レッド・コーラル


びしゃびしゃと水たまりを蹴る足元が音を立てる。
急に降り出した雨に、三人は屋敷に戻るため駆け足。
「しんちゃーん! きもちいいっ!」
「はいはい。いいから走れちびっこども」
小さなジャンと小さなアスと保護者代理シンタロー。
三人でお散歩中に夕立に遭遇。
シンタローは風邪を引かれたら困ると焦っていたが、島育ち子供二人は楽しそうだ。
「おおあめー!」
にっこり笑顔で先頭を走るジャンと、無表情がいつもより和らいでいるアス。
大粒の雨に降られ、チョロチョロ走って、それでもなんとか無事に帰宅。
「ああもう! そのまま三人でお風呂に入ってきなさいっ!」
犬が身震いするように頭を振っているジャンを捕まえ、アスを抱き締め、シンタローをタオルで乱暴に拭き、マジックが命じる。
シンタローとジャンとアスは屋敷の大きな日本式のお風呂に放り込まれた。


「ほらうろちょろすんな。体、洗ってやっから」
「ひとりでできるもーん!」
「じゃあ早く洗っちゃいなさい」
ジャンは黄色いアヒルのスポンジ。アスは白いウサギのスポンジ。ボディーソープで体をごしごし。
それを注意しながらシンタローも体を洗う。
体を洗い終えた二人はバシャンと小さな洗面器にお湯を溜め泡を洗い流す。
シンタローはシャワーで残った泡を流してやり、二人を浴槽へ。
「かみのけはー?」
「温まるのが先。風邪引いちまうよ」
子供たち用の水に浮くアヒルと水鉄砲を渡し、お湯に浸かる。
ジャンは水鉄砲に水を入れるとシャワーヘッド目掛けて撃つ。
「……お見事」
「えへへ」
狙ったものに当てていく黒髪の幼児。
アスがネジを巻き水面を走る手の平サイズのボートにも当て沈没させた。
「そろそろ髪洗うか……」
温まっただろうと呟くシンタローに、犬かきのように泳ぎながらジャンが近付いた。
「しんちゃん、それ、どーしたの?」
「へ?」
ジャンが指差すのはシンタローの右胸。
そこには肉の盛り上った、一筋の傷跡があった。
「ああ、士官学校の演習中にちょっとな。アラシヤマにつけられた」
「あらしちゃん?」
「ああ。ナイフでザクっと。まあすぐに10倍返しにしてやったけど」
「……いたくないのか?」
ジャンの後ろで控えめにアスが尋ねた。
「もう痛くねえよ。それに傷は男の勲章だしな」
「ないたー?」
「泣かなかった」
「すごーいっ!!」
感心した様にジャンが声を上げ手を叩く。
ふっと笑い子供たちの頭を撫でる様にポンポンと叩き、シンタローは浴槽から出た。
「髪の毛洗ってやるから、ほらジャン、こい」
「はーい! しみるー?」
「しみないやつ買ってきたから大丈夫だろ。ほら目ーつむってろよ」
風呂椅子に座ったジャンはぎゅっと目をつぶり手で顔を覆う。
シンタローはシャンプーを手に取りガシガシとジャンの頭を洗った。
「流すぞー」
コクンとジャンが頷くのを見て、シャワーで泡を流す。
シャワーの音が止まり、ジャンが手で顔を覆ったまま首を傾げた。
「もーおしまい?」
「ああ、もういいぞ。もう一回お風呂に浸かって50数えたら出ていいぞ」
「はーい!」
シンタローがアスの長い髪を洗う中、ジャンが湯船の中で数を数える。
「いーち、にーい、さーん、ろーく」
「さん、よん」
ジャンが間違えるたびにアスが突っ込みをいれ正していく。
「よーんじゅきゅ、……よーんじゅはち」
「……どうしてもどる」
「だってアスまだなんだもん」
アスも髪を洗ってもらい、湯船に戻る。
「はい、いっしょにかぞえよー? いーち、にーい、さーん、よーん、はーち」
「……ご、ろく、なな、はち」
「きゅー!」
のぼせる寸前で50数えた子供たちは体を拭いて服を着替えて、待ち構えていたマジックにつかまり、一緒のソファーで仲良く麦茶を飲んだ。



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月日の誕生石は「レッド・コーラル」
石言葉は「寛容と冷静な愛情」
アスの髪、長いから洗うの大変そう。