カード
ある日、怪盗KIDから招待状が届いた。 「こんばんは、探偵クン。」 毛利探偵事務所のあるビルの屋上。 KIDは月を背に不敵に微笑んでいた。 「なんのつもりだ。こんなもん寄越しやがって。」 「見ての通り招待状ですが?」 「バーロウ。どこの世界に探偵にこんなもん送り付けてくる泥棒がいるってんだよ。」 コナンは文字とお馴染のマークが描いてあるカードをKIDに投げ返した。 「おやおや。どうやらこれは、名探偵のお気に召さなかったようだ。」 銀の縁にKIDのマーク。 そして、 『満月が地を見下ろす時間 眠れる探偵の王冠で 貴方に愛の告白を』 「随分と馬鹿にしてくれるじゃねーか。」 「失礼な。本心ですよ?」 おどけたように笑うKIDの、本心は見えない。 「はんっ。さっさと用件を済ませろよ。世間話しをしに来たわけじゃねぇんだろ。」 「つれないですね。まあ良いでしょう。」 KIDは笑んだ。 全身で『楽しい』と表現するKIDに、コナンは眉をひそめた。 「テメェ、まさか仕事帰りか?」 「よくわかりましたね。流石は探偵だ。」 高揚感に支配されたKIDは歌うように笑う。 コナンは溜め息を吐いて、ついでに捕まえてやろうかと時計型麻酔銃の標準を合わせた。 「おやめなさい、名探偵。こんなキレイな月夜に無粋な真似は似合わない。」 月に宝石をかざし、KIDは言った。 「バーロ。だったら熱に浮かされたままオレに会いにくんなよ。」 クスリ、とKIDは笑い宝石を胸ポケットへしまいこんだ。 「仕方ないでしょう。こちらの予告状を出してから気が付いたんですから。」 「あ?何にだよ。」 KIDはスッとコナンの前に跪いた。 ポンッと両手を合わせると、一本の赤い薔薇が現れた。 「お誕生日おめでとうございます。工藤新一様☆」 微笑むKIDにコナンは目を見張った。 「知ってたのか。」 「情報収集は怪盗の基本ですよ?」 誇らしげにKIDは言った。 コナンは一輪のバラを受け取ると、そのままKIDの手を取りその指先へキスをした。 「コラ、少年。」 ペシンと頭を叩かれコナンは恨みがましそうにKIDを見上げた。 「いいじゃねぇかよこれくれー。」 「駄目です。私はそんなに安くありません。」 KIDは跪いた時と同じ身軽さで立ち上がった。 「つれねぇやつ。」 「どっちがですか、我が侭探偵。私はそろそろお暇させて頂きますよ。」 コナンに背を向けたKIDにコナンは思い出したように声をかけた。 「カード!!返せよっ。」 KIDは振り向き、意地悪く笑う。 「要らないのではなかったのですか?」 コナンは不貞腐れたように言う。 「…折角だから貰っておいてやるよ。」 クスクスとKIDは笑う。 「ならば特別にお返ししましょう。名探偵、目を瞑りなさい。」 コナンは素直に指示に従う。 コツンコツンとKIDが近づき、ポケットにカードが入れられたのが分かった。 同時に、キス。 「っ!?KIDっ!!??」 「それじゃあ名探偵。また、舞台上でお会いしましょう。」 コナンが問い詰める間もなく、KIDは煙幕を投げるとその場から消えた。 「けほっけほっ。アンニャロ…。」 視界が快復した時には、既にKIDの姿はなく、コナンは唇を押さえてひとり赤くなった。 「今度会った時、覚えてやがれ。」 返されたカードにキスを一つ落とし、コナンは悪態をついた。 頬が緩むのは仕方がない。 「そーいや、アイツの誕生日聞きそびれたな。」 今度会った時に聞き出してやろうと決意し、コナンは夜空を見上げた。 |