ハナサクミチヲユク

秋海棠


伯父の小学校5年生当時の話

腸チフスに罹った伯父は、
医者から『もう手の施し様がない』と言われたそうだ。
自分でも手足がどんどん冷たくなっていくのがわかり、
子供ながらにはっきりと死を意識したという。

病床の傍らで、私の祖母と
熱心な日蓮宗の信者だった付き添い看護婦が、
必死にお経を唱え続けた。

その声が届いたのだろうか、
おそらくいわゆる『三途の川』のあの世側の川岸とおもわれるところで
「綺麗な女の人が花のなかで手招きしていたのに行かなかった、
もし行っていたら死んでいたんだろうな」
と話してくれた。

何年も前のこと、立花隆氏だったと思うが、
某科学雑誌で「臨死体験」について
レポートされていたのを読んだことがある。

確かそれによると、「綺麗なお花畑を見た」という共通性があったと
書かれていたような気がする。

私自身も患者さんから、同じような体験談を聞いたことがあった。


死は、生まれた以上いつかだれでも
行かなければならない最後の旅路。
ならば、その道筋が本当に美しい花の咲く道で、
美しくどこか懐かしげな人が、迎えに来てくれるというならば、
逝く人も送る人の心も少しは慰められるように思う。