※注意 女体化あります 1.もしも総帥がネコだったら 「総帥。書類に判子をお願いします。」 「ニャー。」 肉球に朱肉を付け、ペンと置く。 「それとこちらへも。」 「ニャッニャッ!!」 ほんとにネコなのかよっ!!猫化じゃないのかよっ!! 2.もしも総帥がグンマだったら 「世界征服とか、傍迷惑な家族喧嘩なんて止めて、皆で仲良く暮らしましょうよ!」 「だめだよグンちゃん!世界制服は男のロマンだよ!」 「制服?」 「ミニスカポリスだろ、どうせ。」 「叔父さんはロングスカートに深いスリットが好みだよ。」 「青の一族って…。」 むしろあなた達に疲れますよジャンくん。 3.もしも新総帥が女の子だったら 「やっぱ総帥服はミニスカに決まりだろ。」 「でもチラリズムも捨てがたいダロ?」 「スンちゃんをみんなに見せびらかしたいけど、パパ誰にも見せたくない!!」 「あー、なんかその気持ち分かりますよマジック様。オレはズボンってのもありだと思うぜ?」 「シンタローはタイトスカートだ。」 「はーい!ボクはフリフリがいいと思いまーす!!」 「本人の意見は無視かよ……。」 諦めてください。 4.もしも総帥が犬だったら 「頑張りなよジャン。」 「ありがと〜さーびすぅっvv」 「そっちの犬かよ!!」 そうですよ?シンタローさん。 5.もしも… 「まだやんのかよ…。」 もしも総帥が、あの時、あの場所に、あとほんの何分か、早く着いていたら 「はあ?」 顎に掛けられた手と、腕にあるサービスの重み。 その温かさに安堵し、目の前の人の瞳を見返した。 青の瞳が煌めく。 死ぬのかと、思った。 思考が途切れそうになる。 酷く眠い。 「ルーザーっ!」 声がした。 そして意識を手放した。 これは、有り得ない優しい仮定の、もしもの話。 「生きてる…。」 開いた手を見つめジャンは呟いた。 ベッドに横たえられた身体は、少し身体を起こそうとするだけで激痛が走った。 それでもジャンは生きていた。 「目が覚めたかい?」 顔だけを声の方へ向けると、マジック総帥が立っていた。 「ああ、そのままでいいよ。」 起き上がろうとするジャンを押しとどめ、マジックはジャンのベッドへ歩みよった。 「気分はどうかい?」 「なんとか…。」 ジャンは淡く微笑む。 マジックはジャンの頭を撫でた。 「骨は折れていないそうだ。基地に着くまでゆっくりおやすみ。」 「…サービスは?」 「あの子は無事だよ。」 ジャンは嬉しそうに微笑むと、そっと瞳を閉じた。 あなたが死ななかったら。 彼があなたを殺さなかったら。 あの人があと少し早く着いていたら。 それだけで、いったい世界はどれだけ変わる…? ジャンはガンマ団本部に併設されている病院に入院させられていた。 「ヒマだ…。」 広い病室にひとりきり。 気を失ったサービスを敵兵から庇い負傷したということになっているジャンには、手厚い看護がなされていた。 幹部(むしろ青の一族)専用の病室を与えられたのもそのひとつだ。 表向きは。 病室の扉の前には、ジャンの世話を命じられた男が二人。 つまり体よく監視されているのだ。 人伝に、ルーザーが出した条件だとジャンは聞いていた。 (どうするか…。) 一度口にされた言葉は戻らない。 ジャンが赤い秘石側の人間だと言われた以上、そしてバレたことを聞いてしまった以上、このままでいる訳にはいかなかった。 番人としてなにをなすべきか。 いくら望んだとしても、このままでいるわけにはいかないだろう。 (ごめんなさい…。) 潮時だった。 「ああ、クニに帰ろうと思う。」 「そうですか…淋しくなりますね。それで、サービスにはもう伝えたんですか?」 「うん。…なあ高松。」 「なんですか?」 「頼みたいことがあるんだ。」 総帥執務室。 ジャンは窓辺に立ちその向こうを見つめた。 外には海が見えた。 「待たせたね。」 扉の開く音と声にジャンは振り向いた。 「もう怪我はいいのかい?」 「はい。」 マジックの言葉に頷き、ジャンは彼へ近づいた。 手に隠し持つのは銀色に輝くナイフ。 ジャンは右手にそれを握り締めたまま、マジックの首に左手を回した。 肩に顔を埋め、抱きしめる。 マジックはジャンの髪を撫でた。 ジャンが右の手を振り上げる。 ハラリ マジックの金色の髪の毛が、ジャンの手に落ちた。 「抵抗しないんですね。」 ジャンは顔を歪ませた。 「しないよ。君だってしなかっただろう。」 