メモ用紙


呼ばれて病室の外に出てみると、
伯父の受け持ちの看護婦さんが立っていた。
『昨日の夜、家の者を呼んでくれって、
これを書かれたんです。最後の字になるかもしれないから。』
そういって名前と電話番号の書かれたメモ用紙を渡してくれた。

伯父は誰に習ったわけでもないのに字も絵も人一倍上手で、
うちの母などは『いいところはみんな持っていかれた』と
よく冗談まじりに言っていた。

高熱の為におぼつかない手で書かれた文字は、
伯父の書いたものとは思えないほど乱れていた。
でも、用が足りてしまえば捨てられてしまうだけのメモ用紙を
大事に取っておいた彼女の気持ちが嬉しくて、
私はそれを傍にいた従兄弟に渡した。

従兄弟は、
『なんだ、この番号間違ってるよ。これじゃ通じないよ。』
そういいながら、メモ用紙をポケットにしまった。