キャッツアイ |
いちらんせいそうせいじ【一卵性双生児】 一個の受精卵から生じた双生児。遺伝因子が同一のため同性で、顔つきなど諸形質が酷似。同形双生児。 《似ていませんね》 生み出されたばかりの二人の番人を目の前にして拗ねるように赤い秘石は言った。 《そりゃそうだろう。青と赤の番人が似ていたら混乱する》 《でも二人を造っている情報はほとんど同じモノなのに!》 納得できないのか赤い秘石は青い秘石に噛み付いた。 青い秘石は付き合ってられないと溜息をついた。 小さな赤い秘石の番人は黒髪に黒い瞳。 小さな青い秘石の番人は銀髪に青い瞳。 片方は状況を理解していない顔でにこにこと笑い、片方は真面目な顔で真っ直ぐ青い秘石を見ていた。 《名前はどうする》 《それは決めています。私の番人がジャン。あなたの番人がアス。いい名前でしょう?》 《JANUS(ヤヌス)か……》 反論しないことを了承と取った赤い秘石がジャンを呼ぶ。 《いいですか。今日からおまえの名前はジャンです。赤の番人としての働きに期待していますよ》 「はい!」 にっこりと誇らしげに赤い秘石の番人は答えた。 《それでは最初の仕事です。島々に異常がないか見回って来て下さい》 「はいっ!」 子供は力いっぱい頷くと、隣に立つ同じ大きさの子供の手を取った。 「いっしょにいこう?」 小さな青の番人は青い秘石の方を見た。秘石が頷くと、赤の番人の顔を見つめ、小さくコクンと頷いた。 《やっぱり可愛いですね。これから大きくなったらもっと可愛くなりますよ》 祠を出る二つの背を見守りながら楽しそうにはしゃぐ赤い秘石と対照的に青い秘石の態度は落ちついている。 《成長するのか、あれは》 《ええ! 新陳代謝と体力が一番高い時期に成長を止めるつもりです!》 善いことをしている自信に満ちた赤い秘石の言葉に、青い秘石は答えず一つ息を吐いた。 「あれがちょうちょ!」 「モンシロチョウだ」 「じゃあ、あのとんでるのは?」 「……おおワシ」 「あすものしり〜っ!!」 手を繋いだ相手が指差すものの名前を一つずつ正確に答えていくアスは、どうしてジャンがこんなことも分からないのか不思議だった。 知識は意識せずとも秘石から流れこんできた。だからアスにはきょろきょろと物珍しそうに辺りを見まわすジャンの気持ちが理解できなかった。 「あっ!! おはなばたけーーっ!!」 「はしるな」 前方に花の密生地を発見したジャンに引き摺られる。 「あす、すわって。かんむりつくってあげるから」 「かんむり?」 「しろつめぐさでつくるんだよ?」 言いながらジャンはたんぽぽを手に取る。 「……シロツメグサはこれだ」 白いポンポンが先に付いた花を渡し、アスはジャンの前に座った。 「あのね、こーやって、ここをこうしていっぱいつなげるとかんむりができるの!」 アスに手渡されたシロツメグサをたんぽぽの茎に絡ませる。 「たくさんいるのか?」 「うーんとね、これくらい?」 両手を差し出すジャンに頷きアスは立ち上がる。 「つんできてやる。そうすればおまえはかんむりづくりにしゅうちゅうできるだろう」 「うんっ!! ありがとうあす!!」 にっこりと笑ったジャンの笑顔に頬を赤くし、アスはシロツメグサを摘み始めた。 「できたっ!!」 元気よくジャンは立ち上がり、正座をしてジャンの動きを見ていたアスの正面に立った。 「はいどーぞっ!」 ジャンはアスの頭の上にシロツメグサの王冠を載せる。一本だけタンポポの黄色の交じった不恰好な王冠。 「あす、おうじさまみたい」 頭の上の王冠を手で触り、目の前の明るい楽しそうな顔を見て、アスは口を開けた。 「おれがおうじさまならおまえはおひめさまだな」 「おひめさま?」 「ああ。おうじはひめといつもいっしょにいるんだ」 「じゃあぼくたちもずっといっしょにいられるっ?」 意気込み尋ねるジャンにアスは一つ頷いた。 「ああ。ずっといっしょだ」 「やったあ! やくそくだよあす!!」 小指を差し出すジャンにアスも小指を出し、二人で指切りをした。 「結果オーライかな」 花に埋もれる様に寝転がっていたジャンがポツリと言った。 「なにを言っているんですか」 「約束。ずっと一緒にいてくれるって約束しただろ?」 ごろりと転がり身体一つ分開いていたアスとの距離を詰める。 「ああ。あなたがよく覚えていましたね」 「あんだよー。記憶力はいいんだぜ!」 座った場所からジャンの顔を見下げくっくっと笑うアスにジャンは口を尖らせる。 「ちぇ。どーせオレは物覚えが悪いですよー」 「素直に馬鹿だと言ったらどうなんですか」 揶揄するアスを拗ねた顔で睨み、地に付けたアスの腕を引いた。 アスの身体が傾ぎジャンの上に倒れ込む。 「何をするっ」 「アスっ」 ジャンはアスの身体を抱き締める。 「また味方同士になったんだ。ずっと一緒にいてくれるんだよな? 王子様」 長い間敵同士だった相手の恐がりな問いに、アスは溜息を吐き髪を掻き上げた。 「姫が望むならば」 その言葉にジャンはふわふわ笑い、耐え切れなかったアスにいくつもキスをされる羽目になった。 −−−−− 10月29日の誕生石は「キャッツアイ」 石言葉は「心変わり」 これっぽっちも石言葉関係ありませんがな。 |