紙
対応サイズ A4〜A5
レター
A4〜A5
レター
自動両面
印刷速度
A4カラー文書 16.0ipm 15.0ipm
A4モノクロ文書 16.0ipm 15.0ipm
CD/DVD/Blu-rayレーベル印刷
写真補正機能 ○(オートフォトファイン!EX) ○(オートフォトファイン!EX)
特定インク切れ時印刷 ○(黒だけでモード・5日間のみ) ○(黒だけでモード・5日間のみ)
自動電源オン/オフ −/○(指定時間) −/○(指定時間)
PictBridge対応
廃インクタンク交換 ○(メンテナンスボックス交換可) ○(メンテナンスボックス交換可)
フチなし吸収材エラー時の対応機能

 続いてPX-S887の付加機能を見てみよう。湿温度センサー搭載の自動両面印刷機能や、その対応用紙とサイズ、交換式メンテナンスボックスなどの機能は同等だ。自動両面印刷の速度は、片面印刷速度が若干高速化したことに合わせて、PX-S885の15.0ipmからPX-S887では16.0ipmに高速化している。

スマホ/クラウド対応
新機種
旧機種
型番 PX-S887 PX-S885
製品画像
スマートフォン連携 アプリ メーカー専用 Epson Smart Panel
(EPSON iPrintにも対応)
EPSON iPrint
AirPrint
対応端末 iOS 13.0以降
Android 8.0以降
【発売時】
iOS 10.0以降
Android 4.4以降
【現行】
iOS 13.0以降
Android 8.0以降
スマートスピーカー対応 ○(Alexa/Googleアシスタント) ○(Alexa/Googleアシスタント)
Wi-Fi接続支援機能 ○(QRコード読み取り(iOS)/アプリ上で選択して本体で許可(Android)) ○(NFC)
写真プリント
ドキュメントプリント ○(PDF/Word/Excel/PowerPoint) ○(PDF/Word/Excel/PowerPoint)
Webページプリント
クラウド連携 プリント アプリ経由/本体 ○/− ○/−
オンラインストレージ ○(Dropbox/Evernote/googleドライブ/Box/OneDrive/google classroom) ○(Dropbox/Evernote/googleドライブ/Box/OneDrive/google classroom)
SNS
写真共有サイト
メールしてプリント ○(JPEG/GIF/PNG/TIFF/BMP/PDF/Word/Excel/PowerPoint/メール本文) ○(JPEG/GIF/PNG/TIFF/BMP/PDF/Word/Excel/PowerPoint/メール本文)
LINEからプリント ○(JPEG/PNG/PDF/Word/Excel/PowerPoint) ○(JPEG/PNG/PDF/Word/Excel/PowerPoint)
リモートプリント ○(リモートプリントドライバー) ○(リモートプリントドライバー)
スキャンしてリモートプリント ○(受信のみ) ○(受信のみ)

 PX-S887のスマホ、クラウド関連機能を見ていこう。対応アプリは最新のEpson Smart Panelに変更された。去年までの新機種は従来のEPSON iPrintにも対応していたが、PX-S887は非対応だ。これまでEPSON iPrintを利用していた人は、アプリの変更が必要になる。対応OSに関しては、PX-S887はiOS 13.0以降、Android 8.0以降となる。一方、PX-S885の場合、発売当初はiOS 10.0以降、Android 4.4以降だったが、アプリの対応OSは徐々に上がり、現在ではiOS 13.0以降、Android 8.0以降となっている。アプリは変わるが、対応OSには変更はない。また、Wi-Fiダイレクト接続時の接続支援機能が変更となった。PX-S885はNFCに対応しており、スマホをタッチするだけで接続が出来たが、スマホがNFCに対応している必要があり、またAndroidのみであった。PX-S887では他の新機種同様となった。iOSの場合は、PX-S887の液晶に表示されるQRコードを、標準カメラアプリで読み取れば接続が完了し、Androidの場合はアプリ上からプリンター名を選ぶと、PX-S887の液晶にメッセージが表示されるので、接続の許可を選べば接続が完了する。いずれもセキュリティーキーの入力は不要で非常に簡単という点はNFCのまま変わらず、一方でスマホ側に特別な機能を必要とせず、またiOSとAndroidの両方で使えるようになった。
 その他、プリント可能なファイルの種類や、クラウドとの連携機能、リモートプリント機能などに変更はない。

