マジックは、ベッドの端に腰掛けるジャンに近づいた。
 マジックの手には白い錠剤が乗せられていた。
「口を開けて。」
 首を傾げ、ジャンは大きく口を開いた。
 口に放り込まれた錠剤を噛み砕き、飲み込み、ジャンは訊ねた。
「なんですか、これ。」
 マジックは薄く笑ってそれに答えた。
「劇薬。」
「え?」
「と言ったらどうする?」
 にっこりと、 試すように、 微笑むマジックに、ジャンは困った様に頭を掻いた。
「どう……と言われましても。もう飲んでしまいましたし。」
「なら、どうして口を開いたんだい?私が君に害をなさないとは限らないのに。」
「総帥の命令は絶対です。その命令が例え、己の死を意味していても、従うのが団員の勤めです。」
 ジャンは微かに口に残った甘味に、内心眉を潜めた。
 安っぽいラムネの味。
「模範的な回答だ。」
 トンッと、マジックはジャンの肩を押した。
 ジャンは抗う気もなくそのままベッドに倒れこんだ。
「本当はそれ、媚薬なんだよ。」
 マジックは、片手でジャンの肩を押えながら悪戯っぽく笑った。
「媚薬、ですか?」
フッと、マジックの思考を読んでいたジャンは、苛立つ彼に笑みを押えられなかった。
「そうだよ。ほら、効いてきたんじゃないかい?」
 ジャンはくっくすと笑い声を押え損ねた。
「そうですね……。なんだか身体が熱くなってきました。」
 笑いながらジャンは答えた。
 互いにウソだと分かっているラムネに、偽薬効果は期待できない。
 ウソだらけだ。
 いつもより幾分乱暴に外されるボタンにジャンは大声で笑いたくなった。
 ウソだらけだ。
 誰も、彼も、この空間も。
 この感情すらも。

 救い様がない。