ポケットに手を突っ込んで、無防備に屋上のヘリに立つKIDに、ゆっくりと近付いた。 KIDは振り向かない。 20:罪と罰 「捕まる気になったのか?コソドロさん。」 コナンは横柄にKIDを見上げた。 クスリとKIDは笑う。 「まさかっ。もっとも貴方が私を捕えられたなら話は別ですが?」 月にかざした宝石は、KIDのポケットの中。 顔を向けないKIDに、コナンはあるひとつの可能性を見い出し、口にした。 「見つけたのか?」 「ええ。貴方は?」 「オレもさ。」 コナンはギュッと手を握り締めた。 「気を付けてください。貴方は時々考えなしだから。」 「わーってるよ。」 不本意そうにコナンは答えた。 「オマエこそ、死ぬなよ。」 KIDが微笑む気配があった。 「はい。」 そして沈黙。 「…なあ。」 「はい?」 「全部終わったら、オマエの全てをオレのものにするからな。」 「…私は、罪を犯した咎人ですよ?」 コナンはKIDのマントを引っ張る。 KIDはバランスを崩し、しかし落ちるようなヘマはせずフワリとコナンの前に膝を付いた。 「コナン?」 「オマエは誰の物だ?KID。」 射貫く瞳にKIDは息を飲んだ。 「貴方の…物です。」 目を伏せ答えるKIDに、満足そうにコナンは頷いた。 「なら、オレが元の姿に戻ってもテメェはオレの物だよな?怪盗KID。」 「はい。」 KIDは頷く。 コナンは両手でKIDの頬を挟むと、自分と目を合わさせた。 「オレの物をどうして警察なんかにやらねぇといけねぇんだ?」 ぎゅうっとKIDはコナンの服の端を握り締めた。 コナンは笑う。 「名探偵…貴方は初めからそのつもりで…?」 「さあな。」 コナンは意地の悪い笑みを浮かべるだけだった。 「貴方って人は…。」 困ったようにKIDは呟いた。 コナンは優しい瞳で言った。 「全てが終わったら、迎えに行く。そうしたら、オレが昼間のオマエも手にいれたら、KIDは廃業しちまえよ。最後に大掛りな引退ショーをやって、消えちまえ。そしたらきっと、オマエの名は伝説になる。」 「コナン…。」 「なあ?そうしちまえよ。」 「考えて、おきましょう。」 KIDの現段階での最大限の譲歩に、コナンは良くできましたと奪うようなキスを与えた。 身体を支えきれなかったのか、KIDはぺたりと地べたに座り込んだ。 コナンは、KIDの頭を掻き抱き、そっと囁いた。 コロコロとシルクハットが転がっていく。 「忘れるなよ。オマエはオレのもんだ。」 「分かっています。ですがまずは生き残りましょう?」 まるで毒のようだと思いながらKIDは応えた。 コナンは当然だろと答え、KIDを捕える腕に力を籠めた。 「お気を付けて。」 「テメェもな。」 別れはあっさりと。 KIDは空に消え、コナンもまた闇に消えた。 ある地下組織と、それに繋がりの深い闇企業の幹部及び組員が一斉検挙されたのは、それから約3ヶ月後の話。 春も近いある晩の話だった。 |