八面体結晶のダイヤモンド

※ハーレムも士官学校に行ったという設定です。








(なーんでこんなことになってんのかなぁ)
監視付きの部屋にポツリと置かれた机に向かい、渡された○×式の心理テストに答えていく。
とにかく今回のこれで問題が出なければ、少なくともこの部屋からは出られると、ジャンは大人しく質問に向かった。
(それにしても)
サラサラと300問近い問題に答えながらぼんやり考える。
(赤の一族が見つかったって、一族に報告してないみたいだけどいいのかなぁ。本家だけで処理したらまた軋轢ひどくなるんじゃないのか?)
血液検査で発見され、殺されかけたのが一ヵ月前。
それからガンマ団本部のこの部屋に軟禁され27日目。
様子を見に来る人々からの話しや考えを読むことで得た情報から、内々に処理しようと工作する者の意志を感じていた。
事を知っている人が少なすぎるのだ。
なんせ部屋のなかにいる二人の監視員も、ドアの外に立つ二人も、何故ジャンが軟禁されているのか本当の理由を知らない。
どうやら誰かが故意に間違った情報を与えたようだった。ここでのジャンはルーザーの実験に協力する被験者だ。
(あとでマジックさんに謝らないとな)
手を回しているであろう友人に心の中で頭を下げ、ジャンは小さく息を吐き、最後の問いに丸を付けた。



「退室の許可が出ました。監視員の方々もこれでこの仕事は終わりです。御苦労様でした」
事務的に話す高松の言葉に伸びをする。
監視に就いていた四人の姿が見えなくなってから、ジャンは高松に向き直った。
「怒ってる?」
「……最後まで、殺すかどうか議論されてたようですよ」
「そっか」
「総帥が部屋で待ってますから、はやく行ってきなさい」
「お前は一緒に行かないのか?」
尋ねるジャンに答えず高松は追い払う仕草をした。
「いいからとっとと行ってきなさい。私は今日はもう帰るんですから」
「はーい」
ジャンはよい子のお返事をすると廊下へ出た。
そして壁に寄りかかる人を見て動きが止まる。
「ハーレム……」
目を大きく開き立ち尽くすジャンにハーレムは舌打ちをし背を向け歩き出した。
「ちょ、ちょっと待てよっっ」
慌ててジャンは追いかけハーレムの横に並んだ。
表情を確かめながら恐る恐る口を開く。
「怒ってるか……?」
「別に」
「いいや怒ってるって」
「怒ってねーってんだろ」
小声で遣り取りながら総帥室の扉を開ける。
「連れて来たぞ兄貴」
総帥室ではマジック待ち受けていた。
「ごくろうさま、ハーレム。じゃあ外で待っていてね」
態と聞こえる様に大きくチッと舌打ちすると乱暴に扉を閉め部屋を出て行った。
「少しそこに座って待っていてくれるかな? いまお茶をいれてくるから」
一人掛けのソファーを勧めるマジックにジャンは焦った。
「えっ 俺が煎れますよっ」
「いいから、君は座っていて」
部屋の隅においてある電気ポットから茶葉を入れたポットにお湯を注ぎカップに紅茶を注ぐ。
「ルーザーが、精神面で問題はないと認めたよ。私への忠誠心も申し分ないと」
「そう、ですか」
カップをジャンと自分の前に起きジャンの向いのソファーにマジックは座る。
「それでね、でも君をこのまま団に戻すわけには行かないとルーザーが主張してね」
「はあ」
「結論から先に言おう。君に監視をつけることになった」
「監視、ですか」
「ああ。これから先監視が解けるまで、君は特別な事情のない限りその人と一緒に行動してもらうことになる。勿論、君がここに残りたいと主張するならだけど」
どうする?と訊ねるマジックにほんの少し眉間に皺を寄せて困ったというポーズを取りながらもジャンの心は初めから決まっていた。
「俺はここにいたいです」
「いいのかい」
「マジックさんこそいいんですか? ……すみません。色々無理させちゃったみたいで」
「私がしたくてしたことさ。君が気にすることじゃない」
「でも、俺のことを庇ってるじゃないですか」
「ジャン。友人が窮地に陥っていたんだ。全力を尽してそれを助けるのが友達だろう? 違うかい?」
「俺、友達いなかったんで、そういうのよくわからないんですよね」
「私もさ。私も君が初めての友達だからね」
照れた様に頬を掻くジャンににっこり笑う。
そしてふっと真面目な顔をした。
「それで君の監視だけれど」
「はい」
「サービスが担当する事になると思うから」
「サービスがっ!? なんでまた」
驚くジャンに一つ頷き先を続ける。
「もしも、君がガンマ団に刃向かおうとしたとする。その時監視は邪魔だろう? 監視人がただの人間だったら、君は簡単にここから逃げ出し身を潜め機会を窺がう事もできる。でも相手が青なら力の差があまりないので、君のここを無傷で逃げ出す事はできないだろうとルーザーが言ってね。君に青の一族のうち誰かをつける事になった」
「だからってどうしてサービスが」
「あの子が自分で志願したんだよ」
「え」
「正確にはサービスだけじゃなくてハーレムもね。独断でサービスにさせてもらったけれど……ハーレムのほうがよかったかい?」
ジャンはゆっくりと首を振った。
「いいえ。たぶん、それでいいと思います」
「ならよかった。まあ、とは言っても、ハーレムと二人っきりでいても何ら問題はないよ。それから、君が察している通り、君の事を分家の連中に言うつもりはない」
「いいんですか?」
「いいんだよ」
マジックはちらりと壁に掛けられた時計に視線を走らせた。
「ああ。長々と引き止めてしまって悪かったね。部屋の外でハーレムが待っているはずだからはやく行ってあげるといい」
「あ、はい」
ジャンは立ち上がり扉に向うと、退室する直前にくるりとマジックに向き直った。
「ありがとうございました」
深く礼をするジャンにマジックはにっこり一つ頷いた。



「聞いたのか」
「あ、ああ」
それだけ聞くとハーレムはまたジャンに構わず歩き出した。
「だから待てって。どこ行くんだよ?」
「高松んちだと」
「ああ、さっき家に帰るって言ってたっけ。っておいハーレム、なに怒ってんだよ」
立ち止まりハーレムはジャンを睨み付けた。
「高松んち着いたらたっぷり色々教えてもらうからな」
「はは、お手柔らかに」
ドスの聞いた声で言われ、ジャンは冷汗掻きながら、引きつった笑みを浮かべた。



−−−−−
10月22日の誕生石は「八面体結晶のダイヤモンド」
石言葉は「ラッキーな未来」
パラレル万歳。