セプタークォーツ |
ある冬の午後。 小さなジャンと小さなアスは居間の暖炉の前で大人しく絵本を読んでいた。 真っ暗な押し入れの中を探検する子供二人の話をジャンが読む。 アスはそれに頷いたり、一緒に絵を指差しながら真剣に物語を読んでいた。 グンマがそれを優しい目で見守る。 パチパチと火のはぜる音とジャンの元気な声だけが部屋に響いていた。 とても静かな午後だった。 「あ、やけに静かだと思ったら」 「ん? どうしたのぐんちゃん?」 「ジャンちゃん、アスちゃん。雪が降ってきたよ」 「ゆき?」 ジャンは絵本を閉じパタパタとグンマの座るソファーに駆け寄る。 「うん。ほら、外を見てごらん!」 「なーに? あれ」 「あの白くてふわふわしているのが雪。すっごく冷たくって積ると楽しいんだよ」 「ふーん?」 「お外に行ってみる?」 「うん! いくっ!」 力いっぱい頷くジャンと小さく頷くアスにお揃いの赤いダッフルコートを着せ、青いマフラーを巻き、白い手袋もして外へ出る。 「さむーい!」 はぁぁっと白い息を吐き楽しそうにジャンは笑う。 空から降る雪が二人のコートに落ちる。 ジャンは手袋を片方脱ぐとそれに触れた。 「とけた!」 それから天に手を伸ばし雪を受け止める。 「つめたいっ!」 「積るかな」 「つもる?」 「この庭が雪で一杯になるんだよ」 「んー?」 想像がつかないのか、ジャンは首を傾げたままアスを見た。 「おれもよく、わからない」 「明日の朝になったら分かるよ。さあ、風邪を引かないうちにお家に入ろう!」 「はーい!」 それから二人は勉強中のコタローを襲撃。一緒におやつを食べて遊んで夕食、お風呂に入ってぐっすり眠った。 そして次の日。 辺り一面真っ白に覆われた庭。 「すごーい!」 目をキラキラ輝かせるジャンと無表情ながらわくわくしているのがわかるアス。 「こりゃ今日は仕事にならないな」 「それはサボるための言い訳ではないのか?」 「えっ!? お兄ちゃん仕事お休みするの!?」 バンザーイと手を上げるコタローにグンマも手を合わせる。 「ね、ね! おそと!!」 キンタローの服の袖を引っ張るジャンに溜息。 「仕方がない。いいか、こうなったら徹底的に遊ぶぞ。いいか徹底的にだな」 「みんな、その前に朝ご飯だよ」 「はいっはーい!」 速く食べて一杯遊びたいのか、いつもよりも頑張って朝食を平らげていくコタローとジャンとアスに大人達は苦笑気味。 「ごちそーさまでしたっ! アス! こたちゃんいこうっ!!」 「うん!」 コートとマフラー、手袋。それから長靴をはいて重装備。 子供たちは庭へ駆け出していった。 「つめたーいっ!」 「ねえねえ、雪だるま作ろうよ!」 「ゆきだるま?」 「こうやって雪玉を二つ重ねるんだ。これの大きいのを作ろう!」 「うん! あすもいっしょにつくろ!」 「ああ」 わいわい楽しそうにはしゃぐ子供たちをにやけた顔で見ながらシンタローがキンタローに持ちかけた。 「雪合戦しねえ?」 「……対戦か?」 「当ったり前」 「あ! 僕もまぜてシンちゃん」 「2対1じゃバランス悪いだろ」 「なら私もまぜてもらおうかな」 「親父も?」 「たまには面白いじゃないか。私はキンちゃんと組むからグンちゃんはシンちゃんと一緒ね」 「はーい! おとーさま!」 「げっ。ぜってー負けねえ。おいグンマ、本気で行くぞ」 「うん」 大人達が本気の白熱雪合戦を繰り広げる中、子供たちは必死で体を動かし雪だるま作り。 体がポカポカでコートを脱いでしまおうかという辺りでやっと出来あがった。 頭にバケツを被せて、首にマフラーを巻いて完成。コタローの身長ほどもある大きな雪だるまだ。 「やったー!」 「できたーーっ!」 歓声を上げる子供たちに雪まみれになった大人達も寄ってきて、口々に出来映えを褒め称える。 マジックがお約束のカメラを持ち出し撮影大会。 最後にセルフタイマーをセットして全員で集合。逃げ回るアスをマジックが抱きかかえ七人で写真を撮った。 −−−−− 11月4日の誕生石は「セプタークォーツ」 石言葉は「誕生の喜び」 「しおがいっぱいあるみたーい」「……しお?」というジャンとアスの台詞が入らなかった…… |