マジックはジャンの髪に口付けを落とした。 ジャンの手からナイフが落ちる。 「…明日、ここを出ます。」 静かにジャンは告げた。 「そうか…。」 マジックは静かに応えた。 スルリとジャンはマジックの身体から離れ、ドアへ向かった。 「…除隊願いはテーブルの上に。」 頭を下げ、ジャンはマジックの前から、消えた。 ガンマ団を出る日。 南国の島に帰る日。 高松に送られ、着いた空港で、次男がジャンを待ち構えていた。 「ルーザー様…?」 無意識に身構える。 邪気のない笑顔で彼は笑った。 「やあ。」 旧友の様に彼は近づく。 「きみがガンマ団を出ると聞いてね。」 ルーザーの手がジャンの首に掛った。力が込められる。 苦しい、と。ジャンは眉を顰めた。 「抵抗しないのかい?」 ルーザーは不思議そうに首を傾げた。 答えようにも気管を絞められ、ジャンには声さえ出せなかった。 それに気づいたのかルーザーの手が弛まる。 ヒュッと喉が鳴り、ジャンの身体は肺に空気を送り込もうと咳き込んだ。 周りから視線が集まり、そして消えた。 「それで何故だい?」 幼子がする純粋な瞳に見られ、ジャンは迷った。 ジャンは一瞬躊躇った。理由を告げるべきか、否か。 「決めていたんです。」 ジャンはルーザーの青い瞳を見返した。 「貴方たちが、貴方たちの誰かが、オレを殺すというなら、受け入れようと決めていました。」 「どうして?」 なんて馬鹿げたことを告げようとしているのか。 アホらしい。 「貴方の兄を、愛してしまったので。」 本当にアホらしい。バカらしい。 それでも真実だった。 (救いようがないなぁ) ルーザーの瞳が面白そうに笑った。 「ああそれで。やけにきみを庇うと思ったら、兄さんはきみにた誑かされていたわけだ。」 「マジック様はオレの正体を知っていました。」 ルーザーの瞳が冷えた。 しかし逃げようとも、抵抗しようとも、思わなかった。 ルーザーの手が動く。 「抵抗しないのかい?この間のように都合良く、兄は助けにこないよ。」 嘲笑うルーザーにジャンは静かに答えた。 「構いません。それに、どちらにしろ死ぬんです。」 「死ぬの?」 「そりゃ。貴方だって、もし敵に潜入させたスパイが、敵の親玉に恋をして、そして正体をばらされ、逃げ戻ってきたとしたら、そのスパイを殺すでしょ?俺は出来損ないですから壊されますよ。だったら、愛する青の手に掛って死ぬのもいい。」 「ボクのことも好きなんだ。」 「はい。」 フッとルーザーの目が変わった。 「やめた。きみの思い通りになるのは嫌だからね。」 スッとルーザーの気配が離れる。 遠ざかるルーザーの背中を見ながら、ジャンは無意識に息を吐いた。 誰もいないルーザーの研究室に高松とハーレムはいた。 気配を殺し棚や机を漁る。 しかし一向に見付かる気配がない。 じりじりと時間だけが過ぎ、それに比例するように高松は焦れた。 「あーもうっさっさと見つけてくださいよハーレムっ!!」 「無茶言うんじゃねぇよ。」 「アンタのお兄さんでしょ?!大切な物を隠す場所の一つや二つ分からないんですかっ?」 「あのなぁ。オレはあんまりルーザー兄貴には関わりたく…。」 小声で言い合っていた二人は、表に近づく気配に動きを止めた。 「…ハーレム。」 「ああ…。」 二人は奥の部屋に身を潜める。 同時に、誰かが部屋に入ってきた。 ルーザーのものとも違う気配をハーレムは訝しんだ。 この部屋には限られた人物しか出入り出来ないはずだ。 「だれかいるのかい?」 侵入者が喋る。 その聞き覚えのある声に二人は顔を見合わせた。 「総帥…?」 「兄貴?」 慌てて顔を出した二人の姿にマジックも驚く。 「ハーレムに高松…?こんなところでなにをしているんだい?」 「そりゃこっちの科白だよ。兄貴こそンなとこに何の用だよ。」 「私は少し探し物を見付けにきたんだよ。…君たちは?」 答えられない二人にマジックは苦笑した。 「ジャンに頼まれたのかな?高松。」 高松の表情は変わらず、しかしハーレムが一瞬を顔色を変えた。 マジックが笑う。 「相棒はもっとポーカーフェイスが上手な者にするものだよ。」 ハーレムを小突く高松にまた笑う。 「それで探し物はあったかな。」 「…写しは見つけたんだけどよ。」 「マスターディスクがあるはずなんですが、それが見付からなくて。」 「フム…。」 マジックは少し考えるとルーザーの机に近づいた。 