ネフライト・キャッツ・アイ


「ちょこーと! すいとー! ばななー!」
「遠足じゃないんだからそんなもの持って行かなくて構いません」
「しゅーくりーむ!」
「腐るから今すぐ食べちゃいなさい」
「はいっ!」
ベッドの上に散らかしたガラクタと斜め掛け鞄を前にして、小さなジャンは悩んでいた。
小さなアスはその隣で大人しく読書。
むぐむぐシュークリームを食べ終えたジャンは、また云々と唸る。
「どれもってこー」
「何も持っていかなくても良いんです。たかだか二日ここを離れるだけでしょう」
「でもこたちゃんのおともだちにあうんだよ?」
「……ひせきもいる」
「どちらにもそこにあるものは必要ないでしょう。さあ早く寝なさい。ジャンはもう一度歯磨き」
「はーい」
「まったく」
ジャンが洗面所へ駆けて行くのをチェックしていた高松の白衣の袖をツンツンとアスが引っ張った。
「きょうはこれがいい」
アスが差し出す絵本を受け取る。
「たまご狂の話ですか? 分かりまし。ジャンが戻ってきたら話しますから先にベッドに入っていなさい」
「はみがいたー」
「ならベッドに入って。明日は朝早いですよ」
「おはなしー!」
「はいはい」
高松はベッドの横の椅子に座ると表紙を捲り物語を語りだした。






すやすやと眠る小さなジャンと小さなアスの姿に、高松はほっと息を吐くと物音を立てないように部屋から出た。
明日、ジャンとアスを連れてパプワ島へ行く。
彼らを元に戻す方法を聞くために。
「やあ、ドクター。残業かい?」
「……いま眠った所ですから、写真を撮るんでしたら起こさない様に注意してください」
「ああ」
カメラとビデオカメラを持つマジックに内心息を吐きつつ高松は注意を促した。
「……明日はマジック様も?」
「ああ。私も一緒に行くよ。最後かもしれないんだからね」
もしかしたら秘石の不思議な力でとんとん拍子に彼らは元の姿に戻るかもしれない。
「もし、戻ったとして。どうするんですか?」
「何がだい?」
「彼を、どうするんですか」
そっとジャンとアスの眠る部屋に二人で入る。
すやすやと穏やかな寝顔。布団の上には繋いだ手。
「どうするんですか」
小さく小さく高松は尋ねた。
彼らが元に戻った時、アスをどうするのかと。
殺すのか、叩き出すのか、ここに残らせるのか。
「案外、ジャンくんと一緒に出ていってしまったりしてね」
「ジャンはここから動きませんよ」
「ふむ。そうか」
二人が同時に寝返りを打ち向かい合う。手は繋がれたまま頬の横。
高松はずれた布団を肩まで掛け直した。
「どうするんですか」
「君はどう思うんだい?」
「……このままなら、共に生活することもできると思います」
「アスが小さいままならということかい」
「ええ。でも彼が元に戻ったら、こうはいかないでしょう。私たちの理性が持つとも限りませんし」
殺すか、生かすか。
彼を許せるか許すべきなのか。その必要があるのか。
「無邪気に眠るね、子供は」
二人の寝顔を見つめ、マジックは感情の読めない顔で笑った。



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