操作パネル/インターフェース/本体サイズ
新機種
旧機種
型番 PX-S887 PX-S885
製品画像
液晶ディスプレイ 2.4型
(75度角度調整可)
2.4型
(75度角度調整可)
操作パネル 物理ボタン式(シートキー)
(75度角度調整可)
物理ボタン式
(75度角度調整可)
インターフェイス USB他 USB2.0×1 USB2.0×1
無線LAN IEEE802.11ac/a/n/g/b
5GHz対応
(Wi-Fiダイレクト対応)
IEEE802.11ac/a/n/g/b
5GHz対応
(Wi-Fiダイレクト対応)
有線LAN 1000BASE-T 1000BASE-T
対応OS Windows 11/10/8.1/8/7/Vista/XP SP3
MacOS 10.9.5〜
Windows 11/10/8.1/8/7/Vista/XP SP3
MacOS 10.6.8〜
耐久枚数 30万枚 15万枚
外形寸法(横×奥×高) 425×535×357mm 425×535×357mm
重量 16.0kg 16.0kg
本体カラー ホワイト(排紙トレイ部のみブラック) ホワイト(操作パネル・排紙トレイのみブラック)

 最後にPX-S887の操作パネルやインタフェースなどを見てみよう。PX-S887の液晶や操作パネルは本体前面に取り付けられ、角度調整が可能な点や、ボタン配置などに変化はない。ただし、物理ボタンがシートキーに変更されている。PX-S885はボタンが飛び出ており、ボタンの周囲にすき間がある一般的なタイプだったが、PX-S887では全体が1枚のシートとなっており、凹凸がなく、ボタン周囲にすき間もないため、掃除しやすくなっている。インタフェースはPX-S885と変わらず、IEEE802.11acと5GHz帯に対応した無線LANと、1000BASE-Tに対応した有線LANとなる。対応OSはWindowsは変わらずWindows XP SP3以降から対応しており、かなり古いパソコンでも安心だ。MacOSはPX-S885の10.6.8以降から、PX-S887では10.9.5以降に変更されたが、他社と比べてもかなり古いバージョンまで対応している。
 耐久枚数は15万枚から30万枚に強化され、より印刷枚数が多い環境でも安心となった。ただし15万枚を目処に、給紙ローラーは交換が必要となる。標準カセット用と増設カセット用があるが、いずれも2,090円となっている。交換は背面からアクセスすれば簡単に行える様になっている。
 本体サイズに変更はない。基本的はデザインも同等だが、操作パネル部がブラックからホワイトに変更され、シンプルな印象になった。排紙トレイや背面給紙トレイなどにブラックが残っている。また、本体下部のインクパック取り付け部に窓が付けられ、内部のインクパックのトレイの色が見えるようになり、インク交換時に場所が分かりやすくなった。



 PX-S887は3年半ぶりの新製品だが、最上位機種だけあって、PX-S885ですら卓上のインクジェットプリンターとしては最高クラスの性能であったため、なかなか機能アップが難しい機種と言えた。ただ、この間にビジネス向けのエコタンク搭載機が登場し、低印刷コストならエコタンク方式という状況の変化があった。そこで、従来の「低印刷コスト」路線を変更し、より大量印刷・大人数での利用にターゲットを絞った機種となっている。そのため、印刷速度は微増、操作パネルのシートキー化など、基本機能は大きな変化はない。一方で、前面給紙カセットのオプションで増設できる段数を1段から3段へと増やすことで、背面給紙と合わせて5種類の用紙の同時セット、又は1,980枚までの連続給紙に対応した。また耐久枚数を増やすことで、より大量印刷にも対応できるようになった。印刷コストと本体価格は反比例なので、低印刷コストはエコタンク搭載機に任せ、機能のわりには本体価格を抑えた一方、インク1セットでの印刷可能枚数はエコタンク方式よりも多くする事で、こちらも大量印刷でもインク切れの心配や、インク交換の手間を軽減している。もともと、PX-S885も、ユーザーごとに利用できる機能を制限できたり、無線LANの無効化、USB接続や外部メモリーの接続制限、パスワード印刷機能(印刷内容を他人に見られたくない場合に印刷時にパスワードを設定する事で、本体でパスワード入力するまでプリントされない機能)、割り込み機能(実行中の印刷ジョブを中断して、他の印刷ジョブを割り込んで実行する機能)など、複数人での使用が想定される機能が豊富な機種だったが、PX-S887では、さらにそういった「大人数で共用利用するプリンター」としての使い勝手を高めている。PX-S887をオススメできるユーザーは限られるが、逆にオフィスなどでのビジネス向けとしては非常にオススメ度の高い製品と言えるだろう。


(H.Intel)


【今回の関連メーカーホームページ】
キャノンhttp://canon.jp/


PX-S887