7:30。
ピピピピッと鳴る目覚ましを止めて、ボクはベッドから起き出した。
眠い目を擦りながら、あらいぐまのぬいぐるみを引きずって洗面所へ行く。
顔を洗って歯を研いていると、コンコンとドアがノックされた。
「コタ、起きたか?」
「おはよう、ママ。」
洗面所のドアを開けて顔を出したのはボクのママ。
大好きなお兄ちゃんそっくりな黒い髪の黒い瞳がボクを見つけた。
「早く仕度しな。今日は皆でピクニックだからな。」
にっこり笑うママの言葉に、ボクも釣られてにっこり笑った。
お兄ちゃんとパパとママとおじさんたちと、今日は皆で近所の公園までピクニックに行くんだ。
パジャマを着替えて部屋から出ると、もうお兄ちゃんたちはみんな揃ってた。
「おはようコタロー。」
ボクはキンタローお兄ちゃんがいれてくれたホットミルクを受け取って、グンマお兄ちゃんの隣に座った。
トーストを食べるボクの隣で、グンマお兄ちゃんはお兄ちゃんに文句を言っていた。
「どうしたの?グンマお兄ちゃん。」
「コタローちゃん、シンちゃんったら酷いんだよ!!今日のお弁当にうさぎさんりんご入れてくれないんだ!!」
グンマお兄ちゃんはお兄ちゃんの双子の弟で、ボクより18才年上なんだけど、ときどきボクより幼いことを言ってお兄ちゃんを困らせる。
でもボクもお弁当にりんごうさぎが入っていないのはイヤだなーって思ったから、向かいに座っているキンタローお兄ちゃんを見た。
ボクの視線に気付いたキンタローお兄ちゃんは、仕方ないなって顔をすると台所の方に歩いて行った。
「グンマお兄ちゃん。きっとキンタローお兄ちゃんがお兄ちゃんに頼んでくれるよ。」
ボクが言うとグンマお兄ちゃんは目をぱちくりさせて、それからにっこり笑った。
少ししてサービスおじさんとルーザーパパと高松がやって来て、お弁当を詰め終えたお兄ちゃんとパパがダイニングに来た。
「おはようコタローちゃん。」
「コタローおはよう。」
「おはようパパ、おにーちゃん。」
パパとお兄ちゃんに朝のご挨拶をして、二人に駆け寄る。
そうすると二人とも、とっても嬉しそうな顔をして、ボクの頭を撫でてくれた。
「あ、コタずりぃ。」
後ろでボクのリュックを持ったママが、ボクとパパを見て拗ねていた。
「ジャン。」
パパは「仕方ない子だ」って嬉しそうに笑うと、手招きしてママを呼んだ。
パタパタっとパパに駆け寄ったママは、パパに頭を撫でてもらって嬉しそうに笑った。
パパとママはすっごく仲が良い。
それから、みんなで廊下を歩いていると、前からお酒の臭いをさせたハーレムおじさんが歩いて来て、パパに捕まった。
「離せよ兄貴っ!!」
「ハーレムも一緒に行こうね。」
楽しそうにハーレムおじさんを引きずって行くパパ。
ハーレムおじさんも、暴れてるけど、本当は嫌じゃないみたい。
解放して貰ったハーレムおじさんは、渋々って高松の隣に並んだ。
『素直じゃないですねぇ』って高松が言ってた。
ハーレムおじさんはいつも気付くと高松の隣にいるって、いつもグンマお兄ちゃんが怒ってる。
グンマお兄ちゃんは高松が好きなんだって。
それから10人で公園まで歩いて行った。
公園ではお兄ちゃんとキンタローお兄ちゃんと一緒に、アスレチックスで遊んだ。
ママはルーザーパパとシュギョーだって言って殴ったり倒れたりしてた。
パパはボクとお兄ちゃん達とルーザーパパと高松とおじさん達を、一生懸命ビデオに撮っていた。
サービスおじさんは、いつの間にか異次元を作っていて、面白そうだったからボクも一緒にちょっと紅茶を飲んだ。
それから、パパとお兄ちゃんの作ったお弁当をみんなで食べて、デザートにりんごうさぎを食べて、最後にみんなで写真を撮った。
逃げようとしている高松を、ハーレムおじさんが無理やり捕まえていた。
高松、写真嫌いなのかなぁって思ったけど、なんか違うみたい。
それから、ボクはちょっと疲れてうとうとしちゃって、気が付いたらパパの背中の上だった。
パパの背中はお兄ちゃんと似た、ママと同じ煙草の匂いがして、お日様みたいに暖かくって、また眠くなった。
「寝ていて良いよ、コタローちゃん。」
パパの笑顔が嬉しくて、ボクはパパにぎゅってして、またすぐ寝ちゃった。
次に起きたら夕食で、グンマお兄ちゃんはタマネギが入ってるって騒いでた。
ボクはタマネギは大丈夫だけど、グリンピースはちょっと苦手なので、グンマお兄ちゃんと一緒にキンタローお兄ちゃんのお皿に入れておいた。
ご飯を食べた後でサービスおじさんとお風呂に入った。
サービスおじさんはちょっと変わっててキレーなのでとっても好きだ。
でも、恐い話を時々するから、お話しを聞く時はとってもドキドキする。
今日のお話はホラーじゃなくて、パパとママとサービスおじさんが出会った頃の話だった。
パパとママは出会った頃からラブラブだったけど、ママは昔は女じゃなくて男だったって言われてびっくりした。
うっそだーって言ったけど、ほんとだよって言われたから本当なんだと思う。
でもなんでかなぁ。高松のお薬で女になっちゃったのかなぁ?って聞いたら「フフッ」って笑ってたから、たぶんはずれ。
今度パパとママに聞いてみよう。
その後、パパの部屋に行って、パパとママにおやすみなさいのキスをして、それから詩織ママの写真にもキスをした。
詩織ママはボクの本当のママで、ボクが産まれてすぐに死んじゃった。
だからボクは詩織ママのことを写真でしか知らないけど、お兄ちゃんやパパやママやおじさんがいっぱい教えてくれる。
とってもキレイな人で、いっぱい笑っている写真がパパの仕事部屋の机の中に入ってるって、この間ルーザーパパが教えてくれた。
今度見せて貰おうと思う。
自分の部屋に戻る途中、廊下でハーレムおじさんと会った。
ハーレムおじさんはボクに気付くと、ボクを肩に乗せて部屋まで連れてってくれた。
ボクを部屋の前に下ろしたハーレムおじさんは、おじさんの部屋があるのとは違う方へ歩いていった。
どこに行くのかなぁ?
それから歯を磨いて、あらいぐまのぬいぐるみとベッドに入って、目覚まし時計をオンにした。
うとうとしてたら高松の叫び声とハーレムおじさんの怒鳴り声が聞こえてちょっとびっくりしたけど、犬も食わないからほっておいた。
そしてすぐに眠くなって、そのまま眠った。
その日見た夢は、高松やパパやママやお兄ちゃんやおじさんと一緒に笑う夢だった。
いつまでもこんな風に、家族みんなで居れればいいなって思った。
そんなある日のボクとボクの家族。