「ハーレム、この一番下の引き出しを抜いてくれ。」 「あ、ああ…。」 乱雑に書類が入れられたスチールの抽斗を引き抜く。 その下に現れたのは変哲もない底。 「兄貴?」 マジックは屈み込むとその底に触れた。 四隅をコンコンと軽く叩く。 最後に慎重に中心を叩くと、底の真ん中に横に切目が出来た。 「なんじゃこりゃ。」 「からくり小部屋ですか…?」 手前に底だった板を引き、その下から二枚のMOを取り出した。 「昔からルーザーの隠し場所はここだったからね。」 中を確認してくれとマジックはそれを高松に渡す。 マジックは底を元に戻すと、抽出を戻した。 「よく知ってんな、兄貴。」 「私はお兄ちゃんだよ?」 マジックは笑むと背後から高松のパソコンを覗き込んだ。 ディスプレイにはグラフや数式が並んでいた。 「ソレで間違いないかな?」 「はい。確かに。」 高松はMOを抜き、マジックに渡す。 「んでなんなんだよそれは。」 「ジャンの身体データですよ。」 「はあ?なんでそんなもん。」 「仕方ないでしょ、全部処分してくれって頼まれたんですから。」 「それにしたってんなもん……。」 バンッと爆発音がした。 驚いて、二人が反射的に後ろを見ると、マジックが器用に眼魔砲でマスターデータとコピーデータを破壊していた。 マジックの表情は見えない。 「コレはね、人魚の肉なんだそうだ。」 「ニンギョぉ?」 「知ってるかい。日本では人魚の肉を食べると永遠の若さを手に入れられるそうだよ。」 マジックは笑って部屋を出た。 残された二人は顔を見合わせた。 ぼんやりとジャンは空を見上げた。 ぼんやりと、青い空と燃えるような夕焼けを見た。 (ジャン。) 赤い秘石がジャンを呼んだ。 ジャンは立ち上げると祠へと戻った。 ジャンは秘石の前に笑顔で立つ。 (元気がありませんね、ジャン。) 「そうですか?元気ですよ、オレ。」 (そうですか…?) 「はい。」 明るい声でジャンは答えた。 (ジャン…それでもあなたはあの者たちが好きなのでしょう?) ジャンは一瞬驚き、そして穏やかな顔をした。 「いいえ。オレはあなたに、まだ存在することを許されただけで十分です。これ以上望んだらバチが当たりますよ。」 (そうですか…。ああそうだ。ジャン、カムイにコレを渡してきて貰えますか?) チクンと痛かった。 なにもなかったかのように言うと、ジャンの前の何もない空間に光る球体を出現させた。 ジャンが両手を差し出すとその球はゆっくりジャンの手の平におさまった。 「羽織…?」 光の中から現れたのは赤い羽織。 (ちゃんちゃんこです。還暦おめでとうございます、と伝えてください。) 「はあ、わかりました。」 ジャンはカムイの所へ向かう。 (………どう、しましょうね。) 己のみとなった祠で赤い秘石は呟いた。 (行かせてあげたいのですが…。) 子を思う親は悩む。あんな我が子を見るのは初めてだった。 その時秘石は微かな波動を感じた。 それは悪い予言だった。 (………青の番人…ですか…。) 運命がまた一つ動いた瞬間だった。 「只今帰りました。」 (ジャン…話があります。) 青の一族を、このままにしておくことはできなかった。 「ハァ……。」 「他人が楽しくお茶をしているときに、ため息なんて吐かないでくださいよ。」 「今頃ジャンは何をしているかナ…。」 「聞いてませんね?サービス。」 サービスの私室に高松とサービスは居た。 ジャンが故郷に帰ってから二週間。ずっとこの調子だった。 「ハァ…。」 再度息を吐くサービスに、高松は諌めようかと口を開きかけた。 その時、ガタンと窓からその下を眺めていたサービスがイスを立った。 「どうかしましたか?」 窓の外から見えるのはガンマ団の正門。 いくばかの団員らしき人間が、米粒以下の大きさで確認できた。 特になにがあるわけでもない日常の風景だった。 しかしサービスはじっと下を睨みつけ、そして高松の服の襟の後ろを掴むと走り出した。 「ちょ、ちょっと待ってくださいサービス!って言うか首が…っ!!」 「帰って来たっ。」 己を引きずって走るサービスに、ああやっぱり青の一族なんだな、と薄れゆく意識の中で高松は考えた。 ヤツラはいつだってやりたい放題だ。 「サービスっっいい加減ほんと死にますから手を放してくださいっ!!」 高松の願いは聞き入れられなかった。 「ジャンっ!!」 