12:オレンジジュース


 ズズッと喉に液体を流し込んだ。
「オイオイ、人の奢りだからって。もう少し味わって飲めよ。」
「うるさいよヒカル兄ちゃん。誰のお陰で仲直りできたと思ってんの。」
「……イッキ様のオカゲデス。」
 よろしいと頷くとイッキは200ml入りのオレンジジュースのパックを飲み干した。
「あー生き返った。喉カラカラだったんだよな〜。」
「…やるよ。」
「お、サンキュー。」
 ヒカルがもてあそんでいたジュースを素直に受け取るとイッキは2本目のジュースにストローを差した。
 ヒカルは背もたれに腕を乗せ背を預け空を仰いだ。
 公園のベンチに二人は並んで座っていた。
「まあ、正直助かったよ。ありがとな。」
「………。」
「なんだい?」
 目を丸くするイッキに声をかける。
「…んな素直に感謝されると、キショイ。」
「オマエねぇ。」
 ヒカルは肩を落とした。
 イッキは首の後ろに手を当てた。
「だってヒカル兄ちゃん、オレのこと嫌いじゃん。」
「あのなぁ…。だからって、礼節をわきまえないほど非常識じゃないんだけどね…。」
「否定しろよ〜。」
「なら言うなよ。」
「言うなっつーかさぁ…事実じゃん。」
 イッキはストローに口を付けた。
 ヒカルは目を反らす。



「むしろ、さ。」
「ん?」
「『兄ちゃんが何したいのか』のほうが気になる。」
「何って…どういう意味だい?」
 空になった紙パックを持て余し、イッキはベンチの縁に置いた。
「結局さ、兄ちゃんはどうしたいわけ?」
「どう?」
「いや、わかってんだけどさ、どうしたいのかは。現状維持だろ?コウジが兄ちゃんに飽きて、離れるまで兄ちゃんはどうする気もないんだろ?」
「よくわかってんじゃねぇか。」
「……コウジの時間奪ってんだって、わかってんだよね?」
「………。」



 溜息。
 ヒカルはそっぽを向いた。
「関係ないだろ。」
「まあね。」
 ヒカルは苦虫を噛み潰した。
「関係ないけどさぁ。オレいっつも巻き込まれるし、言うよ?コウジ、兄ちゃんと別れる気なんて、ないと思う。」
 溜息。
「別れるさ。……あと2年ある。」
 あと2年。
 2年経ったら18歳になる。
「オレがあいつの人生、めちゃくちゃにする訳にはいかないだろう。」
 ヒカルは立ち上がった。
 イッキが笑った。
「コウジが、…兄ちゃんの人生、めちゃくちゃにしてるのかもしれないよ?」
「ありえないよ、イッキくん。それだけはありえない。」
 ヒカルの答えに、イッキは肩をすくめた。