ピンファイアー・オパール |
ガンマ団本部上層階の廊下を歩く小さな影が二つ、手を繋いで歩いていた。 「たんけんったんけんったのしいなー」 弾むように歩きながら歌う黒髪の幼児とそれに手を引かれて歩く銀髪の幼児。 「ねーあす? どーしてこんなにたかいのに、ここはかぜがないのー?」 「ここはたてもののなかだからだ」 「たてものー?」 「おおきいいえだ」 「ふーん?」 首を傾げながら小さなジャンは歩く。 角を曲がって階段昇って探検隊。きょろきょろ見回し前方不注意。廊下で人とぶつかった。 「きゃっ」 「ああっ大丈夫かいっっ!?」 焦った大人の声の持ち主がジャンを抱き起こす。 「えへへ。だいじょーぶよ」 はにかむジャンを背後に隠す様に、目つきを鋭くしたアスが一歩前に出る。 その様子にマジックは苦笑する。 「ごめんねジャンくん。怪我はないかい?」 「へーきよ。あのね、たんけんしてるの」 「そうかい。気をつけてね。おやつの時間までには帰るんだよ」 「はーい。あすー、いこう?」 元気に返事をするジャンと小さく頷くアスの姿が見えなくなってから、マジックは小さく息を吐き高松の研究室へと向った。 「一体何時になったら彼らを元に戻す薬ができるというんだい」 「だからいまやっているでしょう! 朝から一体何回その質問に答えりゃいいんですかっ」 「君が早く作らないからだろう高松くんっ」 高松はマジックをじろりと睨み付けると手に持ったフラスコに視線を戻した。 「誠心誠意努力してますよ。でもあれはまだ実験としては初期段階のものだったんです。それをあの馬鹿どもがっっ」 事の起こりは三日前。早朝研究室で爆発が起こった。 何事かと駆け付けたグンマ、キンタロー、高松の目の前に、見覚えのない子供が二人。そして研究室に居残り残業をしているはずのジャンが消えていた。 そして床に散らばる砕けた試験管と幼子が自ら名乗った名前。ジャンとアス。 「まったく。何をどうしたら薬品を頭から被るなんてことになるって言うんですかっっ!科学者失格ですよあの馬鹿がっ!!」 苛立った口調で高松は吐き捨てた。荒い口調はジャンを心配しているが故。実験途中の液体は、何が起こるのか、理論が確立いていない部分が多かった。 幸い実験データは詳細に残してあったので、ジャンとアスが被ったであろう液体をもう一度作り直している所なのだ。 「君は、アスはあのアスだと思うかい?」 「……血液検査の結果では疑う余地はありませんでしたね」 「どうして青の番人がここに……」 「わかりませんよ。そんなことこ。本人たちがなにも覚えちゃいないんですから」 高松は知らず唇を噛む。 「兎に角、まだしばらく時間が掛かります」 「……元に戻せるのかい?」 「戻します」 高松は言い切り、棚から薬瓶を取り出した。 廊下の端に壁に背をつけ座りこみ、ジャンが隣に座るアスに言った。 「あのねーあす? ここね、つまんない」 「どうした」 「だって、おはなばたけないし、ちょうちょもとんぼもことりさんもいないよー?」 「あしたグンマがどうぶつえんにつれていってくれるといっていただろう」 「どーぶつえんにおともだちいるかなあ」 「どうだろう」 島で一緒に遊んでいた極彩色をした鳥を思い出しジャンは首を傾げた。 ここには鳥も虫もいない。いるのはニンゲンというものだけだった。 「ひせきもいないねー」 「そうだな。さびしいか?」 ジャンは傾げていた首を元に戻しブンブンと振った。 「ううんっあすがいっしょだからさびしくないよっ!!」 「ああ。おれもおまえがいればそれでいい」 にっこり笑うジャンに頷きアスは繋いだ手の力を強くした。 −−−−− 10月30日の誕生石は「ピンファイアー・オパール」 石言葉は「正しい方向性」 CPはアスジャン・ハレサビ・マジ高・キングン・シンアラではないかと思っている。 |