琥珀


ババババババ
雨が地面を叩く。
滝のような雨に遮られ、1メートル先もよく見えない。
三日目の昼。大雨。
昼食を食べればする事も無く、マジックはソファーに座り居間で雨音を聞きながらぼんやり微睡んでいた。
ジャンはテーブルに向かい工作。昨日拾ったピンク色の光沢のある貝殻の欠片に穴を空け、首飾りを作っていた。
穴に皮ひもを通し完成。
トンっと物の落ちる音にジャンが振り返る。
マジックの手から滑り落ちた本が床に転がっていた。
ジャンは立ち上がりハードカバーの本をテーブルに置くと、首飾りを手に取った。
マジックの首の後ろに手を回し、ひもを軽く結ぶ。
「……なんだい?」
「昨日のお返しです」
首に掛かる物を手に取り、ああとマジックは口を開いた。
「ハイビスカスかい?」
「はい。恋人らしいでしょう?」
くすくす。距離感を掴んだのか余裕に見える表情で、ジャンは笑い掛けた。
明後日の朝、島に迎えが来るまでのお遊び。お互いがお互いを一番に考えるというゲーム。
隔離された島の隔離された部屋で二人きり。
マジックの伸ばした手をするりと逃げて、ジャンはキッチンのある方へ向う。
「なんか飲み物持ってきます、マジック」
「ああ、頼むよ」
マジックは本を探し、テーブルに近付いた。
テーブルの上にはコップに浮かべられた赤い花。
ハイビスカスはもう萎れかけていた。
バババババと引っ繰り返されたバケツは二人を部屋に閉じ込めた。
そして穏やかな閉じた空間。密な雰囲気は訪れない。
マジックは浮かぶハイビスカスを指で撫でた。明日にはもうゴミ箱行き。
そして首に掛かる首飾りのトップを手に取り、指で撫でた。
「気に入りましたか?」
後ろから掛かるジャンの声ににっこり頷きを返した。
「ああ、可愛らしい」
「よかった。でもちゃちだからすぐ壊れそうですけどね」
ストローの刺さったレモネードをマジックに手渡した。
「壊れるかな」
「壊れますよ」
ジャンはマジックが座っていたソファーに座り、自分のアイスレモネードをコップから直接飲んだ。
マジックがソファーに戻る前にジャンのコップは空っぽ。
「置いてきます」
一声掛け、ジャンはキッチンへ戻って行った。
マジックは追い掛けず、ソファーに腰掛け、本を脇へ置き、ストローに口を付けた。
爽やかなレモネードは、ほんの少しの苦味があった。



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11月9日の誕生石は「琥珀」
石言葉は「誰よりもやさしく」
逃げというより逃がし。