あまのじゃくの叫び


チクショウ。探偵なんて人種嫌いだ。
ズカズカ、人の心の中に入ってきやがって、全部暴いちまう。
「あんなガキンチョ大っ嫌いだーっ!!」
「なにを叫んでいるんですか黒羽君。」
背後から掛った声に黒羽快斗は弾かれたように振り返った。
「屋上でそんな大声で叫ぶと、他の人の迷惑になりますよ。」
「んだよ白馬。おまえこそサボりかよ。優等生がそんなんでいいのか〜?」
からかう快斗に、言われた白馬探は苦笑した。
「僕は自習と決まった途端に教室を出て行ってしまったあなたが、どこかで悪さをしないように見張りに来たんですよ。」
「うわっ流石優等生。」
快斗は肩をすくめた。
柵に背を預ける快斗に白馬も並んだ。
しばらく快斗を観察していた白馬が労るように口を開いた。
「疲れているんじゃありません?」
「あ?なんでだよ。」
「隈が出来ていますよ。」
心配そうに言われ快斗は目を反らした。
「ほどほどにしなさい。」
「これは別件。」
『何を』とは言わない白馬に、ただそれだけ言った。
「別件?なにかまた変な事に巻き込まれているんじゃないでしょうね。」
「またってなんだよ。これは、探偵なんて人種大っ嫌いだっていう気持ちの現れなんだよ。」
「僕のことですか?」
「あ?別におまえは嫌いじゃないよ。」
ふてくされる快斗に白馬は考え込む。
そして昨夜の彼の…KIDの予告現場であったことを思い返した。
昨夜怪盗KIDの標的となったのは、とある博物館に寄贈された大ぶりの琥珀だった。
中森警部が指揮する現場にいつものように白馬は居た。
目下彼の目的は怪盗KIDが宝石を盗む理由の解明にあったので、彼が現れそうなところには出来るだけ居るようにしていたのだ。
そういえば、と思う。昨日は自分の他にも探偵がいたな、と。
「告白でもされましたか?」
「はっ!?だれにっ。」
「コナン君に。」
白馬の出した名前に、一瞬快斗の動きが止まった。
「はあ?誰だよコナンって。」
「0.5秒、反応が遅れましたよ黒羽君。」
白馬は愛用の懐中時計の蓋を閉めて笑った。
快斗は首を傾げ取り合わない。
白馬はそれに構わず話しを進めた。
「なにを言われたかは知りませんが、ある意味キッドも年貢の納め時かもしれませんね。」
白馬の言葉に快斗は視線で問いかけた。
「彼は現場でも怪盗KIDに固執してましたから。」
「そーなの?」
「ええ。昨夜もキッドの中継地点を割り出していたようですし、逃れるのは容易いことではないと思いますよ。私は行きませんでしたが、キッドの逃走経路に赴いたようですし。」
「はーん。大変だな、怪盗KIDも。で、それがオレとどういう関係があんの?」
拗ねる快斗に白馬は穏やかに微笑み返した。
「探偵は嫌いですか?黒羽君。」
「…好きだって言ったらどうするよ?」
少し考え、なにかを企むように笑い、快斗は言葉を返した。
「早くキッドが、居なくなれれば、と願いますよ。」
返された言葉は優しすぎて、正直快斗は上手く笑えた自信がなかった。
それでもいつもの様に笑っていたのだろうけれども。
「キッドが、誰かのものになることはあるのでしょうか…。」
呟かれた言葉は反語で
「さぁな。」
返された言葉は遠くを見つめていた。


『オレはオマエが好きなんだよ。』

『テメェもオレが好きだろう。なあ?怪盗KID。』

ズカズカと言い当てられた想い。
「考えなしの我が侭探偵。」
心の内で呟いた快斗は空を仰ぎ、ひとつ、大きな伸びをした。
「我が侭探偵なんて、大っ嫌いさ。」
快斗は穏やかに微笑んだ。
白馬は、「あまのじゃく。」と笑った。