パッと表情を代えたサービスがロビーをとことこ歩いていたジャンに飛び付いた。 「さ、さーびすぅ?!」 目をパチクリさせるジャンは、驚いたのか反応が遅れた。そのままサービスの腕の中に納まる。 なすがまま、ジャンは苦笑したままサービスの好きにさせていた。 「………なにしてんですか、アンタ、こんなところで。」 呆然と呟く高松を見上げ、ようと片手を挙げた。 「もう戻らないんじゃなかったんですか?」 「いろいろあったんだよ、こっちも。」 いやもう、ほんとにいろいろと、ジャンはおどけた。 「…それよりアンタ、背、縮みました?」 「あーそれは…。」 突然サービスはジャンから少し体を離すと、ジャンの胸を見下ろした。 「………サービスーぅ?」 そのまま固まってしまった親友に、ジャンは恐る恐る声をかけた。 ほんの少し、拒絶されるかと恐怖を持って。 サービスはしばらくジャンの胸を見つめると、…先程高松にしたのと同じ様にジャンの首根っ を持って走り出した。 「サ、サービスっ苦し……っ!!」 「兄さんに自慢しないとネ☆」 暴走気味な親友に、高松はため息を吐くと、二人の後を追うために走り出した。 「たすけて高松っ。」 「無理ですよ。」 口元には笑み。 ジャンが戻って来たことを、彼も嬉しく思っていた。 「タイクツですね、兄さん。」 マジックの執務室でルーザーは不平不満を漏らしていた。 「サービスは落ち込んでいるし、高松でも遊び難いですし。つまらなくありません?」 我が侭な弟の言い分にマジックは苦笑した。 「てーか自業自得だろ、ルーザー兄貴…。」 「なんだいハーレム。」 ボソリと呟いた言葉はもののみごとに聞き咎められ、ハーレムは冷汗をかいた。 「だ、だってサービスが気落ちしてんのはルーザー兄貴の所為だろっ。」 ジャンが居なくなる原因を作ったのは実質的にルーザーだった。 ルーザーが赤の一族の名を出さなければジャンが居なくなる理由はなかったのだ。 暗に非難するハーレムにルーザーは窓の方へ目をやった。 「仕方ないじゃないか、解らなかったんだから。」 穏やかな表情。 しかしその瞳の奥に微かな後悔の色を見つけ、ハーレムは戸惑った。 「しなければ良かったと思ったところで、今更どうなることでもないだろう?まったくそんなこともわからないなんてハーレムは馬鹿だなあ。」 「なっ!!」 思わず食って掛ろうと椅子から立ち上がったハーレムは、廊下が騒がしいのに気が付いた。 「なんだぁ?」 『サービス、そろそろ本気で死にますよ、ソレ。』 『兄さんいるかなっ☆』 扉の向こうから聞こえくるのは、やけに明るい弟と悪友高松の声。 「なんかあったのか?」 問いかけるハーレムにルーザーも首を傾げた。 様子を見るか、とハーレムが近付いた瞬間、扉は開け放たれた。 「マジック兄さんっいいもの見せてあげますっ!!」 末弟に名指しされたマジックは苦笑しつつ首を傾げ問いかけた。ついでに秘書に煎れさせたコーヒーに手を伸ばす。 「ほら、出てきなヨ☆」 サービスの視線を追い、全員の視線が扉へと注がれる。 集まる視線を感じ、嘆息するとゆっくり部屋へと足を向けた。 息を飲む音がする。 サービスは皆のその反応に満足そうに頷き、前に引っ張り出した。 「ほら自己紹介でもしナ☆」 「えーと…。」 ジャンの姿に、ハーレムは固まり、マジックはコーヒーカップを落とし、ルーザーは腹を抱えて笑いだした。 ジャンはサービスを見上げ、それからマジックの方を向いた。 己を凝視する彼に居た堪れなさを感じ、出来得る限りの明るい声を出した。 「マジック様〜。オレ、女の子になっちゃいました〜。」 「………そ、そうなのかい。可愛いね……。」 乾いたマジックの声がジャンの耳に届く。 ジャンはそれが不快からでは無い事を知ると安心して苦笑した。 「また、ココに居てもいいですか?」 マジックは立ち上がり、ジャンの目の前へ駆け寄る。 そしてジャンの手を取り、その甲にキスを落とした。 「もちろんだとも。ああ、夢のようだよ、キミにもう一度会えるなんて。」 「夢じゃありませんよ。」 「ああ。」 ひしと抱き締め、己を離さない想い人に苦笑し、ジャンは口を開いた。 ああもう、みんな見ているっていうのに。 「ただいま、マジック様。」 「おかえり、ジャン。」 再会の後は、甘い口付けだった。 これは優しい仮定の、ある一つの話。 そしてここから新しい未来も始まる。 そしてそれも、きっととても優しいのだ。 |