ムーンストーン


「参ったなあ」
腕を組み廊下を歩きながらブツクサ呟く。視線は下。そしてドンっとお約束にも誰かとぶつかった。
「ああ、わりぃ……ってハーレムか。なにやってんだ? マジック様に見付かったらまたぶちぶち言われるぞ?」
「ブチブチ言ってたのはテメーだろうがよ。廊下の真ん中歩きながらデッケー独り言言いやがって。気味ワリィ」
「ヒッデー」
笑顔で流すジャンに舌打ちをして、ハーレムは頭を掻いた。
イヤそうな顔をしながら口を開く。
「で、兄貴がなにしでかしたんだ?」
「そこで迷わずマジック様の名前をだすってのもひどいんじゃないか?」
「話し逸らしてんじゃねえよテメー」
「えーーー」
ちらちらと周りから向けられる視線が気になるのか、ハーレムはギロリと周囲を威嚇しジャンに背を向けた。
「行くぞ」
「はーい」





ハーレムの隠れ家に酒を持ちこみ二人で呑む。
「ネジ飛んでんじゃねーか?」
「なー? おまえだってそう思うだろー?」
「つーかテメーもいちいち律儀に三度とも頷いてんじゃねえよ」
「えー。いやだってそれは、なんか可愛かったし?」
「やめろ、鳥肌立つだろ!!」
「えーーっ!? ちっちゃいマジック様は可愛かったぞ〜〜」
からかう様にけらけら笑い、ジャンは一口チョコに手を伸ばした。
「自分が結婚結婚言う前に、弟と息子たちの心配してやれよなー」
「オレは結婚する気なんてねえぞ」
「ハーレムの息子かぁ。ロッドみたいなアラシヤマができそー」
「意味わかんねえ。つけテメー呑みすぎだっつー。ワイン一杯で酔える奴がブランデーの瓶抱えてんじゃねえ」
「明るくて無邪気で殺しが上手な子〜。そんでワガママで自己中で他人なんていらないくせに家族が大好きなんだよ〜〜。絶対可愛い。ハーレム子供作れよー」
「テメー酔ってんな?」
「酔ってねーよ。グラス返せよー」
赤くなった顔に潤んだ瞳、ソファーからずるずると床に落ちそのままテーブルに懐く。
ハーレムはジャンの手から奪ったグラスを呷った。
「なあ、一度聞いときたかったんだけどよお。オマエ、サービースと兄貴、どっちが好きなんだ」
「うぁー? どっちもー? 二人とも好きよー。愛してるぜー?」
「んなことは知ってんだ。どっちの方が好きなんだ」
真剣なハーレムの顔にジャンは身体を起こし肩を竦めた。そのままソファーに倒れ込む。
「じゃあー? はーれむはー、特戦のヤツラとサービス、どっちが好きよー?」
「はあ? んなもん後者だろ」
「……オマエ仕え甲斐がないなあ。んー、じゃあ、サービスと高松はー?」
ハーレムは触れられたくない傷を見られたかのように顔をしかめる。
「……サービス」
「そーゆーかんじ、くらべらんねーの、オレにとって。どっちも大切だしぃ? でも好きのベクトルは違うんだよ。だからどっちも」
「テメェ。人の話し聞けよ。サービスだってんだろっ!」
「たかまつのことすきなくせにー」
「ブン殴んぞ」
「ぎゃーぼーりょーくはんたーい」
拳を振り上げるハーレムから逃げるまねをして、ジャンはソファーに抱きつき、クッションを枕の替わりに引き寄せた。
「寝ても運ばねーぞ」
「んー……」
本格的にうとうとし始めたジャンを横目で見つつ、ハーレムは安いワインのコルクを抜く。
「オマエさ、兄貴の事好きなんだよな?」
「すき……だよ? 生まれたばっかりのまじっくを、……びょーいんではじめてみたとき……真っ青な二つの眼が、おれをつかまえたん……だ…………」
スースーと寝息を立て始めるジャンに
「テメェの一目惚れかよオイ」
ハーレムは真顔で突っ込んだ。



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10月21日の誕生石は「ムーンストーン」
石言葉は「純粋な愛」
赤子に一目惚れのジャン。ダメ番人。