コーラル(珊瑚)


ザーザーと寄せて返す波の音。
見上げればキラキラ光る満天の星々。
「綺麗だね」
その言葉にハアと答えた。
「君はそう思わないのかい?」
「いえ……思いますけど」
「けど?」
面白そうに訊ねてくる男にジャンは少し首を傾げる。
ここに来てからマジックは機嫌がいい。
「あそこには敵わないかなと」
「そりゃあの島にはねえ」
誰もいない南の島。
寄せて返す波の音と回る発電機の音。
閉じた世界に二人きり。
「私が見せれる世界はこれが限界だよ」
「……いえ、綺麗です」
ズボンが砂まみれになるのも気にせず砂浜に座り、二人、天を仰ぐ。
ジャンは腕の力を抜きポンと仰向け。
マジックの顔がジャンに近付き、一つ柔らかなキスをした。
「マジック様?」
「世界に、二人きりになったような気がしないかい?」
この砂浜は丁度沖にある小島に邪魔をされ、対岸の街の灯りも届かない。
そう遠くない所に文明は栄え、そうでないとしてもこの島は鉄壁ともいえる防御システムに守られている。
それなのにここは静かだ。
「錯覚です」
「そうだね」
優しく微笑む人が何を考えているのか、ジャンは考えたくなかった。
「でも、世界に私と君しかいないような気がするんだ」
「随分と少女趣味な妄想ですね」
「ひどいね」
膝を立て、腰の後ろに手を突き星空を見上げるマジック。
迎えの船が来るのは四日後の朝。
「例え二人きりだとしても、オレは……」
「もしも。なんだからいいじゃないか。お遊びさ」
「オレが貴方を選ぶことが?」
「たまには夢ぐらい見せて欲しいものだね」
ジャンはゆっくり目を閉じた。
「オレが貴方を選ぶ。なら貴方はオレを選んでくれますか?」
「ここにいる間は」
ハァーと大袈裟に息を吐き、了承の印に頷いた。
「お遊びなら、付き合いましょう」
「ノリがよくって助かるよ。なに、息抜きのつもりでやって来たんだが、一日目の夜にしてもう飽きてきてしまってね」
「ボケますよ」
「そうかな?」
「好奇心をなくすなんて、ボケる条件みたいなもんじゃないですか」
「ひどいなあ」
クックと笑うマジックをぼんやり見ながら、ジャンは手を伸ばした。
「だからこうやって遊びを持ち掛けたのに」
「……なるほど。随分と刺激的な火遊びをお好みで」
「性分でね。さてジャン。遊んでいる間、マジックと呼んでもらえるかい?」
にこりとされる非常識な提案。
「……イエス、サー」
ジャンは息を吐きながら了承した。
「マジックと」
ジャンが伸ばした手を取り、言い直しを要求する王にゆっくりと目を閉じ。
「ああ、マジック」
マジックは楽しそうに笑み。
ジャンは唇を噛んだ。



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11月7日の誕生石は「コーラル(珊瑚)」
石言葉は「聡明」
大人は色々大変らしい